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第7話 14階層

 階段を降り切って8階層を進む

 進んで直ぐに群れの魔物と遭遇する

 迅は姿を確認してすぐに足を止めた

 後方の2人に手で止まるように指示を出す

 2人は意図に気付いて止まる


 ……魔物


 そして静かに臨戦態勢に入った

 剣を抜いて構える

 迅はすぐに群れの魔物の数を確認する


 ……数は5体か。後方に行かれないように気をつけるか


 ……そろそろブーストが切れる


 雫が身体強化ブーストを再度掛ける

 身体強化の魔法は時間で効果が切れてしまう

 迅達は8階層に降りる前に休憩を挟んでいる

 その為、魔法が切れかけていた


 ……そうか、今回は魔法の管理しなくていいのか


 魔法を掛けられハッとする

 いつもなら魔法継続時間の把握が必要だった

 特に戦闘中が地獄

 戦いながら魔法の効果が続く時間を把握

 戦闘が長引くと魔法が切れる前に魔法を掛け直すと言う作業が入る

 常に意識の一部を割かれるのだ

 厄介だが身体強化の魔法無しで4級の魔物と渡り合うのは難しい為、使わない選択は無い

 迅も色々と工夫はしていたがそれを他の人に完全に任せられるのはだいぶ楽になる

 これで目の前の戦いに集中が出来る


「さ、サポートは任せてください」


 千尋がそう言って杖を構える

 千尋は後衛攻撃職、魔物と戦う力を持つ

 迅としては1体でも倒して貰えるなら有難い


「任せる」


 千尋を一瞥して一言だけ言う

 地を蹴り接近する

 迅の素早い動きに魔物は反応が遅れた

 魔物が反応して動き出す前に既に迅は剣の間合いで捉えていた

 踏み込む

 剣は既に一閃を描く準備を終えている

 素早く剣を振るう

 魔物は即座に剣を脅威と判断して回避行動を取る

 しかし、剣の間合いから抜ける事は叶わなかった

 剣は瞬く間に振り切られる

 鋭い刃によって真っ二つに裂かれた


 ……どの魔物なら狙える? どうすれば邪魔にならない?


