「じゃあ、お願いします」
『ハイ、お願いします』
僕は、前回と同じパイプ椅子ではなく、廊下に敷いた畳に正座で座っていた。そして、ぺこりと頭を下げる。アクリル板の向こう側の居室にも、一面に畳が敷かれており、男性が正座してお辞儀を返していた。
顔を上げた本日の面談相手は、平凡な、というか、どちらかというと柔和な顔立ちの男性。「はやとせんせい」というアップリケのついた、幼稚園の先生が使うようなエプロンを着けていた。
「あの、どうして居室に畳が敷いてあるんですか?」
『ア、僕、実家が畳だったんです。だからか畳じゃないと落ち着かなくて、用意してもらったんですけど』
『じじくさいですかね、ハハハ』と笑う姿はどこから見ても普通の同年代、僕の知り合いに一人は居そうなタイプだった。
「その、幼稚園のエプロン? は?」
『保育園です』
「あ、幼稚園ではなくて保育園?」
『ハイ、保育園です。幼稚園と保育園はかなり違いますからね。間違えると両サイドから大目玉食らいますよ~』
男性と二人でハハハ、と笑う。『っていうか、どうして心理研究員さんも畳に座ってるんですか?』「いや、相手と同じようにすれば、気持ちがもっと分かるかなって」『それは、確かに? イヤ、新しい心理研究員さんは面白いですね』
なんか気が合う。久しぶりに同年代の男性と話したからか、話が弾む。もう少し雑談するか、なんて考えていると、後方から圧を感じた。そっと後ろを伺う。
腕を組んで壁にもたれかかっている警備員さんが、制帽の下で目をらんらんと輝かせてこちらを見ていた。早く本題に入れと。分かってますよ。
僕はすうっと息を吸った。
「では、いまからあなたにいくつか質問をします。答えたいように答えて構いません。その成果を、中毒者治療の研究へ使用します。拒否権はありません」
『ハイ、どーぞ』
慣れた様子で頷く男性。二回目の面談。まだ緊張ぎみの僕は一回深呼吸して、まず既定の質問から聞いていく。
「あなたの番号を教えてください」
『No.1088。ハヤトとも呼ばれてますね』
「生年月日は?」
『2135年10月15日です』
「同定できました。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。同タイミングで男性も、『ハイ、ありがとうございます』と言いながら頭を下げていた。短めの黒髪がふぁさりと揺れる。イケメンか否かはともかく、清潔感のある人だと思った。
「では、あなたは何の中毒ですか?」
『ア、・・・・・・私は、小児性愛、中毒です』
物っ凄く言いたくなさそうに、No.1088は言った。
中毒者No.1088、通称『ハヤト』。
2162年2月14日、小児に対する不同意わいせつ罪で逮捕された、当時25才の男性である。