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第6話 『武器』の意味

 馬車は荒野を行く。

 幌馬車には行きにつんだ武器がすべて売れて、金と生活物資が満載されていた。

「すごく、いっぱい買い物したな」

 ん?とベルテはリズに答える。

「まあ、私の『店』は街はずれだし、買いだめしとかないとね」

「それにしても、安すぎはしないだろうか?」

 リズは後ろの荷物を見ながらそう、問いかける。

「ベルテが売った武器である。相場に比して安すぎる気がしたが」

 リズは思い出す。ここに来るまで途中の街々で武器を売っていたベルテの姿を。なぜか、武器屋には卸さず、個人相手に売買していた。それも、あまりお金を持っていないような人たちに。中には娼婦の姿も。

「ああ、そうかな?詳しいねリズ

「......私の祖父が外国から武器を輸入していた。家にその帳面があり、よく見せられた。『あなたのお爺さまは、藩を守るために必要な武器を外国から輸入されていたのよ』と。その価格に比べれば破格の値段で売っていたようだが」

 ベルテは手綱を握りながら、ゆっくりと話し始める。

「この西部には、弱い人たちがいっぱいいるんだ。子供、老人、女性......そういう人たちはガーフィールド一家のようなならず者に何にもできない。そりゃそうだよね。連中喧嘩は強いし、武器も持っている」

「......」

「そういった弱いものが、自分を守る手段が『武器』なのさ。相手より高性能な武器ならば、少々の技量の差は埋められる。例えば――」

 そういいながらベルテはすっと右手を下に下げる。次の瞬間、リズの目の前に小さな拳銃が現れていた。

「デリンジャー。装填数はわずかだけど、それでいい。大切なのは丸腰の相手が拳銃を持っているということを示せば、大体のやつの戦意は失せる。女が荒くれ者に一対一で襲われたときとか、これをぶっ放すだけで相手は肝を冷やすはずさ」

 小さな拳銃。掌にぴったりと収まりそうなくらい小さい。

「逆に、弱いものでも集団を組めば対抗できるんだよ。さっき、ある農場に大きな木の箱おいてきたよね」

 うん、リズはうなずく。すぐに厩舎の中にしまったので中身は見ていなかったが。

「あれ、ガトリング砲だから」

 リズは驚く。母国の内戦で敵の秘密兵器といわれていた武器である。機関銃の祖先ともいわれ、この国の内戦南北戦争でも戦場で使用されていた。

「田舎の保安官はあてにならないからね。あれが一台、町の保安事務所に鎮座しているだけで変な虫はよらなくなる。盗むにしても重いし、運用方法が難しいからね」

 実際ガトリング砲は使い方が難しい兵器である。しかし、防御兵器としては優れている。なによりその『抑止力』としての圧倒的な存在感が、大きな意味を持っていた。

「無理に戦う必要はないのさ。『こっちはこんなに強い力を持っている。戦ったら負けるかもしれないが、お前らもただでは済まないぞ』とアピールするだけで無用な戦いを避けることができるのさ――まあ、理屈ではあるんだけど」

 言葉を止めるベルテ。

 手綱を引き、馬車を止める。

 そこがベルテの『自宅』兼『商店』であった――



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