20年前に世界中に突如現れたダンジョン
ダンジョンの中には未知の生物、未知の鉱石、現状科学的に再現不可能と言われた特殊な力を持つ道具など多くの未知が見つかった
夢か金か多くの人々はダンジョンに潜る
「ここか」
岩のような物で出来た入口の前に1人の男性が立つ
黒髪の20代前半程度の男性
軽防具を身に付け剣を腰に携帯している
彼の名は
探索者とはダンジョンに挑み攻略や宝発掘などを行う人々の事である
そしてこの岩のような物で作られた入口はダンジョンの入口なのだ
入口の先は階段になっていて下に続いている
覗いても薄暗く奥までは見えない
……このダンジョンは4等級、他の探索者が来る前にさっさと行くか
迅はダンジョンに入って階段を降りていく
音は一切せず迅が歩く時にする足音だけが周囲に
階段を降り切って周囲を見渡す
細長い道が奥まで続いている
「通路か。楽だが罠があれば面倒だな」
真っ直ぐの通路を歩いて進む
迅が通路を歩き続けていると前方に黒いモヤが現れた
黒いモヤは形を変えて生物のような見た目に変化していく
茶色の毛を持つ二足の狼に姿を変えた
魔物だ
黒い何かが姿を得た存在、生物と呼ぶべきか分からない謎の存在
そして姿を得た場合、生物のように動き出す
迅は腰に携えた剣を抜く
……数は1体、さっさと倒そう
迅は身体強化の魔法を自身に掛けて身体能力を高めた
魔物は迅目掛けて襲いかかる
爪を立てて振り上げている
容易く肉体を切り裂く鋭い爪の強襲
臆する事無く抜いた剣を振るう
一振り目で振り上げた腕を切り落とした
切り裂かれた腕が地面に落ちる
その前に二振り目が放たれた
魔物の首がポロッと落ちる
魔物は動きを止めて黒いモヤになり消滅した
魔物が居た所には半透明な黒色の石が転がり迅の足に当たる
迅は剣を仕舞いその石を拾う
この石は
この魔石を取引所で換金すると金になり迅はその金で生活をしている
バックに魔石を詰めて奥へ進んでいく
少し歩くとまた黒いモヤが形を作っていた
形は先程と同じ二足の狼だった
……また1体か
同じように剣を振るい素早く丁寧に切り伏せた
その後現れた数体の魔物も同じように切り伏せて倒す
進んでいると下へ続く階段を見つけた
2階層に続く階段だ
ダンジョンは幾つかの階層が別れている
階段を降りて2階層を進む
1階層と変わらずに進んでいき下へ続く階段を見つけて降りる
3、4階層と順調に進んでいく
魔物が2体同時に現れる
迅にとって2体程度では問題は無く素早く対処した
噛み付きを躱し反撃の一手で仕留める
……これで5階層か。まだ部屋まで着かないか
5階層に到着したが特に今までと景色は変わらず通路が続いている
歩いていると前の方から声が聞こえてきた
聞き取りづらい微かな声だ
迅は静かに耳を澄ませる
「……けて……れか……」
耳を澄ませても微かな声しか聞こえない
恐らく声の発信源は今の迅の位置からだと遠い
微かな声によく気付けた物だと迅は思った
そしてその声が人の声だと分かる
先にダンジョンに入った探索者だろう
……人の声……先に入った奴が襲われているのか?
5階層まで来れている時点で一般人ではなく探索者なのはほぼ確実
挑んだ探索者なら危機に陥る事は無いと思われがちだが実際はそんな事は無い
武器の破損や
そう言った原因で危機的な状態に陥る事は探索者の中でも良くある話
迅は地を蹴り走る
声のする方へ急いで向かう
何が起きているか分からないが大声なら非常事態と考えられる
もし襲われていると仮定すると声がするのならまだ探索者は死んでいない
最も今から向かっても間に合うかまでは分からない
しかし、迅は気づいた以上救援に向かわない訳には行かないと思い全速力で向かう
「……誰か……けて……」
「……誰か助けて!」
声のする場所に近づいて行く事に声がはっきりとしてくる
女性……いや少女の声のような高い声だ
言葉もはっきりと聞こえ助けを求めているのだと分かる
そして暫く走っていると姿を確認出来た
青髪の10代くらいの若い少女
少女は手に持っている杖のような物を振って抵抗をしている
杖の先端が魔物に当たる
だが少女の非力な腕で振るった打撃
悲しいがそんな物の威力はたかが知れている
命中した魔物にダメージは殆ど無い
少女の服装は迅が着けているような防具のようには見えない
露出の少ないワンピースのような服装
一部が破けて肌や下着が見えてしまっている
……後衛職が1人で?