 千尋は後方から戦いの全体を見渡していた

 後衛攻撃職は後方から魔法による攻撃でサポートをする

 その際に前衛の人に魔法を誤射したら負傷、最悪命すら奪いかねない

 それは避けないとならない事

 だから慎重に探す

 邪魔にならない位置を

 最大のサポートが出来る瞬間を

 自分の力が存分に発揮はっき出来る瞬間を

 戦場の全体を見渡す

 魔物の数と位置、味方の位置の把握

 そして見つ出す

 迅から距離があり魔法を使っても誤射しない位置に居る魔物を


制限解除オーバー火炎球ファイア


 杖の先端を魔物へ向けて魔法を起動する

 1つの炎の球が千尋の杖の先に現れる

 小さいが荒々しい燃え上がる赤き炎の球

 千尋が杖を振ると炎が放たれた

 迅を睨んでいた魔物に命中する

 魔物を炎が焼く

 炎の球が広がり魔物を呑み込んだ

 包み込み焼き尽す

 燃え上がる炎が周囲を照らす

 照らされた剣が踊るように軌跡を描く

 次々と切り伏せられた魔物は倒れていった

 落ちた魔石が転がる


 ……炎魔法か


「助かった」

「は、はい!」


 迅の一言に千尋は嬉しそうに笑みを浮かべる

 迅が突っ込み引き付け千尋が攻撃魔法でサポート

 雫は何かあった時用の警戒と支援魔法によるサポート

 初めて組んだとは思えない程の連携で道中の魔物を倒していく

 順調に進む


 ……今は12階層か。後2階層くらいか


 階段に座って3人は一度休憩を挟む

 群れの魔物となり一度に戦う数が増えた

 負担が増えた事で中ボスの居た階層よりも上の階層で行っていた戦闘より体力の消費が激しい

 千尋も魔法を使うようになった


「今の階層は……11くらいですよね?」


 休憩中に雫は2人に雑談がてら聞く


「た、多分そのくらいだと思う」

「階層か、今は12階層だ。次が13階層だな」

「階層を覚えてるんですか?」

「い、意外」

「覚えておくと都合が良い」


 迅は進んだ階層を覚えていた

 わざわざ覚えている理由は2つある

 何かあって撤退する事になった時にスムーズに進めるから

 特に今回の場合は中ボス部屋の階層と今居る階層を覚えていれば素早く中ボスの階層まで撤退して安全に作戦を立てられる


 2つ目はボスの居る階層が予想出来るから

 これは確実では無いが中ボスの居た階層(今回のダンジョンは7階層)の2倍の階層なのだ

 今回で言えば14階層(7×2)、多くのダンジョンがその規則性を持つ

 これは迅が攻略されたダンジョンの階層を調べて実際に幾つかのダンジョンを攻略した事で気付いた規則性で他の人が知っているかは不明

 この規則性を知っていると休憩のタイミングを測れるから便利


「都合が良いですか?」


 雫は首を傾げて千尋は少し考えた後、口を開く


「も、戻る時に便利そうですね」

「あぁ、そうだ。撤退時に階層を覚えていれば目的の階層まで止まらずに行ける」

「なるほど、確かに! 次からはしっかり階層覚えます!」


 迅の答えに納得してバックからメモ帳を取り出して素早くメモをする


「これは普通では無いのか?」

「どうでしょう。私はしっかり覚えてる人は余り見た事無いですけど」

「た、偶に数えてる人が居るくらいです」


 ……意外だな


 迅は話を聞いて少し驚く

 この階層を覚える行為は昔からやっている癖で便利だから他の探索者もやっている物だと思っていた

 しかし、常識では無かったようだ

 迅はソロで活動していた探索者で探索者の知り合いも少ない


「そうか」

「最初は覚えているんですが同じ景色の中進んでると今何処にいるか分からなくなりまして」

「ま、魔物との戦いが続くと自然と頭から離れて」

「最初の頃はあったな。俺の場合は既に癖になっているからな」


 迅も最初の頃は戦いに集中すると忘れる事はあった

 今ではほぼ完全に記憶出来ている

 これに関しては慣れだろう

 休憩を終えて進む

 群れの魔物が現れる

 迅が突っ込み剣で切り裂く

 千尋が後方から炎を放ち魔物を焼き尽くす

 魔物を倒し切り転がった魔石を回収する

 順調に14階層へ続く階段に進む

 迅の見つけた規則性に合うダンジョンであればここがボスが居る階層


「ひぅ……」


 千尋が小さく声を漏らし身を震わせる

 その異変に雫が即座に気付く

 雫は前方を歩いている迅に声を掛ける


「迅さん、止まってください」

「どうした? 何かあるのか」


 迅は足を止めて振り返る

 2人を視界に入れた事で千尋が震えている事に気付く


 ……震えてるのか?


 先程までは魔物を前にしても震えてはなかった

 何事かと思い少し近付く

 千尋はおびえている様子を見せる


「ちーちゃんは強い魔物の気配を感じられます。なので次の階層、ボスの可能性が高いです」

「それが異能か?」

「いえ、これはちーちゃんの体質です」

「分かった。ただ念の為に確認はしてくる」

「分かりました」


 雫の言葉を信じない訳では無い

 しかし、この目で真実かを確認する必要がある

 本当に体質で察知する力があるのならかなり役に立つ


 ……この階層は規則に当てはめたらボスが居る階層だ。もし本当なら……


 階段から確認する

 すると大きな部屋に通じていて中央に魔物が立っていた

 間違いなくボスだ

 どうやら雫の言葉は真実のようだ

 きびすを返して2人の元へ戻る

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