式が防具を持って奥の部屋に入っていった
「何で剣を買うんだ?」
「高い等級に行くなら自分でも戦う術が必要かなと思いまして、少しでも戦えるようにしたら変わるかと」
……護身でも変わると思いたい……剣を舐めてるのかとか怒られませんよね?
若干の不安を持ちつつ答える
クランを大きくするのなら4級は勿論、いずれは3級にも挑む事になる
そうなれば魔法だけで対応出来るとは限らない
特に雫は攻撃魔法は不得意で習得をしていない
「なるほど、確かに必要だな」
「はい、最も剣術はからっきしなのですぐには役に立ちませんが」
雫は魔法ばかりで剣術、武術は学んでいなかった
支援に徹していた、だからあの時のように孤立すると為す術が無い
後衛支援職の基本の立ち回り
「戦闘関連はそんな物だろう。すぐに出来るものでは無い」
迅の剣の腕も数年間ダンジョンで戦い鍛え上げた物、一朝一夕で作り上げた物では無い
雫が迅クラスの剣の腕を得るには同じように数年の研鑽が必要となる
「ですね。気長にやります」
……蠍のような多い群れだと俺だけでは引き付けられないから雫が戦闘出来るようになるのは助かるな
同時に10体も出てくると迅が数体と戦っている間に後衛の方に何体か行かせてしまう可能性が高い
そうなればすぐに援護に回るのは難しく自衛が出来ないとやられてしまう
1人の時なら魔物が迅に完全に向いていたが複数人だとそうはいかない
「ダンジョンに潜らない日は道場で訓練をする予定です」
「道場か」
「迅さんは行かないんですか?」
「道場に行くならダンジョンに潜るからな」
道場に行っても金は稼げない
それならば魔物で実戦経験が詰めて魔石で金も稼げるダンジョンに潜るのが迅という男
「流石、ただ気をつけてくださいね?」
「あぁ、気をつける。流石に今回は調子に乗った」
蠍の魔物を倒せたから行けると思い痛い目をあった
迅は調子に乗ったと反省している
奥の部屋から式が出てきて戻ってきた
「防具は明日の夕方に取りに来て」
「夕方だな。分かった」
「別の防具貸し出そうか?」
「……そうだな。防具を貸してくれ」
傷は雫のお陰で完治している
防具があればダンジョンに挑める
……貸し出しの防具なら挑むのは6か5くらいにしておくか
使い慣れていない防具で4級以上のダンジョンには挑まない
いつも通りの動きが難しい
ましてや普段使っているのは迅の体格や動きに合うように調整された防具
市販品の防具とは使い勝手が全く違う
「了解、並んでるので良さそうなのあれば使っていいよ」
「わかった」
迅は防具が並んでいる所に行き借りる防具を選ぶ
……どれにするか。サイズ的にこの辺だが色々あるな。いっそ普段とは違うタイプを試すのもありだな
防具を見ながら唸る
「そっちは買うの決まった?」
式は迅から雫に視線を移す
雫は少し考え込んだ後、1本の剣を手に取った
軽量な片手用の剣
「この剣を買います。幾らですか?」
「その剣は……」
チラッと値札を確認する
「4万円」
「4万!? 安いですね」
剣は基本的に10万以上する
ダンジョン鉱石の武器はピンキリだが基本的に高価だ
……4万……妙に安過ぎませんか?
値段が安いのは悪い事では無い
しかし、安過ぎる物は品質が悪いから値段が安い場合が多い
雫は訝しむ
「その剣は比較的小さいからね。それに安く鉱石を手に入るからってのもある」
「安く鉱石が?」
「偶に俺が鉱石を売ってる」
防具を見ながら会話が聞こえていた迅が答える
ダンジョンの中には鉱石が手に入るダンジョンが存在している
幾つものダンジョンを攻略している迅はそう言ったダンジョンに挑んだ事もありその為、定期的にダンジョンに潜り鉱石を回収を行う
その鉱石を式の店に安く売っているから式の店では装備を安く売れるのだ
人件費が式の分しかないのも理由の一つ
「なるほど、確かにそれなら安くなるのも自然ですね」
「品質は良いぞ。この店の剣は探索者になりたての時に愛用していた」
「そうなんですね」
……剣の質は私には分からないけど迅さんがそう言うなら大丈夫ですよね
初対面の式の事を信用は難しいが迅であれば既にかなり信用をしている
「防具もあるけど買う? 今ならセットで安くするよ」
「防具ですか。やっぱり剣を使うなら必要ですかね」
「説明よろしく」
式は迅に説明を全部投げる
迅はため息をつく
確かに剣を使う時の事は迅の方が詳しい
「……防具はある方がいい。前衛職と同じように剣で戦う場合、魔物との距離は近くなる。そうなれば当然魔物の攻撃が来る。攻撃を受けた際に防具があれば被害を減らせる」
「なるほど、確かに……」
「動きに自信があるならともかく俺のように動けないだろ?」
「そ、そうですね。迅さんのようには動けません」
現役の前衛職である迅の言葉は説得力がある
迅は防具によって助けられた事は多々あるから重要性をよく知っていた
「だが防具を着ければ安全という訳では無い。防具は多くの種類があるがそれは式が説明してくれそれには詳しくない」
「了解、防具には軽防具、重防具、色々とあるよ。それだけじゃなくて男性用、女性用もある」
式が防具が並んでいるところに雫を案内をして説明を始める
雫は真剣に説明を聞いて買う防具を決めた