迅は服装からしてこの少女は恐らく戦闘では主に後衛を担当している人物だと気付いた
後衛職の探索者は重くて動きづらくなる防具を身につける事は少ない
魔力切れか何かで魔物を突破出来ないから助けを求めているのだろう
ただ後衛が1人で居るのは珍しい
大抵はパーティを組んでいて他にも人が居る
しかし、周囲に他の人の姿は見えない
周囲で倒れている訳でもない
……他には誰も居ないのか? まぁ良い。魔物は3体か
魔物は二足の狼、先程までと戦っていた魔物と同じ
そのうち1体は傷を負い負傷しているのが見える
3体の意識は完全に少女に向いている
走ってきた迅には気付いていない様子だ
迅にとって気づかれていないのは好都合
……気付かれていないなら好都合……背後から1体仕留めるか
視界に入らないように気をつけながら静かに素早く接近をする
少女にも気付かれないように動く
ゆっくりでは少女を助けられない
迅は素早く動いた
魔物の位置を確認する
そして自身から1番近い魔物に狙いを定める
背後から一閃
僅かな風切り音の後、魔物の首が落ちる
「……ふぇ?」
少女が魔物の背後から現れた迅の姿を見る
1体やられた事で残りの2体が迅の接近に気づいた
気づき動き出す前に迅は動く
振り切った剣を戻さず片手で後ろに軽く引いた
そして隣に居た魔物の胴体に剣を突き立てる
力を込めて突き刺した剣を真上に切り上げた
魔物は倒れる
2体倒れ最後の1体
魔物は既に攻撃の構えを取っていた
迅に攻撃を仕掛ける
……防御
魔物との距離が近い
切り上げた直後の為、回避する動きは出来ない
腕の力だけで剣を操る
攻撃の位置に差し込み防ぐ
防ぎながらゆっくり体勢を戻す
そして蹴りを胴体に叩き込む
蹴りを食らい怯んだ魔物に振り上げた剣を振り下ろす
一刀両断
魔物を倒した
剣を仕舞い少女の方を向く
「え、あ……」
少女は何が起きたか状況の処理が出来ていないようで目をぱちくりさせている
突然の事で上手く飲み込めていない
少女の反応は無視して少女の手足、胴体と順番に全身を軽く見る
……手に浅い傷、胴体は服が破れてるところに浅い傷か……足に深い傷があるな。これは走れないどころか歩くのも辛そうだ
傷の有無の確認
少女の前でしゃがむ
左手の人差し指に付けている指輪を少女の足の傷に向ける
指輪についている宝石が淡く光り始めた
光は大きくなり少女の足の傷口を優しく包み込む
光が包んだ傷の痛みが引き始める
「指輪から光が……えっ、痛みが引いてきた……これって」
少女が傷口を見ると傷が塞がり始めている
完治までは行かないが歩ける程度の傷まで小さくなった
腕や胴体にある浅い傷も治す
少女はこの指輪が何か分かった
正確にはどんな効果を持つ
「
魔道具、ダンジョンの中から見つかった特殊な力を持つ道具
「……やはり完治は無理か。だがこれで歩けるな」
「え、は、はい! 歩けます。ありがとうございました」
少女は急いで立ち上がって頭を下げて感謝を述べる
「焦らなくていい。ついてこい。入口まで送ってやろう」
迅は来た道を戻る
少女はゆっくり歩いて迅についていく
一瞥して少女の歩くペースに合わせて入口まで向かう
傷を負っている少女の歩くペースは遅く時間はかかる
しかし、ここで置いていったら助けた意味が無い
……このペースなら4階層は魔物に遭遇しないで済むかもな。3階層はギリギリか
迅は早いペースで5階層まで来た
今から少女のペースに合わせて入口に向かう
少女の歩くペースで考えても4階層までなら魔物が再度湧く前に通れると考える
「助けて貰った上で治療も入口までの護衛までありがとうございます」
「気にするな。間に合って良かった」
「貴方のダンジョン探索の邪魔になっていますよね」
少女は自分が持っていたバックを開いて魔石を取り出す
迅に渡そうとするが迅は受け取らない
「必要ない。道中で魔石は充分集められた。攻略も探索もまた明日挑めばいい」
「1人でダンジョンアタックしてるんですか?」
ダンジョンアタックとはダンジョンに挑む事を言う
迅は1人でダンジョンアタックをしている
4級ダンジョンに1人で挑むのは珍しい
「あぁ、そうだ」
「4級ダンジョンに1人で挑むなんて強いんですね」
「……俺は強くない。ただ慣れているだけだ」
「そ、そうなんですか」
3階層に着く
4階層は想定通り魔物が湧かなかった
ただ3階層には既に魔物が湧いていた
迅は静かに手で少女に止まるように促す
意図に気づいた少女は止まり音を立てないようにする
剣を静かに引き抜く
静かに魔物に接近する
背後から一閃、真っ二つにした
そして落ちた魔石を回収して先に進む
不意打ちで倒せる魔物は気づかれる前に素早く一撃で仕留める
不意打ちが難しい魔物は真正面から剣で切り裂く
順調に倒して進んでいく
……これで強くない?
少女は迅が強いと分かる
4級ダンジョンの魔物を1人で倒せる人が多くないという訳では無い
1体ずつなら勝てる人は結構居る
しかし、迅は1人で1体は当然、数体を相手取っても容易く倒している
苦戦もせずに容易く倒しているのだ
それが出来るのが探索者の中でも一部、限られている
強いのは確定、だけど迅は自分を強くないと言っている事に少女は違和感を持つ
「何か訳があるのでしょうか。なら触れないようにしましょう」
小声でそう呟く
迅にはその声は聞こえていない
それから暫くして入口に着いた
「ここからは行けるな」
「はい、ありがとうございました」
「傷は治り切っていない。無理はするなよ」
「あっ……待っ……」
少女が何かを言おうとするがその前に迅はダンジョンの中に戻って行った