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第4話 クラン

 少女の案内を受けて着いたのは小さい工場だった

 確かに大きい工場では無い

 少女の話ではここの社長がスポンサーとなっているらしい


 ……工場……このまま入っていいのか? 外で待つべきだよな


 迅はダンジョン帰りで乾いているとは言え服に血が付いている

 他にもダンジョン内の土などの汚れが付着している

 製造している物にもよるだろうが製造現場に入っていいような格好では無い


「少しここで待っててください。すぐ呼んでくるので」

「分かった」


 少女はそう言って駆け足で建物の中に入っていく

 1人残された迅は通行の邪魔にならないようにフェンスの傍で待機する

 暫くすると少女は中年の男性を連れて戻ってくる


「お待たせしました」

「君がクランに入ってくれるという探索者かな。私は伊藤いとう二郎じろうです」


 優しそうな太った40代程度の男性

 表情も口調も柔らかい

 作業着をキッチリと着ている

 この人が社長なのだろう


「はい、糸無迅です」

「迅君ね。クランに入る際の注意点があるんだけど良いかな」


 キリッと真剣な面持ちに変わった

 口調も先程と違い少し硬い印象を受ける


 ……注意点か、まぁあるよな


 クランは組織だ

 組織である以上ノルマやクラン内の禁止事項などの何かしらのルールが存在する

 自由は多くても自分勝手には動けない


小規模しょうきぼとはいえ本気でクランを結成している。入るという事は君には実績作りの協力をして貰う事になる。無論出来るサポートはしよう」

「協力はする。それがクランに入るという事だからな」


 迅もタダでメリットだけ得る事は考えていない

 実績作りその為の協力はするつもりでいる

 ダンジョンで得た成果がそのままクランの実績になるから実績作りを行う事で迅が損する事は無い

 小規模のクランで少しでも多い実績が欲しいとは言え無理難題むりなんだいは押し付けてこないだろう


「そして現在の目標があるんだ」

「目標? それはなんだ?」

「正確にはクランとして存続する為の条件でね。後2ヶ月で達成しないとならないんだ」


 ……そんな物があるのか。あぁ、だからクランが増えないのか。人集めかそれとも攻略か


 クランは幾つか存在している

 でも多くは無い

 クランが増えない事を疑問に思う探索者も多く居る

 迅もその1人であった

 ただ継続するのに条件があると聞いた今なら増えないのも納得が出来る

 そして今このクランはその条件を後2ヶ月達成しないとならないと言う

 存続、つまり達成しなければ解散となる

 少女は何も言っていなかった

 迅がチラッと少女の方を見ると少女は目を逸らす、この話を少女が知らない訳が無い


 ……ごめんなさい


 少女は心の中で謝る


「条件か。それは一体?」

「その条件はクランメンバーだけで4級ダンジョン攻略だよ」

「クランメンバーだけで?」

「そう、クランメンバー以外を含めた攻略の場合はカウントされない。クランに所属するなら4級ダンジョン攻略に参加して貰う事になる。探索者では無い私でも4級は難しいと言う事は知っている」


