ダンジョンの中に戻った迅は早足で下の階層に向かう
迅が今日このダンジョンに来た理由はダンジョン攻略前の確認の為だった
特に確認したかったのが中ボスの階層がどの階層か
……5階層より下、6階層なら良いけど7階層以降だと攻略に時間がかかる
道中湧いていた魔物を切り裂いて進んでいく
5階層を通り更に下の階層へ進む
6階層の道中に大量の血液が地面や壁に付着しているのを見つけた
魔物は血液を持たない
つまりこれは人の血という事
周囲を見渡して確認する
しかし、その血を出した者の姿は確認出来ない
階層からして恐らくは少女の仲間と考えられるが少女は何も言わなかった
7階層へ続く階段を降りると通路状では無い場所に着いた
大きな部屋のような階層だ
部屋の中央には1体の魔物が佇んでいる
その魔物が中ボスと呼ばれる存在
ダンジョン内で2番目に強い魔物だ
ダンジョンの主と同じようにダンジョン内で特別な扱いを受けている魔物
ダンジョン道中に待機しているボスなので中ボスと呼ばれている
「あれがこのダンジョンの中ボスか。確認は取れた。帰るか」
今日は中ボスを倒す準備をしていない
あくまで階層の確認まで
佇む中ボスは無視して階段を登り入口に向かう
道中で再度湧いていた魔物と遭遇した
迅には気づいていない
ゆっくりと近付く
剣を抜いて素早く切り掛かる
落ちた魔石を拾う
急ぐ必要は無いので歩くペースを落として入口まで向かう
……今日は予定より多く稼げたな。帰るのは少し遅くなりそうだ
ダンジョンの外に出てそのまま取引所に向かう
取引所の受付に魔石を渡して
換金が終わり受け取って家に帰る
予定より魔物を倒す機会があった事で魔石を多く手に入れられた
換金時の金も多かった
「おやぁ、今日は遅かったね」
「少し手間取ってな。お前は今日早いな」
家の中に入ると居間から声が聞こえた
白衣を着た白髪の背の高い不健康そうな少女がソファーに座ってテレビを見ている
彼女は迅の妹の
迅と同じ探索者
夢は首を動かして迅を見る
「確か4級の攻略前、確認だよね? その程度に手間取るなんてね。それがソロの限界だよ」
「限界……そうかもな」
1人で活動している探索者はソロと呼ばれている
「まぁお兄ちゃんにはクランに入るのもパーティを組むのも難しいかなぁ? 弱いから」
迅は夢からいつも通りの嫌味を言われる
いつも言われている事で迅はもう慣れている上、夢の言葉は殆ど間違っていない
少なくとも迅はそう思っている
「……パーティはともかくクランはお前と違って無理だろうな」
……クランは勝手が違うからな
夢はクランに所属している
クランとはスポンサーを持つ探索者集団の事
探索者の中でも高い実力がある者か才能のある者だけが所属している
迅はクランに所属していない
探索者の歴は迅の方が長いが実力と実績は既に夢の方が上である
クランに所属しているかどうかだけでは無い
夢は異能と呼ばれている力を持っている
その上、夢の持つ異能は異能の中でも強力と言われている物だった
迅は異能を持っていない
それだけでも明確に差があった
「身の丈に合う台詞だねぇ。あぁ、そうだ怪我はしてるかい?」
「していない」
「それは珍しい、いつもは怪我をしているのに」
「そうか? 最近は少なかったと思うが」
「いつもボロボロだっただろう。それでいつ攻略するんだい?」
「明日中ボスを倒してから判断する」
「ふーん」
夢は何か言いたげな表情をして迅を一瞥した後、自室に戻っていく
……明日の準備するか
迅も自室に行って明日の中ボス戦の準備を行う
翌日
朝早くからダンジョンに向かう
今日はしっかりと中ボスを倒す準備をしている
指無し手袋の上に複数の指輪を装着する
魔物を倒しながら7階層まで早足で向かう
先に倒されていると中ボスの魔石を得られない
苦戦する事も無く魔物を剣で切り伏せた
7階層に続く階段に着いた
……次の階層が中ボスだな。休憩するか
階段に座って休憩をする
バックから飲み物を取り出して軽く飲む
体力回復をさせてから中ボスと戦う
中ボスはダンジョン内で2番目に強い存在だ
つまり先程まで倒していた道中の魔物より強い
迅は幾つかの4級ダンジョンの攻略をした事あるが一切の油断は出来ない相手
「よし、体力は回復したな。行くか」
休憩を終えて階段を降りた
魔物の前に立ち相対する
落ち着いて剣を抜き両手で柄を握って構える
中ボスの姿は2m以上はあり二足で立つ
両手に鋭い爪と口に鋭い牙を持っている
見るからに警戒すべき物だと分かる
肉体なぞ
……爪と牙の警戒
迅は足先に力を込めて地を踏み締める
地を蹴って接近を行う
人狼は一歩も動かない
しかし、人狼の目は迅の姿をずっと捉えている
いつでも動ける体勢で待っている
剣の間合いまで近づいた
その瞬間に大きく踏み込んで剣を振るう
人狼は振るわれた剣を避ける
避けた体勢から左腕を振るう
爪を立てた引っ掻くような軌道の一撃
早い攻撃
……回避……いや、防御
一瞬回避を考えるがすぐに間に合わないと判断した
