「ういーっす。帰ったで
外行きの業務から帰ってきたバイト先のホームセンター勤務の、チーフ
「あ、はい。でもこれ、不良燃料ってそんなレベルじゃないですよ。混合油じゃなくて、ツーサイクルエンジンオイルをそのまんま突っ込んでます。動くわけないです。こういう工具、使ったことなかったっぽいですね」
ブーッ。豊見山が呆れのあまり、噴き出す。
「ひっでえな。受けた時に、その場で気づけなかったのか?」
「受けたのパートさんですし。それも大分がなられたみたいで。かわいそうに」
「客に怒鳴られてそんな余裕もなかったか。その捨てた燃料、取ってあったりする?」
「一応、証拠ってことで。難癖付けられた時の為に」
「ん。上出来。相変わらず優秀。ソイツに捨てるなって書いとけ」
パソコンに業務結果を打ち込みながら、豊見山は頭を掻きむしる。
「それで、どうします? コレ」
「修理になるな。ウチじゃどうしようもねーもん。メーカーに送って、修理の見積もり貰って、送料込みの価格で、修理するかどうか電話して聞く。あ、その前に、修理に出していいかの確認も客にとらなきゃいけねえ。送料発生するからな」
「……でもこれ、特売の安いチェーンソーですよね。ヘタすれば修理費と往復の送料との値段、購入額とそんなに変わんないんじゃ……」
特売価格! と派手に銘打った価格の数字を、彰人は思い出す。
「ま、送料込みで、安く見積もって最悪、万ってところかねえ。前例からすると」
「マジですか……文句つけられませんかね」
「間違いなく面倒くさい客になると思うな」
「うええ……何とか穏便に済ませられませんかね」
「知らね。壊したの客のほうだし。お、PHSだ。……おお、うん、うん。あー、じゃあ向かわせるわ。……っしゃあ。
自分はフォークリフトや玉掛けの免許あるからって楽しおってからに。
特に天井クレーンくらい、彰人でも運転できそうなものなのだが。UFOキャッチャーの要領で……などということをこの間豊見山にボソッと言ってみたら「それをお前にやらせたら、会社と一緒に俺も殺されるわ」と半笑いされた。
彰人は力なく「はーい……」と返事し、現場に急行した。
終業時刻。
今日も一秒たりとも残業はしねえぞ全員そのつもりで、という豊見山の号令のもと、閉店業務を爆速で片付け、彰人と豊見山は店舗外の自販機の前で一服していた。
一応、ジュースは豊見山のオゴリである。
「今日の
「え。そうですかね?」
「いつも淡々と無表情で仕事こなすくせに、随分とご機嫌そうに見えたぞ。ガッコで何かあったん? 彼女でもできた?」
「いえ、別にそんなことは……」
ぐい、と彰人はペットボトルをあおる。
彼女とまではいわないが、女の子絡みで少し、良いことがあったのは……まあ、事実ではある。
「でも千鶴っちゃんはようやっとるよ。学業も部活もあるのに、
メチャクチャ難癖付けられましたけどね……と苦笑する彰人。結局、例のチェーンソーは、修理に出すことに決まった。
「まあ、社会勉強だと思って、経験値積む意味でやってます。接客やってると、大人にも本当にいろんな人がいるんだなあって。どっちかというと悪い意味で……」
違えねえ。豊見山は星空を見上げながら返す。
「接客は、義務教育化して、内申書の査定にデッカイ比重を置かせてもいいと思うんだが、どうだろう」
「いいですね。少なくとも店員に対して、横柄な態度はとらずに、ちょっとは優しく接しようかなって思える人がそれなりに増えると思うので、俺はどっちかというと大賛成です。優しい世界に一歩前進できると思います」
だよなあ、ははは、と笑い合った。
色々ガサツで、無茶ぶりをさせられる時もあるが、人当たりが悪い人間ではないので、憎み切れないのがこの豊見山という男である。
「それはそうと千鶴っちゃんはアレだろ? 稼いだカネはゲームの課金とか、推し活とかじゃなくて、真っ当に進学のための資金ってわけだろ? なかなかおらんぜ、今時」
「まあ。その……やむに已まれぬ事情みたいなのが、あるんで……」
言葉に詰まりながら、彰人は返す。
「俺は親ガチャSRで、何の不自由もなく育ててもらって公立の大学行ったはずなんだけど、大学で覚えたのは遊びだけ。環境だけでいえば、そこそこな
「反面教師ってことで、参考にさせていただきます」
「そうしてくれや、本当に」
本人も相当後悔しているのか、フォローも何も欲していない口ぶりで、豊見山はペットボトルを乱雑にゴミ箱に突っ込んだ。
「そういえば、二週間前に失踪した女の社員さんの代わり、まだ採用決まらないんですか?」
「カウンターやレジ業務したくないって条件出してくる連中ばっかだってよ。しかも時給も低いしなウチ。低賃金で労働力使い倒す魂胆が見え見えだっつの。人間欲しいなら、出すもんだせやって」
「一人の時給増やして採用ってなったら、みんな『ズルい! 不公平!』ってなるから、仕方ないんじゃ?」
「だったら全員上げろっての! これならフコーヘーもヘチマも無いだろ!」
「ですよね」
六月の末に、カウンター業務や夜間就業もこなせる女性社員が無断欠勤したかと思うと、実は家にも帰って居らず、行方不明になるという出来事があった。アパートで一人暮らしなので、捜索願い等も出されていなかったようだ。
おかげで、彰人の七月のシフトは週四がメイン、時には週五の週まで出るという過酷なものとなってしまった。一応、代わりが見つかれば、八月のシフトはその分空きを入れてもらうという条件を出したが(年収の件もあるので)、まだ採用が決まらないとなると、この条件も立ち消えとなる可能性も出てきた。
「ったく。今頃どこで何してるんだか」
「ドロンするような人には見えなかったんですけどね」
長い黒髪が特徴で、真面目で人柄も優しく、客からの評判も良かった。辞めたと聞いて、ショックをうける客も未だに多い。
「俺だってそう思うよ。何か事件とかに巻き込まれたんじゃねーだろーな」
「こんな平和な地方の小都市で、ですか? ちょっと考えられないです」
「どーだか。最近の日本、明らかに治安悪くなってるイメージだからな。お前も、金が欲しいからって、変な儲け話とかにゃ乗るんじゃねーぞ。絶対に裏があるからなそういうの」
その後、お疲れさん、と右手を挙げながら豊見山は宵闇の中に消えていった。