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No.1088『ハヤト』――03

 「・・・・・・落ち着いた?」

 「・・・・・・ハイ。ありがとうございます」


 僕に割り当てられた居室で、警備員さんと向かい合って紅茶を飲む。警備員さんはハヤトの居室からここまで僕を引きずってくると、なぜか僕を優しく椅子に座らせて、なぜか僕に紅茶なんて入れてくれた。普段けっこう雑に僕を扱ってるくせに。


 「面談は20分って決められてるんだから、タイマー鳴ったら止めないと」

 「ア、それはもう、すみません。ってか、20分って足りないんですよ。もうちょっと伸ばせないですか?」

 「寝言はその影響されやすさをなんとかしてから言いな」


 びっ、と額にデコピンされる。「いたっ」と額を抑えれば、「はーい軟弱ー」なんて言われて、「うるさいですよ! デコピンされたら誰だって痛いでしょ! マッチョでも痛い!」なんてムキになって言う。


 「それより、まだ心理研究員の部屋、空かないんですか?」

 「まだらしいね。今建設ロボットが頑張ってるらしいよ。いいじゃん居室のままでも。掃除も洗濯も炊事もロボットがやってくれるんでしょ?」

 「良くないです。気分的になんか嫌です」

 「私は居室が良いけどな」

 「部屋交換しません?」

 「セクハラか? 訴えるぞ?」


 「セクハラじゃありませんって! ほらすーぐセクハラって言う! やめて!」とわめけば、警備員さんがクスッと笑った。思わず言葉を止める。初めて見た。警備員さんの笑顔。


 「次の面談はまだ誰か決まってないけど・・・・・・。この三人の中から、好きな人選んどいて。その三人がもうそろそろ面談しないといけないやつら」


 すぐ真顔に戻った警備員さんに、三冊のファイルを渡される。No.939、No.331、No.841。


 「一ヶ月ごとに面談が義務なんでしたっけ?」

 「そう。ま、厳密に一ヶ月じゃなくて、だいたい一ヶ月に一回以上面談。今いるやつらは少ないからすぐ終わるけどね」


 「だから心理研究員は暇なんだ。暇人、暇を満喫しろよ」なんて意地悪を言いながら居室を出る警備員さん。心の中でべーっと舌を出して見送る。


 そしてよたよたと、居室の中にあるベッドに歩いて行って、とすっ、と倒れ込む。


 「あー、人の感情を知るのって、たのしい。癖になりそう」


 顔が勝手ににやつくのをそのままにしながら、何かに誘われるように、僕はそのまま眠りについた。





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