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第9話 ボス戦開始

 3人は階段を降り切る

 大きな部屋くらいあるボス部屋に踏み込んだ

 部屋の中央には中ボスと同じように魔物が佇んでいた

 中ボスより一回り大きい体格を持つ銀色の毛皮を持つ人狼

 鋭い爪と牙が見えている

 人狼は階段を降りた3人を睨み付ける

 ゾクリと3人に悪寒が走った

 威圧感も凄まじい

 雫と千尋の2人は威圧に当てられ身体が震える

 迅も僅かに手が震えているのに気が付く

 これが4級ダンジョンのボスだ

 今から3人でこの人狼と戦うのだ


 ……やはり震えるか。だが止まる気はない


 後ろの2人を確認する

 震えてはいるが闘志は消えていない

 戦えるだけの意思は残っている


 ……こ、怖いけど引かない。絶対に役に立つんだ


 ……大丈夫、頼もしい2人が居る。私は全力で支援すれば良い


「作戦通りに行くぞ。サポートは完全に任せる」

「はい! 任せてください!」

「は、はい、作戦通りにやります」


 迅が前に立つ

 2人は後方で杖を構える

 身体強化と武具強化の魔法は既に付与してある

 準備は万端

 サポートは完全に2人に任せる

 迅がやる事は目の前の敵に勝つ事

 深呼吸をして震えを止める

 僅かでも震えていたら動きが鈍る

 そんな状態ではボスとは戦いにならない

 落ち着いて鞘から剣を抜く

 人狼は動く様子は無い


 ……動きは無い。こっちから行くか


 足に力を入れて地面を踏み締める

 人狼が動かないのなら迅が先に動く

 地を蹴って近付く

 まだ動く様子は無い


 ……まだ動かない、ならこのまま剣を叩き込む


 更に近付くと人狼が動き出した

 剣の間合いよりはまだ遠い

 地を蹴り片手を振りかぶり襲いかかってくる

 浅く踏み込み剣を振るう

 振るわれた手にぶつける

 押し合う

 手袋に魔力を込めて膂力強化を行う

 押し負けないように地面を踏み締める

 人狼の力は強い

 強化した状態で拮抗している


 ……今がチャンス、ここは当てたい


 後方で待機していた千尋が動く

 杖を向ける


制限解除オーバー火炎球ファイア


 千尋が制限解除と魔法名を唱えて魔法を発動させる

 魔力を使い荒々しい炎の球を生み出す

 押し合っている今、横は無防備

 人狼に攻撃を撃ち込めば削れる

 狙いを定めて魔法を放つ

 飛んできた炎を人狼は後ろに飛んで避ける

 押し合いの状態が解除された

 フリーになった迅は素早く剣を構え直して地を蹴り人狼に突っ込む

 今がチャンス、千尋が作った絶好のチャンスだ

 無防備になる着地の瞬間を狙う


 ……この位置


 着地する位置を見極めて剣を振るう

 着地直前、確実に当たる軌道

 剣は命中する

 しかし、手で剣身を掴まれた

 受け止められた


 ……止められた


 ……今のを止めますか


 強い力で剣身を掴まれている

 力を込めても抜け出せない


「力強いな」


 人狼は掴んでいる腕の反対の腕を振るう

 剣から手を離せば武器を奪われてしまう

 迅は剣から手を離さない

 腕が振るわれた

 しかし、振るわれた腕は迅に当たる事はなかった

 障壁しょうへきが阻んだ

 雫の魔法だ


 ……ボスにしては読める素直な攻撃ですね


 蹴りを叩き込む

 靴に魔力を使い脚力を強化した一撃

 胴体に当たる

 人狼は軽く体勢が崩れた

 その拍子に剣から手が離れる

 だが崩れたのは僅か、すぐに立て直し腕を振るう

 剣を軌道上に挟み込み受ける


「……軽いな」


 素早い一撃

 重くは無い

 体勢そのままで受け切れた

 後方から小さな炎の球が人狼に飛んでいく

 人狼は腕を振るう

 鋭い爪で炎の球を切り裂く

 直後、複数の炎の球が人狼に襲いかかる

 複数の炎の球、分割の指輪の効果を使った魔法攻撃だった

 指輪の効果を使って炎の球を分割して放っている

 人狼が回避行動を取ろうとした瞬間に迅が踏み込み剣を横に薙ぎ払う

 炎の球に合わせた行動

 横腹に一撃を入れられた

 迅はその場で追撃を行う

 人狼は大きく横に飛んで躱す

 追撃は外れた

 しかし、横腹に入れた一撃は大きい


 ……よし、入った。指輪を渡して正解だったか


 炎の球に紛れて一撃を入れられた

 あの瞬間、人狼の手数をパーティが上回った

 これも複数人で挑む強み

 迅は指輪を渡した事を正解だったと考える

 一度剣を構え直す

 その間も千尋が炎の球で攻撃を仕掛けている


 ……当たれ!


 迅はタイミングを見計らって近付く

 人狼は炎の球の対処に困っているようだ

 避けて爪で切り裂く

 一発一発なら兎も角、複数同時に襲いかかってくる

 それも分割されていても異能で出力強化された魔法だ

 ボスでも無視は難しいのだろう

 突っ込み切りかかる

 炎の球に紛れるように踏み込む

 腕で受け止められる

 人狼と素早く打ち合う

 人狼の蹴りを剣で防ぐ

 真横から飛んできた炎が人狼に当たりよろめく

 体勢を立て直される前に素早く切りかかる

 立て直した人狼が攻撃を行う

 近接戦で削っていく

 千尋は当たらないように炎の球を分割して放つ


 ……危ない! 別の魔法の方が良いのかな。でも……でも……


 迅の戦い方を後方から確認して千尋は気が気では無い

 迅の行動は千尋からすれば炎の球に当たりに行っているように見える

 迅はその状況を攻撃のチャンスとしか思っていない

 命の危険など省みていない

 迅に当たりかけた炎の球は雫のシールドで阻まれてはいるが

 それでも気が気では無い

 分割して威力が落ちているとは言っても魔法が当たったら一大事だ

 だけど千尋は魔法による攻撃を止めない

 ただよく分からない危険な行為ならすぐに止める

 だが迅の行動の意図が分かっているから止める訳には行かないのだ


 ……当たらないで


 心の中で泣きかけながら魔法を使う

 千尋が魔法で攻撃を仕掛けて追い詰める

 そして迅がその魔法に紛れて剣で攻撃を仕掛けていく

 人狼は手数で負けて押されている

 鋭い爪で切りかかるも雫のシールドで防がれて迅には届かない


 ……あれは私を信用してるという事ですかね? そろそろ強化更新のタイミング


 魔法の効果が切れないように支援魔法を更新した

 強化系の魔法は少しでも切れたら不味い

 後方に居る雫も千尋と同じように迅の行動が見えている

 それどころか迅に人狼や千尋の攻撃が当たらないようにシールドで守っている

 あの無謀な行動が

 雫の腕を信用しているのかそれとも別の理由か雫には分からない

 ただ死なないように守り続ける


 状況が動く

 人狼の動きが僅かに鈍った

 疲れか負った傷の痛みか

 その瞬間に炎の球が当たり焼かれる

 体勢が崩れた

 迅の一撃が刺さる

 人狼の攻撃はシールドで阻まれる

 更に剣による追撃を受けた

 胴体に深い傷を受けた人狼がよろめく

 そして分割無しの火炎球が撃ち込まれた

 焼かれて消滅していく

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