雫は式の店で購入した防具を身に付けていた
女性用の防具、迅のように重要部位だけでは無く鉱石で作られた板で全身を守っている
後衛用のワンピースのような服とは違うからか雰囲気も異なる
……重そうな防具だな。だが身を守るには適しているか
「すみません、少し迷ってしまって」
「問題ない。まだ集合時間前だ」
「なら良かった。……こんな場所にダンジョン有ったんですね」
草木に隠れて少し離れた場所からでは入口が見えづらい場所にダンジョンがあった
「あぁ、7、8年くらい前からあるダンジョンだ」
「そうなんですか!?」
……7年以上前からあって他の探索者に見つかっていないダンジョンなんてあるんですね
全てのダンジョンを把握しきれている訳では無い
探せば他にも発見されていないダンジョンはあるだろう
「……いや、8年よりもっと前だったか。何年前だったか俺が探索者になりたての頃に見つけた」
迅が探索者になりたての頃に見つけて暫く訓練に使っていたダンジョン
5級ダンジョンで群れの魔物が出てこない為、訓練には丁度良かった
「なりたて……迅さんは何歳から探索者になったんですか?」
「覚えていないな。ただ8年以上は探索者を続けている」
……8年前となるとまだ10代中盤くらいの年齢ですよね。珍しくは無いけど何故探索者に
若いうちから探索者になる人は多い
人間の全盛期というのは短い、技術は上がっても肉体は段々と衰えていく
動けるうちに稼ぐと言う考えもあるくらいだ
金が欲しかったから、異能を持っていたから、魔力総量が多く魔法の才能があったからなどの理由がある
……金の為にしては少し命を顧みなすぎる。かと言って探索者の才能があるようにも見えない
強いダンジョンを攻略出来ればその分金は手に入る
しかし、死んでしまったら元も子も無い
実際金を求める探索者の殆どは身の丈に合う危険度で戦っている
迅は自分の命を気にしていない、少なくとも雫がそう感じ取れる戦い方をしていた
異能は持たず魔力量は平凡、魔法も身体強化の魔法と新しく手に入れた魔法の2つのみ、剣術や武術を習っていた風にも見えない
「どうした? ダンジョンに入るぞ」
雫は迅の声にビクッと身を震わせて首を横に振る
「あっ、いえ、なんでもありません。行きましょう」
……別に理由なんてどうでもいい。協力してくれるのならなんでもいい
ダンジョンの入口から階段を通って1階層に着く
1階層の見た目は普通の洞窟型と変わらない見た目をしている
黒いモヤが集まり魔物が姿を現す
数は1体、1m程度の二足の猿のような見た目の魔物
「戦ってみるか?」
「は、はい、やってみます」
雫は腰に携えた鞘から剣を抜く
両手で剣を握り締めて剣先を前に向ける
雫の身体が震えている
「震えは動きに大きく影響する。少しでも剣がブレれば思うように斬る事は難しい」
そっと肩に手を置く
雫がビクッと身を震わせる
後衛の時と違い真正面での魔物との対峙
雫は嫌でもあの日の事を思い出して身体が震える
「身体強化の魔法は使ってるか?」
「は、はい、使っています」
「なら落ち着いて相手の動きを見ろ。攻める必要は無い」
「……せ、攻める必要が……な、無いとは?」
恐怖に震えた口で声を出す
「お前は攻めの技術ではなく守りの技術を覚えろ。相手の攻撃を避ける、剣で捌く、そして反撃この3つで良い」
剣を持ったからと言って雫が前衛で戦う訳では無い
あくまで時間稼ぎや露払いの為
なら攻めの技術よりも身を守る守りの技術を得た方が良い
「な、なるほど……」
……守りの技術、避けて捌いて反撃……相手の動きを見る
「それに危なそうならすぐに俺が動く」
迅はそう言って自分の剣の柄に手を置く
この場に雫1人では無い
自身よりも強い、目の前の魔物の比では無い実力を持つ探索者が居る
……そうですよね
迅が居ると理解すると自然と震えが収まる
迅の実力は知っている、安心感が強い
落ち着いて魔物を見る
猿の見た目をした魔物、この魔物は体格が大きい訳でも数が多い訳でもない
猿の魔物は雫に飛びかかり襲いかかる
目を逸らしそうになるが堪えて魔物から目を離さない
……攻撃は……避ける
動きに合わせて構えを解き半身反らした
反らした事で飛びかかってきた猿の攻撃は当たらず空を切る
猿が着地する前に剣を構え直す
……次は反撃! 今がチャンス
剣を握り締めて猿目掛けて剣を大振りで振るう
猿は無防備な背中を切り裂かれて消滅した
「や、やったぁ。倒せた」
「やはり魔物の動きの観察は得意か」
雫は後衛支援職として戦場の味方や魔物の動きを見ていた
特に敵の攻撃に障壁を合わせるのは動きを観察していないと出来ない事
「そうですね。人や魔物の動きはよく見ていたので動き出しや流れを見るのは得意です」
「その調子で行けば道中の魔物程度であれば捌けそうだな」
「頑張ります」
魔物を倒せた事で自信が付いた
「……その防具重くないのか?」
「この防具ですか? 防具の中でも軽量な物を選んだので
……ちょっと胸元がキツいけど
オーダーメイドでは無く店に並んでいた物の為、一部のサイズが合っていない
「ほう、そうか」
「どうかしました?」
「俺もそう言ったタイプの防具にするか考えていてな」
考えた末に借りた防具は軽防具、殆ど重さを感じず動きづらさも殆ど無い
このタイプの防具を迅は気に入っているが魔物との戦闘で攻撃を受けた時ほぼ確実に負傷するのが気になっていた
虎の攻撃も深い傷は避けれたがもう少し深く入っていたら致命傷だった
……このタイプ……確かに迅さんの戦闘スタイルは速度重視という訳でもないですし
迅の動きは早いが速度に特化したタイプの戦い方はしていない
特化していないバランス型
「……良いかもしれませんね。迅さんは見た限りバランス型の戦闘スタイルですし新しい魔法で速度は補えそうですし」
「今日式に言ってみるか」
雫が魔物と1体ずつ戦い下の階層に向かう