剣を軌道上に差し込んで盾にする
ぶつかり合う音が響く
足に力を入れて踏み締める
早いだけでなく重い
「ぐっぅ……」
人狼は腕に力を込めて体重も掛ける
このまま押し切り引き裂くつもりだろう
ジリジリと押し込まれている
少しでも力を緩めたら押し切られる
そう理解した迅は力を一切緩めない
互いに引かず押し合う
……出し惜しむのは無理か、使うしかない
出し惜しめない
迅はそう判断した
勝つ為に用意した魔道具を使用する
魔力を込めて魔道具の力を借りて人狼の攻撃を押し返した
魔力、ダンジョンが現れた時にダンジョン内部から吹き出した見えないエネルギー
人々は体内に魔力を蓄積しその魔力を使う事で魔道具や魔法の行使が可能になる
迅が使用したのは指無し手袋型の魔道具、効果は
押し返された人狼は体勢を崩した
隙だらけの人狼に素早く剣を振るう
剣先が胴体に掠り毛皮を浅く切り裂く
押し返した時に迅の想定よりも人狼が後ろに下がっていた
その結果踏み込みが甘く攻撃を深く入れられなかった
「ちっ、浅いか」
迅は舌打ちをする
人狼は数秒もせずに体勢を立て直す
そして両手を使って襲いかかる
爪を立てた乱暴な振り
人で例えるなら素人が闇雲に腕を振り回しているだけ
その程度の攻撃
それが腕の振りの速さと鋭い爪によって当たれば肉を切り裂き人の命を掴み取れる一撃へと昇華している
人狼は両手、迅は剣1本
手数は相手の方が多い
一振りに二撃叩き込んでくる
その上素早い攻撃は回避だけでは対応が難しい
凌ぐ為に受け流しを織り交ぜる
躱せる攻撃は軌道を見て僅かな動きで躱す
避けられない攻撃は剣で受けて傾け逸らす
下手に直撃したら致命傷
だからこそ焦ってはならない
冷静に落ち着いて攻撃を丁寧に確実に捌いていく
攻撃を剣で受け流す
追撃を回転して避けた
「せぃぁぁぁ!」
そのまま回転の勢いを利用する
剣を全力で振るい切り上げた
しかし、避けられてしまう
回避された上で攻撃直後の無防備な横腹に蹴りを喰らう
「がっ……」
吹き飛ばされ地面を転がる
手に力を込めて地面に指を押し付けて転がる身体を無理やり止めた
素早く立ち上がり剣を構え直す
横腹が痛みを訴えてくる
迅は深呼吸を行う
戦いに集中する
痛みを誤魔化すように力強く地を踏む
そのまま地を蹴り接近する
間合いに入り踏み込む
素早く剣を振るう
……くっそ、早いな
避けられた
振り切る前に力で無理やり刃の向きを変える
そしてまた振るう
傷を負わせられた
深くは無い
しかし、先程の浅い傷よりは入った
激しい攻防を繰り広げる
静かな部屋に戦いの音が響く
一進一退の攻防戦
その最中、回避をし切れず肩に掠る
防具ごと皮膚を裂かれた
傷口から少量の血が溢れ流れ出す
人狼の胴体に蹴りを叩き込む
体勢を崩した人狼に一閃
タイミング完璧
不可避の一撃
音が響く
「ちぃ……」
爪で剣を受け止められた
鋭い爪は剣を受けられる程に頑丈だった
……爪が硬い、爪を削るか
爪と剣で切り合い打ち合う
躱し切り掛かる
爪で止められた
反撃を避ける為に後ろに飛び退く
着地と同時に前に踏み込んで切りかかる
少しずつ削っていく
手袋型の魔道具の効果を使う
力を込めて爪に攻撃を叩き込む
爪を砕けば防御だけでなく攻撃の手も減らせる
片手の爪による攻撃を剣で受け止めて再び押し合う
ジリジリと互いに力を抜かず押し合う
押し合いで生じた隙を人狼は逃さなかった
反対側の手の爪を迅の腹に突き刺した
「ぐっ……ぅ……」
激痛が走り身体が痛みを訴えてくる
だが痛みを堪える
この程度の痛みで止まりはしない
手袋に魔力を注いで効果を使用する
膂力を高め剣に力を込める
「この程度ぉ!」
叫び剣で防いでいた腕を大きく弾く
そして刺さっている爪を無視して深く踏み込む
爪が更に強く胴体に食い込む
身体が痛みを訴えるが迅は無視する
人狼の胴体に剣を突き立てて捻る
人狼は痛みに反応して乱暴に腕を振るう
そして後ろに下がり剣を無理やり引き抜く
距離を取り唸っている
迅は接近はしない
負傷させた
しかし、迅もまた負傷している
指に装着している治癒の指輪に魔力を注いで効果を使う
今回は自身の傷を癒す
腹に受けた爪の一撃は余り深くはなかったようで完治した
……ヒビが入っているな。あれなら手袋使って叩けば行けるか
人狼の様子を窺う
人狼の全体を確認する
爪の状態を確認するとヒビが入っている事が見て分かった
あの状態ならば剣を当てられさえすれば砕く事が出来る
一旦剣を構え直す
深呼吸を挟み目の前の敵を見定める
魔力を注いで手袋の効果を使う
力強く地を踏み締める
膝を曲げ上半身を前に倒す
自然と剣先が敵に向いた
地を蹴り接近する
持ち方を変えて片手で半回転させる
その勢いで剣を振り上げた
「はぁぁぁ!」
両手で掴み深く踏み込むと同時に振り下ろす
人狼は振り下ろしを爪で防ぐ
しかし、爪は剣の軌道を阻む事は出来ず虚しく砕け散った
振り切られた剣は地面を軽く切り止まる
人狼の胴体に深い斬撃の痕が刻まれた