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七城尾花の夏、亡者の秋。そして厄災の里
七城尾花の夏、亡者の秋。そして厄災の里
天流貞明
ホラーホラーコレクション
2025年03月20日
公開日
1.7万字
連載中
 クラスメイトの七城尾花(ななしろおはな)が長期療養から復学する。
 その一報のもと、クラスに帰ってきた彼女は――なんと真っ白になっていた!!

 その姿は天使か、妖精か、はたまた神の使いか。

 そのまま文字の通り、髪も、肌も、眉毛も睫毛も何もかも真っ白な姿に豹変して帰ってきた七城尾花。
 その神秘的な見た目が嘘のように、底抜けの快活さまで得て、「パワーアップ」して帰ってきたのだ。

 彼女と隣の席で、ほぼ唯一の会話相手であった千鶴彰人は、戸惑いながらも、帰ってきた七城尾花と再び親しくなるが――この日を境に、街では様々な怪異が起こり始める。

 消える市民、クラスメート。五年前の大災害。彷徨う死体。「蟲」。人柱。贄。洋館に住まう亡霊。市を支配する旧家。封印の大神木。そして、千年の時を超え、現世に復活を果たさんとする厄災――。

 様々な魑魅魍魎が裏でうごめく中、七城尾花のひと夏の青春と、千鶴彰人の試練が幕を開ける!!

第1話 僕が、殺しました



「――はい。はい。ええ。ええ。な、名前は千鶴彰人ちづる あきと。ば、場所は県立九重高等学校。ええ、ええ、逃げません。逃げません! さっきも言った通りです。間違いなく、間違いなく――」


 千鶴彰人は大きく息を吸い込み、人生を擲つであろうその一言を絞り出した。


「間違いなく、僕が殺しました」


 殺した。僕が殺した。ついに、ついに言ってしまった。他に言い方はなかったのか? 「倒した」とか「破壊した」とか。いや、それではただのゲームやアニメだ。警察は本気にはしてくれまい。

 はあ、はあ、と全力疾走したかのような息をつき、喘ぐように、千鶴彰人は電話相手に続ける。


「――な、何を言っているかわからないとは思いますが、じ、じ、事実なんです。ほ……本当なんです! 僕がこ、殺したのは死体……。そう、死体なんです!」


 夜もふけゆく中。震える手と声で、至極剣呑かつ、支離滅裂な内容の電話を警察に必死に伝える千鶴彰人。


「ひっ……ひっ……ああ……」


 その胸元には、ひたすらに泣きじゃくり、しゃくりあげる小柄な後輩の女の子の姿がある。

 彼女の上半身を包んでいたセーラー服は、無残にも破かれている。下着が見えてしまうところを、それを隠すために、サイズの全く合っていない、自身のカッターシャツを彼女に着せている。


 警察に電話をする間も、彰人は不器用に彼女の頭や背中を半ば本能で撫で、どうにか宥めて落ち着かせようとしている。自分自身でさえ、思考や情緒が滅茶苦茶になっている中なのに。


「――何を言っているか、わ、わからないと思うので、とりあえずげ、現場で皆様方、警察の方々を待ちます。ええ、まかり間違っても、逃げたりはしません。信じてください……!! ――ええ、ええ。それでは」


 千鶴彰人は、なおも震える手で、スマホの通話をオフにした。そして、はあー、と天に向かってため息を吐く。肺の中のものを、全部放出するかのように。

 包み隠さず、自分の行った全てを、警察に告発した。そう、包み隠さず、全てを伝えてしまったのだ。

 罪状。罪状は?

 ……少なくとも、死体損壊は間違いない。

 未成年ということで、どうなるかはわからないが、これで何かしらの罪に問われたとしたら、どうすればいいか。

 どうすれば?

 では、どう動けば正解だった? あの状況で。胸に縋りつく、このか弱く助けを求める声を、お前は無視できたのか? どうなんだお前は。お前は。さあ答えてみろ!

 彰人の答えは――明確だった。答えなど、最初から一つしかなかった。


「せん……ぱい。あっ……ああ……わた、わた……ひっ。ああ……」

「大丈夫。もう、大丈夫だよ。さくらちゃん」


 自分のとった行動に、悔いはない。

 いま、胸の中で泣きじゃくる後輩に、万が一のことがあってみろ。それを、手をこまねいて見ている情けない自分を想像してみるがいい。それこそ自身を許せなかっただろう。違うか!?

 さくら、と呼ばれた後輩が、彰人を抱く力が強くなる。30㎝の身長差で、彰人の胸に顔を埋める形になっている彼女を、包み込むように彰人は優しく抱きしめる。


 しかしながら――警察が到着したら、全てを説明するとは言ったものの、これを、この状況を、いかにして順序だてて説明すればいいのか。


 彰人たちの目下には――首無し死体が突っ伏している。

 そう、首無し死体だ。

 これだけでも、凄惨で、尋常ならざる事態だ。大事件だ。

 だが――実態は、それを遥かに上回る事態が、つい先程まで、彰人に襲いかかっていたのだ。


 死体の首根っこからは、首を繋ぎとめていた頚椎が、わずかに顔をのぞかせている。テレビドラマのチープな首無し死体の描写では、お目にかかれないおぞましさがそこにはある。


 刎ね飛ばされた首は、遠く離れた場所に転がっている。


 そしてその首は、完全に肉が腐り果てており、半分は髑髏のような状態だ。腐汁と腐肉が流れ出し、眼窩にはうねうねと蛆が這っている。

 首筋にもぞもぞとした感覚を覚えた。蛆である。彰人は反射的にそれを手で払う。


 首無し死体をもう一度見てみる。

 纏っている服は泥まみれでボロボロだが、彰人が在学する県立九重高等学校の制服であると、辛うじてわかる。


 半袖から露出している肌の部分は腐っており、崩れた腐肉の隙間からは骨と蛆が見えている。なおも垂れだす腐汁は彰人とさくら、どちらにも付着してしまっており、酷い臭気を漂わせている。だが、二人とも既に嗅覚が麻痺しており、既に何も感じなくなってしまっている。


 一体、どうしてこんなことになったのか。

 これは、一体何なのか。

 限界に達そうとしている思考をに鞭を打ち、フル回転させてみる。

 すると、この事象に至る前の、数々の、伏線とでもいうべき過去の出来事が、走馬灯のように浮かんできた。

 この発端はどこにあるのか。


 記憶をさかのぼってみれば――やはり、あれだ。あれしかない。

 七城尾花ななしろおはなが、長期療養から「あの姿」になって戻ってきたこと。

 一連の事件には関係ないのかもしれないが、それが、全ての始まりだったように思えてくる。


 今から遡ること、ちょうど一週間前のことである。

 そこから、日常は変質し始めていたのかもしれない――。



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