「・・・・・・落ち着いた?」
「・・・・・・ハイ。ありがとうございます」
僕に割り当てられた居室で、警備員さんと向かい合って紅茶を飲む。警備員さんはハヤトの居室からここまで僕を引きずってくると、なぜか僕を優しく椅子に座らせて、なぜか僕に紅茶なんて入れてくれた。普段けっこう雑に僕を扱ってるくせに。
「面談は20分って決められてるんだから、タイマー鳴ったら止めないと」
「ア、それはもう、すみません。ってか、20分って足りないんですよ。もうちょっと伸ばせないですか?」
「寝言はその影響されやすさをなんとかしてから言いな」
びっ、と額にデコピンされる。「いたっ」と額を抑えれば、「はーい軟弱ー」なんて言われて、「うるさいですよ! デコピンされたら誰だって痛いでしょ! マッチョでも痛い!」なんてムキになって言う。
「それより、まだ心理研究員の部屋、空かないんですか?」
「まだらしいね。今建設ロボットが頑張ってるらしいよ。いいじゃん居室のままでも。掃除も洗濯も炊事もロボットがやってくれるんでしょ?」
「良くないです。気分的になんか嫌です」
「私は居室が良いけどな」
「部屋交換しません?」
「セクハラか? 訴えるぞ?」
「セクハラじゃありませんって! ほらすーぐセクハラって言う! やめて!」とわめけば、警備員さんがクスッと笑った。思わず言葉を止める。初めて見た。警備員さんの笑顔。
「次の面談はまだ誰か決まってないけど・・・・・・。この三人の中から、好きな人選んどいて。その三人がもうそろそろ面談しないといけないやつら」
すぐ真顔に戻った警備員さんに、三冊のファイルを渡される。No.939、No.331、No.841。
「一ヶ月ごとに面談が義務なんでしたっけ?」
「そう。ま、厳密に一ヶ月じゃなくて、だいたい一ヶ月に一回以上面談。今いるやつらは少ないからすぐ終わるけどね」
「だから心理研究員は暇なんだ。暇人、暇を満喫しろよ」なんて意地悪を言いながら居室を出る警備員さん。心の中でべーっと舌を出して見送る。
そしてよたよたと、居室の中にあるベッドに歩いて行って、とすっ、と倒れ込む。
「あー、人の感情を知るのって、たのしい。癖になりそう」
顔が勝手ににやつくのをそのままにしながら、何かに誘われるように、僕はそのまま眠りについた。