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第6話 4級ダンジョン攻略開始

 翌日、午前9時50分

 迅はその時間にダンジョンの入口の前に着いた

 指定した時間の10時に遅れないように家を早く出た結果、10分前に着いた

 ダンジョンの入口に着いた迅の目に映ったのは2人の少女の姿だった

 片方は見覚えがある

 檜山雫だ

 手に杖を持ち肩掛けバックを持ってワンピース型の服を着ている

 もう1人の少女も似たような服を着ていて同じような杖を持っている

 迅が2人の方に向かうと雫が迅に気付いた

 そして片手を天高く振り上げて手を振っている


「もう来ていたか。準備万端か? それで……」


 2人に近づいて迅が一番最初に口を開いた

 迅の視線は雫では無い知らない方の少女に向く

 栗毛の少女、目に見えて物凄く緊張をしている

 雫はコクコクと頷く


「はい! 準備万端です! 昨日のうちに準備をしましたから、それでこの子がもう1人のクランメンバーです」


 雫は元気よく答える


「わ、私は氷雨ひさめ千尋ちひろです。い、一応私は後衛攻撃職こうげきしょくです」


 迅を見て緊張だけでなく若干怯えているのか小さい声で名乗る


「後衛とは聞いていたが攻撃職か」


 後衛攻撃職、攻撃魔法と呼ばれる魔法をメインに使う後衛の人々の事

 後衛は大まかに支援職と攻撃職の2つに分けられている

 支援職は攻撃のサポートが苦手な代わりに他のサポートに長けている人々

 攻撃職は逆に他のサポートが苦手な代わりに攻撃のサポートに長けているケースが多い


「ちーちゃんは攻撃職で攻撃魔法の種類が豊富です」


 雫が自慢げに語る


「し、支援も出来ます。邪魔にならないように頑張ります」

「そうか、それで雫と言ったか。お前は支援職か?」

「はい、そうです! 支援ならお任せください!」

「攻撃職と支援職の2人か。俺の名前は糸無迅、魔法は身体強化以外使えない、前衛で武器はこの剣だ」


 腰に携帯している剣を見せる


「陣形はどうしますか?」

「俺が1人で前衛を担当する。勝手に動くから支援をしてくれ」


 迅はチームプレイをするつもりは無い

 正確には迅はいつも1人で挑んでいるからチームプレイが出来ないのである

 連携なんて学んでいない

 下手に動きを合わせてしまうといつも通りの動きが出来なくなる恐れがある

 それなら2人にサポートに徹してもらった方が良い


「わかりました! 合わせます!」

「じゃ、邪魔にならないように頑張ります」

「準備は出来ているんだったな。なら行くぞ」

「はい!」

「は、はい……」


 迅を先頭に3人はダンジョンの中に入っていく

 通路を歩いていると1体の魔物に遭遇した

 迅が剣を抜いて前に立つ

 2人は後ろで杖を構えて待機する

 戦闘が始まる前に雫が身体強化の魔法を迅に掛ける


身体強化ブースト


 ……これが雫の身体強化か。普段と違う、試すか


 遭遇した魔物で動きを試す

 素早く接近する

 魔物は接近してきた迅を迎え撃つ

 腕を天高く振り上げる

 間合いに入った瞬間振り下ろす

 回避はしない

 強く踏み込んで懐に入る

 そして剣を振るう

 早くなった振りの速度で綺麗な線を描く

 魔物の首を捉えて綺麗に切り落とした

 普段迅が自分で使っている身体強化魔法よりも高い性能の魔法を受けている

 そのせいで上手く制御が効かずに体勢を軽く崩した


 ……これが本職の魔法か、流石だな


 身体能力が向上しているのを肌で理解出来る

 普段より身体の動きが早い

 望みの動きに近付いている

 軽く剣を振って今一度速度を確認する

 腕の振る速度が目に見えて早い

 特に初速と最高速が普段と段違いだ


「4級の魔物を一撃で……凄い」


 千尋は迅の動きを初めて見て感嘆の声を上げた

 雫に聞いていたが千尋が想像していたよりも早い動きだった


「迅さん、魔法で何か不都合あれば言ってください。出来る限りの調整はします」

