階段を降り切って通路を進む
「ゴブリン……」
千尋は小声で呟く
女性の中にはゴブリンやオークに生理的嫌悪を抱く人が居る
千尋もそのタイプなのだ
迅は小声が聞こえて千尋の方を向く
「どうかしたのか」
「あっ、いやその……」
「あぁ、ちーちゃんはゴブリン種が苦手なんですよ」
「そうなのか」
「女性の中には生理的嫌悪を抱く人が居るんですよ。私は大丈夫ですが」
「そうか、あの調子で戦えるのか?」
「それは問題ありません」
「は、はい、戦えます」
話しているとゴブリンが目の前に湧く
数は5体、緑色の小人だ
人型に近いが人とは全く異なる見た目をしている
「ひぃ」
千尋が小さく悲鳴を上げた
雫が千尋の肩に手を置いて落ち着かせる
迅は剣を抜いて前に出る
……身体強化は……いや、少し試したいな
1人だと危険でやろうとは考えてなかった事を試そうと考える
今ならシールド系統の魔法を使える雫が居る
その上相手は5級、試すには丁度良い
「身体強化は要らない」
「え?」
「少し試したい。攻撃はしないでくれ」
「は、はい、分かりました
「分かりましたが何かあれば障壁は出しますよ」
……身体強化無しで戦う? 確かにここは5級で弱い部類ですけども……
「それは頼む」
深呼吸して剣を軽く振るう
地を蹴り突っ込む
ゴブリンは慌てて棍棒を構える
身体強化をしていない為、普段より動きが遅い
棍棒を振り上げた1体目を突っ込んだ勢いそのままに鋭い突きで頭を刺し貫く
横にいたゴブリンの攻撃を引き抜いた剣で受け止める
少し押し込まれるが力を込めて弾く
体勢を崩したところを蹴り飛ばす
……身体強化無しで戦うのは久しぶりだな。戦いづらい
いつもダンジョンの中では身体強化を使っていた
使っていない時とは感覚が全く違う
蹴りを繰り出して胴体に叩き込む
蹴りを受けたゴブリンはよろめく
他のゴブリンの攻撃を躱し受け流す
息を吐き複数回切りかかった
また別のゴブリンを蹴りで体勢を崩させる
剣を大きく振るい胴体を両断
苦戦はしないで5体を倒し切った
……時間かかったな。苦戦はしていないが……身体強化に頼り過ぎてるな
「つ、強い。前衛の皆さんって魔法無しでも強いんだ……」
「うーん、確かに強い前衛の中には魔法無しでも戦える人は居るでしょうけど……でも普通ではないと思うなぁ」
前衛はダンジョンの中では身体強化している状態が普通
ダンジョン管理組織も推奨していて言わば常識となっていてやれる人は居るかもしれないがやる人は居ない
「じ、迅さんみたいなソロの人の中には身体強化しない人居るんじゃ」
「探索者になる時に身体強化の魔法って習得推奨されるから居ても多くないと思うよ。それに私みたいな支援魔法使いに協力仰ぐケースもある」
……そもそも迅さんは身体強化ありとは言え単独で4級攻略してますから参考にはならない人材
身体強化の魔法は習得が簡単、その上魔力の消費も少ない
前衛の人の中には迅のように身体強化の魔法だけを習得して使っている人も多い
2人は魔石を拾っている迅の元に行く
「身体強化はしますか?」
「あぁ、頼む。倒せたが倒すのに少々時間がかかった」
「本当に少しですけどね。まぁ身体強化無しだとそんなものだと思いますよ」
後方から見ていた2人は身体強化無しでも充分に強いと感じていた
特に雫は支援魔法使いとして臨時でパーティの協力をした事もあった
その為、5級ダンジョンに挑むパーティの前衛と余り変わらない動きだったと見ている
「他の奴ならもっと動けるだろ」
「そうなんですかね?」
「し、身体強化無しの戦闘なんて見た事ないから分かりません」
雫が身体強化を掛けた後、湧いたゴブリンに素早く接近する
そして一撃で切り裂く
ゴブリンの1体が棍棒を盾にする
迅は力を込めて棍棒ごと切り裂いた
次々と剣で倒す
……やはりこっちの方がやりやすいな
……出番が無い。前回の4級の道中もそんなに出番無かった……これ私必要かな
後方で待機している千尋は心の中で呟く
出番が無さ過ぎて心配になる
強化された迅が全部薙ぎ払っていく
雫は雫で強化魔法で迅を強化して支援している
千尋が攻撃魔法を撃つ前に戦いが終わっている
どんどん下の階層へ進んでいく
そして4階層、中央でオークが待機していた
身長は2mはある緑色の体格が大きい太った魔物
……中ボスだけど出番あるかな。役立たずにはなりたくない
杖を強く握る
「援護を頼む」
「は、はい」
「お任せを」
千尋は後方でいつでも放てるように魔法の準備を整える
迅は地を蹴り素早く接近する
オークが動き出す
棍棒を振り上げる
浅く踏み込んで剣を振るう
この調子なら先に迅の攻撃が当たる
……攻撃後でも回避はギリギリ間に合うな
……あの棍棒なら狙える
「
炎の球が棍棒に命中した
千尋の魔法だ、棍棒は瞬く間に炎に包まれていく
剣で胴体を切り裂く
オークご自慢の脂肪に阻まれて一撃で両断は出来なかった
振り下ろす直前に棍棒が燃え尽きた
棍棒は燃え尽きても腕が残っている
オークはそのまま焼けた手を振り下ろす
障壁が腕を阻む
胴体を素早く複数回切り裂く
脂肪を切り落としてから心臓部に剣を突き刺した
心臓部を貫かれたオークは倒れて消滅する