身体強化の魔法を掛け直す
迅が接近して切りかかる
避けられ反撃で振るわれた前足の攻撃を剣で捌いていく
剣を傾けて受け流す
爪と剣がぶつかる音が周囲の
虎は素早い
素早い動きから放たれる爪による突き刺し
ギリギリで躱す
避け切れず防具の一部が破けた
皮膚までは届いていない
「ちっ」
……躱しきれなかったか。素早いな
両手に力を込めて切り上げる
切り上げで浅い傷を与えた
鋭い反撃が来る
反撃を避けて剣を振るう
その一撃は爪で受け止められる
ジリジリと押し合う
虎は全体重を掛けて押し込む
魔力を手袋に注いで膂力強化をして押し弾く
虎は弾かれて着地、直後動き出す
迅は踏み込み着地した瞬間を狙い剣を振るうが避けられた
「なっ……」
迅は驚愕する
剣が当たらなかったからでは無い、目の前に居た虎の姿が突如消えたのだ
迅は目を離していない、なのに見失った
……どこに移動した
周囲を確認しようと視線を動かす
横に視線を向けた瞬間、迅の身体は宙を舞った
「グッ……」
横から突如大きな衝撃が迅を襲った
吹き飛ばされて地面を転がり壁に当たる
衝撃を受け血を吐く
「ガッ……グッ……」
……吹き飛ばされたのか? ……なんだ今、何が起きた
何が起きたか分かっていない迅はすぐに先程まで居た場所を見る
するとその場には虎が居た
迅が虎の姿が消えたと誤認した時は素早く死角に移動していたのだ
素早く立ち上がる
……折れては無い……だが動かすのは無理か
攻撃を受けた部分の負傷を確認する
左腕と左横腹に攻撃を受けたが骨は折れてはいない
身体強化のお陰だろう
最も折れていないだけで腕が痺れて動かせない
片手で剣を構える
虎は負傷した迅に襲いかかる
剣で何とか攻撃を捌く
ギリギリで躱して蹴りを叩き込む
脚力を強化した蹴りで虎の体勢を少し崩せた
素早く剣を構え直す
……これは無理だな。撤退か
片手を負傷した、胴体にも少なくないダメージが入っている
腕よりは酷くないが無視出来る程度では無い
一方虎側は幾つか傷を負っているが動きは一切鈍っていない
虎のたった一撃で形勢は劣勢に持ち込まれてしまった
今の迅は治癒の魔道具も無く治癒魔法も使えない、この場で治療が出来ない
防御の構えを取りながらチラッと階段のある方を確認する
撤退するには上へ続く階段まで逃げ切る必要がある
下の階層に逃げた所で後程接敵は免れない
上の階段に逃げなければならない
虎は迅の視線の動きに気付く
移動して階段に行く事を阻むように陣取る
これで撤退は難しくなった
……ちっ、読まれたか。魔力は余裕があるが果たして今ある魔道具で押し切れるか
膂力強化と脚力強化、使えば瞬間的になら押し勝てる
しかし、乱発すれば魔力が枯渇してしまう
迅は深呼吸をして集中する
地を蹴り接近する
片手で剣を大きく振り被り全力で振り下ろす
虎には避けられた
前足での攻撃を受け切るが追撃を食らう
防具を切られ傷を負う、傷は深くない
浅く踏み込んで複数回空を切る、近付かせない牽制の攻撃
その後に一旦距離を取る
……絶体絶命か
勝てる未来が見えない、勝ち筋が見えない
実力は間違いなく虎の方が上
落ち着いて剣を構え直す
防御ではなく攻撃の構え
守りに徹しても勝てない、攻めに変える
救援は望めない
まだ動けるが片腕が使えない以上、押し合いでは勝てない
俗に言う絶体絶命の危機である
……今の手札では勝てない。なら勝ち筋を作る
思考を巡らせる
考える時間は余り無い
虎と打ち合いながら勝ち筋を探す
押し合いの中、途中で剣を逸らす
剣を素早く横に振るい後ろに飛び退く
着地後、直ぐに接近して浅く踏み込み素早く剣を振るう
……実力差はあるがダメージは与えてる
今の段階でも攻撃は通じている
なら何の差があるか、それは明確で速度だ
速度に差があり過ぎる
だから凌ぎ切れなかったし反応が出来なかった
……速度、欲しいのは反応速度と身体能力、足りないなら別で補う
魔力を込める、魔法の発動だ
魔法は習得していなくても手順さえ覚えていれば起動が可能
「
しかし、魔法は発動しない
また魔力を込めて魔法を発動させようとする
発動させようとしている魔法は
魔法を試している間も虎は襲いかかってくる
ギリギリで攻撃を凌ぐ
防御の構えを取って攻撃に備える
失敗しても魔力は使う
……使えないか
絶体絶命に陥った時に突然魔法が使えるようになる事は……
魔法発動の手順を踏みながら戦い続ける
どんどん押されていく
攻撃を受ける
防戦一方で戦い続けている中で突然迅は言葉を紡ぐ
「挑め血濡れた世界へ、歩め往く道を、望め彼方の頂きを、祈りに願いに飢えて進め」
虎との戦いを続けながら無意識に言葉を紡ぐ
魔法を使う際、使用者は魔法名だけを口にする
攻撃を避けて一旦距離を取る
「歩みを止めるな、止まらぬ
しかし、魔法には魔法名以外にも詠唱と呼ばれる物が存在している
最も詠唱は現在では使われていない
使う必要が無いのではなく様々な理由で使われず結果忘れられて廃れた技術
「誰が為に駆けるか」
詠唱+魔法名、本来の魔法の行使手順
それを行う
「歌え
身体強化系の魔法を発動した
魔法が発動しても治癒の魔法では無いから変わらず左腕は動かない
素早く接近をする
片手で剣を鋭く振るう
虎は爪で受け止める
押し合う
素早く剣を引いて半身を逸らして体勢を崩させる
深く踏み込んで大きく振り切る
虎の足を深く切り裂く
切られた事に驚き虎は飛び退いた
迅は地を蹴り突っ込む
着地前に追い付き剣を振るい切り裂く
虎は怯まずに素早く噛み付く
軽く地面を蹴って横に避ける
そして靴に魔力を注いで脚力を強化して顔面を蹴り飛ばす
素早く鋭く複数回切りかかる
削っていく
……もっとだ
地を踏み締める
素早く突っ込み切り裂く
勢いのまま飛び上がり壁を踏み付けた
壁にしゃがみ込む
そして壁を足場にして踏み込んで蹴る
バネのように弾かれて剣を振るう
一閃
虎の胴体を切り裂く
着地して勢いを殺す
虎は動きを止めて消滅する
魔石が地面に転がった