「分かった。今のところは特にない。感覚に慣れるのに時間がかかるくらいだ」

「人の魔法だと感覚違いますもんね」

「初めて受けたがかなり違うな」


 魔物と戦って動きに慣らしていく

 強化された身体は動きやすい

 しっかりとこの動きに慣れる必要がある

 動きやすいが慣れなければボスと戦うのは厳しい

 踏み締め地を蹴り素早く近付く

 魔物は腕を振るう

 勢いを殺さず当たる寸前で躱して速度を落とさず懐に入る

 剣を振り切った

 魔物の胴体が真っ二つに裂かれる

 魔物を倒し一旦下がる

 落ち着いて魔物の腕の長さを確認する

 魔物の腕が届かない距離を見定めた

 剣のリーチを活かして剣を首に突き立てる

 魔物が消滅する前に引き抜く


 ……これならあと数回で慣れるな。いつもよりも早く動かすイメージで……


「今日は慣らす運動だけにしておきます? サポートのタイミングも知りたいですし」

「いや、多分後数回で感覚を掴める」

「はい? 後数回で?」

「か、感覚を掴める? 強化の度合いが違うのに?」


 2人とも迅の言葉に目をパチクリさせる

 感覚のズレは通常なら慣らすのに時間がかかる

 だから2人は迅の言葉に驚いたのだ


「感覚のズレはよくある話だ。今回は素直なズレだ」


 時々起きるズレと比較すると雫の身体強化の魔法で起きるズレは素直で調整がしやすい

 これなら道中の魔物との戦いで調整し切れる

 迅はそう感じた


「そ、そうなんですね。前衛の方って大変ですね」

「よ、よくある話?」


 ……感覚のズレがよくある話? そんなの聞いた事ない


 千尋は初めて聞く話をさも普通の事のように話す迅に困惑する

 感覚のズレが起きるのは探索者でない一般人でも多分大問題


 魔物を倒して調整をしていく

 そして中ボスが居た階層に着く

 迅はここで休憩のつもりだったが雫の身体強化の魔法のお陰で現状体力にかなり余裕をある

 これなら休憩を挟まずに下の階層に進む事が出来る

 チラッと後ろを見て2人の様子を確認した

 2人も疲れている感じは無く体力が残っている様子


 ……体力の余裕はありそうだな。なら進むか


 迅は下の階層に向かおうと歩を進める


「少し休憩しませんか?」


 すると雫に呼び止められた

 止まり振り返る


「休憩?」


 雫が休憩を提案してきた


「はい、下の様子が分かりませんから早い段階で体力の回復をと」

「そうか……」


 迅は少し思案する


「あっ、体力は残っているので休憩無しでも行けますよ」

「いや、良い。休憩するか」

「ありがとうございます」

「休憩……水飲む」


 3人は適当にその場に座り休憩をする

 雫と千尋は飲み物を飲む

 適度な水分補給は重要だ

 雫の言葉で迅は1つある事を思い出した

 中ボスを倒したという情報は伝えてある

 (話の流れで言っただけ)

 ただ下の階層の話は何もしていない

 下の階層の魔物が群れの魔物と言う話は一度確認に来た迅しか知らない


「下の階層はどんな魔物でしょうか。やっぱり獣型ですかね」


 丁度雫が迅に話を振る

 丁度良いと考え迅は答えた


「下の階層は狼型の群れの魔物だ」

「そうなんですか?」

「あぁ、前回確認した」

「か、確認したのは何体くらいでした?」

「群れの数か、俺が見たのは5体だったか」

「5体ですか。群れの魔物、厄介ですね」

「俺は身体強化があれば問題無い。ただ不意打ちには気をつけろ」


 6体以上の群れで出てくる可能性もある

 前衛が戦っている全ての魔物を引き付ける事は難しい

 戦力分散され後衛に襲いかかるとなれば助けに入るのは出来ない

 その間は2人で凌いで貰う事になる


「はい」

「き、気をつけます」


 雫は落ち着いた様子で千尋は怯えた様子でそれぞれ答える

 休憩を終えて下の階層に向かう

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