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第9話 決着

 長い銃身から火花が放たれる。

 ベルテは思わず身を丸める。その弾は間違いなく自分の体を貫通する――はずであった。

 マルカムの銃口は下を向き、地面が大きく削られていた。

「......!」

 右手を見つめるマルカム。うっすらと血がにじんでいた。

「危なかった」

 頭上から聞こえる声。それは――

リズ!」

 ベルテがそう叫ぶ。

 すっと地面に降り立つリズ

 手には小さな細い串のようなものを持ち構えながら、マルカムを威圧する。

「......ふうん?サムライの飛び道具か」

「手裏剣ではない。小柄こづかである」

 小柄こづか。それは刀に付属している小さな装飾具である。刃がついており、極めたものであれば武器として使うことができた。

 じりじりと距離をはかる二人。

 ベルテはそばのくぼみに身を隠す。

「分が悪くはありませんかね。そっちはちゃちな串。こっちは四五口径ロング・コルト弾があと四発。それともこの間のバーベキューに使うような細いナイフを持っているのですかね」

「ナイフにあらず。小太刀なり」

「いずれにせよ、レンジがなさすぎる。すばしっこいようだが、私の懐に飛び込むまで二発はお見舞いできる。どうです、ここで取引しませんか」

 そっと銃口を下ろすマルカム。

 油断せずにそれをリズは見つめる。

「私が欲しいのは『武器』だ。金や食料は必要ありません。今から三〇分時間を差し上げます。その間に必要なものを持っていくがいいでしょう。『武器』以外ね。ああ、身に着けている『武器』はかまいませんよ。騎士道というやつです」

「武士の情けか、どうする」

 リズはベルテを見つめる。

 ぱちぱちと瞬きをするベルテ。少し驚いた顔をしたが、リズは静かにうなずく。

 ベルテは鍵を放り投げる。放物線を描いて、鍵の束はマルカムの前に落ちる。

 その瞬間――マルカムは抜き撃つ。

 最初から、二人を生かしておく気はなかったらしい。ピースメーカーから何発もの銃弾が乱れ飛ぶ。

 しかし――

「うぎゃぁ!」

 悲鳴をあげるマルカム。拳銃を落とし、両手で顔を抑える。指の合間から、血がどくどくと流れ出ていく。

 それを見下ろしているのは――リズ。片手には長い刀を構えて。その刃にはマルカムの血をまといながら。

 血をぬぐい、刀を背中の鞘に納めるリズ

「長さは四尺五寸。会津兼定が銘を刻んだ、大太刀『羚羊雪雫(れいようゆきのしずく)』の切れ味身をもって知ったであろう」

 背中に隠していた大太刀。かつて祖父より賜った逸品である。

「武士の情けだ。それほど傷は深くはない」 

 ベルテはリズの姿を見つめる。まるで戦場の天使のようなリズの姿を――

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