 クランメンバーだけ、つまりこのクランの場合は3人で4級ダンジョンの攻略をしろと言う事

 世間的に4級ダンジョンは死者数が最も多い等級と言われていて少人数で攻略は難しいとされている


「4級ダンジョン……それは指定されたダンジョンか?」

「いや、4級以上のダンジョンであれば大丈夫と聞いてる。倒しやすいボスが居るのならそれでも良いそうだ」

「倒すのはボスだけか?」

「ボスを倒した証明が出来れば良い」

「そうか」


 迅は元々4級ダンジョンの攻略を考えていた

 今攻略しようとしているダンジョンが4級だ

 そのついでにクラン存続の条件も満たせるのは好都合

 それにその攻略の為ならクランメンバーとパーティを組める


「なら何とかなりそうだ」

「何とか? それはどう言う」

「今挑んでいるダンジョンが4等級で今日、中ボスを撃破した。次はボスに挑戦する予定だ」

「ひ、1人で倒したんですか?」


 黙っていた少女が迅の言葉に虚をつかれ思わず聞く


「あぁ、1人で倒したぞ。証拠だ」


 迅は証明として中ボスが落とした魔石をバックから取り出して見せる

 少女はその魔石を見て真実だと気づく


 ……私の想像以上に強い人だこの人


「中ボスとボスでは強さが結構違うと聞いてるけど……」

「単独でも倒した事はある。それにクランメンバーは後衛と聞いた。支援が出来る仲間が居れば可能性は高くなる」


 迅単独でボスの撃破をした事はある

 ただ単独で確実に勝てるとは言い切れない

 魔法による支援があれば勝てる確率が大幅に上昇する


「私達支援出来ます! 魔力と魔法の種類には自信あります」


 少女が声を上げる

 支援には自信があった


「迅君、貴方を歓迎する。防具の修復など行った場合レシートを渡してもらえれば一部負担するので、では私は仕事に戻るから」

「分かった」

「二郎叔父さんありがとう」


 二郎は軽く会釈をして工場に戻っていく

 少し離れた程度ですぐに少女が迅の方を向き話し始める


「クラン存続の条件について隠していてすみませんでした!」


 少女は頭を下げて謝罪する


「いや、構わない。こちらも質問しなかったからな」


 迅がもし何か似たような質問をしていれば少女は答えていただろう

 とんでもない条件なら流石に迅も困ったが迅からすれば無理では無い条件


「そ、そうですか。では次ダンジョンに行くのはいつの予定ですか? 私達も同行します」

「防具の修復があるから……」


 ……今日頼んでも明日まではかかるか。だからすぐ行くとして明後日以降になるな


 迅は今使っている防具以外を持っていない

 修復に出すと防具が無くなる

 防具がない状態でダンジョンに挑むのは危険だからしない


「修復の時間によるが明後日以降にはなる」

「分かりました。では決まったら連絡をお願いします」

「俺の都合でいいのか?」

「はい、いつでも動けるので」

「分かった。連絡をする」


 少女と連絡先を交換する

 これでいつでも連絡が出来るようになった

 連絡先の交換をしておけば何かあった時にもすぐに連絡が可能になる

 同じクランに入ったからその方が都合が良いだろう


 ……他には何か……あぁ、名前聞いてないな


「名前はなんと言う?」

「名前……はっ、忘れてました。私は檜山ひやましずくです」


 完全に失念しつねんしていたようで雫は名乗る


「俺は糸無迅だ。よろしく」

「よろしくお願いします」


 迅は先程名乗っているが念の為にもう一度名乗る


「それでは俺は取引所に行く。挑む日と時間を決めたら連絡をする」

「はい、分かりました。準備しておきます」


 取引所に向かう

 受付で中ボスや道中の魔物の魔石を取引所で換金する

 中ボスの魔石を換金する時は処理が大変なのかいつも時間が掛かる為、迅は近くの椅子に座って待つ

 処理が終わり換金を終えて施設を出た


「あそこに行くか。今日は空いてる曜日の筈」


 常連じょうれんになっている装備屋へ向かう

 取引所から少し遠い人気の少ない住宅街に店を構えている

 装備屋に着いて中に入り受付に行く

 この装備屋は製造と防具の修復も請け負っている


「おや、君か……防具の修復か。相変わらず無茶をする物だね」


 1人の女性が出てくる

 女性は迅を見てすぐに防具を見て損傷そんしょうに気付く


 ……流石、言う前に気付いたか


 この装備屋の店主をしている20代前半程度の赤髪の女性

 名は薄色うすいろしき鍛冶師かじし

 仕事の影響かすすで汚れた服を着ている

 服を着替えて防具を渡す

 式は受け取った防具の損傷を確認している


「それの修復はいつ終わる?」

「今からでも出来るから……防具の損傷酷くないから今日中に終わると思うよ」

「今日中に終わるのか」

「すぐ取り掛かるから用事無いなら装備見て待ってなぁ」


 式はそう言い残して防具を抱えて奥の部屋に消える

 迅は店に並んでいる装備を見て時間を潰す

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