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第25話 鉱石採掘

 3階層に降りると鉱石が大量に壁や地面から突き出ていた


「これが原石ですか。凄い数」

「あぁ、そうだ。これを回収する」

「原石を見るのは初めてです」

「そうだったか」

「鉱石のダンジョンは珍しいですから」


 大抵の探索者が見た事あるのは武器や防具の形を作っている加工済みの鉱石

 雫も原石は初めて見る


 ……これが原石、奥まで続いてる。凄い量、それにこれは別の鉱石


 見渡していた雫はここにある鉱石が1つの種類ではないと気付いた


「これも……これも違う種類」

「複数の鉱石があるぞ」

「複数の鉱石!」

「これも珍しいのか?」


 1つの鉱石だけでは無い、複数の種類のダンジョンで生まれる鉱石があった

 鉱石は物によって硬さや加工の難易度、特性が異なる

 複数の鉱石が同じダンジョンで見つかるのは珍しい


「複数の鉱石が見つかるのは珍しいです」

「そうだったのか」


 迅は鉱石があるダンジョンを多く知る訳では無い為、これが普通だと思っていた


 ……そういえば前に見た場所は1つしか無かったな。なら結構運が良いな


 ……こんなダンジョンがあるなんて……


 多くの鉱石が手に入るダンジョンの中でも恐らく種類に関しては上澄みのダンジョン

 5級と言う危険度の低さも良い部分

 回収が難しくない

 雫は考え込む


 ……このダンジョンは欲しい。こんな好機逃したくない


「どうした?」


 考え込んでいる雫を見る

 雫はバッと顔を上げて迅を見て口を開く


「迅さん、このダンジョン、クランで所有していいですか?」

「構わないぞ。寧ろ他のクランに取られる前にして貰えると助かる」


 他のクランが所有権を得ると回収が出来なくなってしまう

 そうなってしまうと式の店に下ろせず安く修復が難しくなる。それは迅にとっても困る


「では鉱石の回収が終わったらすぐにでも」

「そうだな。早い方がいいか。ならさっさと回収するか」


 鉱石の回収を始める

 無駄な傷が付かないように慎重に端から砕く

 傷が付くと品質が落ちて価値が下がる

 鉱石が砕けて小さくなると回収が難しくなる

 迅の指導の元、慎重に行う


「初めてですが頑張ります」


 緊張した様子で鉱石の前に立つ


「焦らなくていいから慎重に回収だ。傷付けないようにな」


 元々は迅1人で回収する予定だった

 雫がゆっくりでも1人で回収するよりは量が多い


「は、はい、落ち着いて慎重に……」

「次はこの鉱石を取るから地面か壁の下の方に生えてる奴を取ってくれ。この鉱石は結構傷つき易いから気をつけろよ」

「はい! 気を付けます」


 1時間程度鉱石を回収した後、2人は一度休憩を挟む

 疲れた様子の雫は座り込んで飲み物を飲んで休む

 鉱石採掘で普段使っていない筋肉を使っていつもより疲労が溜まっているのだろう


「もう結構回収出来たな」

「ですね。回収作業にも慣れてきました」


 ……良い想定外だな。雫の訓練も順調で鉱石回収も早い


 時間がかかると思っていた戦闘が想定より早く終わった

 元々雫にはダンジョンに潜れるだけの体力や身体能力が備わっていた、その上で高い観察能力

 剣の腕は無くともそれらで補えている


「もう少し鉱石を回収したら戻るか」

「分かりました」


 ……足音、魔物……じゃないな。人か


 迅が音に気付く

 上に続く階段側から足音がした

 一瞬、魔物かと思ったが音が違う

 猿の魔物は裸足

 一方、この足音は靴のような硬い物が地面に当たる音だ

 後からダンジョンに入った探索者だろう


「ほう、鉱石のダンジョンか、それも複数の鉱石か」


 槍を手に持ったマントを羽織り軍服風の格好をした探索者

 目立つ派手な装飾が施されたマントが嫌でも目につく

 中性的な顔立ちで中性的な声で性別の判別が難しい

 探索者は2人に気付く


「おや、先客が居たか」


 ……2人、剣と防具、前衛2人のパーティか


 素早く2人の武器と防具を確認する


「迅雷」


 ……迅雷? あのマーク、そうか


 マントに描かれたマークは初めて3級ダンジョンに挑んだ時に見た5人組がそのマークが装飾された服を着ていた

 そして迅雷はクラン迷宮狩人の探索者

 迅の中で合点がいった

 確かに軍服の探索者はあの場に居た

 あの時と違い派手な装飾はマント以外には見当たらない


「君達はパーティか? 前衛2人か」

「クランのパーティです」


 雫がそう答える

 それが牽制だと迅は分かった

 このダンジョンは大手のクランも欲しがる鉱石のダンジョン

 そこに大手クラン迷宮狩人の探索者が来た

 まだこのダンジョンは所有権を得ていない

 となれば所有権を得ようとするだろう


「クランのパーティ……どのクランだ?」

「名前は月詠ツクヨミ、小規模のクランです」


 ……そんな名前だったのか。月詠か覚えておこう


 迅はクランの名前を知らなかった

 ここで今初めて知った


「小規模のクランか存続は決まったのか?」

「はい、少し前に」

「それはおめでとう、それでこのダンジョンの所有権は?」

「まだ持っていませんがこれから申請します」

「そうか」


 少し考えた後、雫に近付く


「なら譲ってくれないか?」

「お断りします。先に見つけたのはこちらです」

「金は出す。俺のクランは金はある」

「お断りします」


 迅雷は圧を掛けているが怯まずに雫は答える

 大手のクランなら確かに結構な額でも出せるだろう

 しかし、このダンジョンはその提示されるであろう金以上の利益が見込める

 雫はそう踏んでいる


「そうか、なら仕方ない」


 諦めたように言う

 雫はホッとした、その瞬間

 ガギィンと周囲に金属音が響き渡る

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