俺は今、ギルドの清掃員としての面接を受けている、面談というべきか?
そんなはずなのだが……建設中の町、まだ名前の無いこの場所で面接だ。
ここはマートアル国のちょい端っこの、ちょいと不便な町々の間の中間に、新しいギルドの町を作る事になった。
依頼を受けるには……それなりに大きい町まで行かなければならない。
つまりは自分の町の依頼を正規手段で受けるのに、何日もかけなきゃならん。
そんなバカみたいな話を無くす為に、中間地点のギルドが建てられることとなった。
ここより周りに住む人達は、不便を無くせとギルド側に相談したらしいがそこはお役所仕事、色々な理由で拒んだ。
維持費だったりなんだったりわからんでもない。
「すまんなこの町……というより中間地点は建設中ゆえ、まだ名前も無いこの場所に呼び出してすまない」
「本当ねぇ、アナタ? ギルドがこんな雑でいいのかしら? 普通名前を決めてから建設ではないの?」
「完成したらこの中間地点は雑にならないようにする、今は我慢だ」
「頼みましたよ」
この人達は紅林夫妻、新しいギルドのマスターとその奥様だ。
熟年主婦、おじいちゃんとおばあちゃん……初老といったらいいか。
失礼が無いようにしないとな。
ちなみに今俺が面接を受けているのは、テラス席もびっくりの様なオープンな場所だ。
ギルド予定地の場所に椅子と机があるだけだ。
この夫妻は近隣出身のようで、自分達が実力を付けて不満を解消する動いたようだ。
「さてアラン=ベリスカルファさん、こんな場所だが我々話を聞いてくれるのは何故だね? 清掃の名家、ベリスカルファ家ならもっといい場所があるでしょう?」
「厳しいからですよ」
「ほう、君は俗に言うブラックが好きなのか?」
「違いますよ、ギルドは有能職員に何処まで金を出せるのかと……清掃は何故かバカにされがちですから」
「ふむ、実力ある者はそれに見合う対価を要求するのは当たり前だ」
「それと、ベリスカルファ家は清掃をバカにする奴を殺します、殺さずとも何かしらします、今のうちに言っておきますね、我が一族は爆弾なんですよ? 私は一族の中では大人しいですが」
ベリスカルファ家は清掃の名家だ、特殊戦闘清掃からご遺体のお浄めまで色々とやる。
それと同時に、清掃をバカにする奴を殺す免許も持っている。
ベリスカルファ家の二代目がそれぞれの国にそれを要求したらしい。
実家の歴史書には、色々とあり清掃を止めてストライキしたとか。
殺す免許を許されるという事は、当時から清掃技術が凄かったのだろう。
まあ今のご時世では表立って使えないが。
少々忘れているな、今度実家の書庫をあさろう。
「うむ、仕事をする上である程度はお互いを知るべきだと思うのだが」
「そうですね」
「ワシは実は異世界転生者なのだよ」
「……異世界転生者、神により選ばれた異世界の勇者」
「そんなもんじゃねーよ」
「!?」
な、なんだこの殺気は!?
異世界転生者と言うなら理解出来る!
神によりいつの時代でも人知を超えた――
「アナタ、これから一緒に働く人に殺気を向けないでください」
「……すまん、ベリスカルファさん」
「いえ、何か事情があるのでしょう」
「アタシから説明しますね、この人は自分の人生を狂わされたんですよ」
「狂わされた?」
「考えてもみてください、アナタが別の世界で勝手に呼び出されて、力をあげるから世の中を良くしてくれと言われたら? しかも戻れないときたら?」
「嫌ですね、僕は清掃にしか興味がありません」
「それを強要するのが異世界転生、もちろん他の理由もありすが」
「他の理由?」
「間違えて殺したから異世界転生させる、気まぐれで異世界転生させる……様々ですね」
「えぇ……」
異世界の勇者については色々と文献が残されているが……
そうか、考えてみればきれいごとすぎるな。
異世界から都合よく人知を超えた勇者がホイホイ現れるのか?
おそらくは神が直接的に世の中に干渉できないだろうからか?
……胸くそ悪い話だ、考えるだけでイライラする。
これ以上はやめよう。
「簡単に言えば……夫は『過度にイキリ散らしす奴』を見ると殺人衝動にかられるんです」
「どのレベルでしょうか?」
「ああ大丈夫ですよ、異世界転生者レベルじゃないとむき出しになりませんから」
「……どんだけ酷いんですか、異世界転生者って」
「そうねぇ……与えられた力でイキリ散らしす奴、世間の常識を知らない奴その他もろもろ」
「……俺の話は置いといて、妻も近しい症状にある」
「症状? 病気とかでしょうか?」
「夫もそうだけど呪いとか祝福とかそんなもんだよ、アタシは『礼儀がなってない奴』をみると殺したくなるんだ、昔に比べたら制御出来る事になった、歳だねぇ」
「……」
自分が普通じゃないのは自覚していだが、やはり世の中は広い。
たかだか20手前の男が何をいってるんだろうな、
……あれ? このギルド大丈夫なのか?
いや、この時点で世間から見たら危ない人達が職員なのだが。
まあ俺がここに就職するとは決まってないが。
「さて、働くにはメリットが無いとダメだね」
「え? まあ……そうですけど」
「アナタならこの価値はわかると思うけど……ボーナスの一つだと思って」
「なんでしょ――こ、これは!?」
お、奥様がとんでもないものを出された!
今! 俺の目の前に出されたもの!
この世界で最初に使われたと言われる石鹸だ!
無論、大昔なので今の石鹼とは違う!
簡単に言えば薬草を固めた物だ。
泡立ちもしないし効果も薄い、だが昔の価値観で言えば!
権力者への献上品だったのも! これは今のご時世では価値がない!
だが! 清掃の一族にこれを見せるのか!?
これは御神体といってもいい一品だ!
「もちろん、これは給料とは別だよ」
「何ですって!? 私の一族の価値観で言えばこれだけで終身雇用できますよ!」
「こらこら、ちゃんと自分の生活を考えなさい」
「む、むう……失礼いたしました、その通りですね」
「これは先日私がダンジョンで見つけたものでね、どうだい? 昔の清掃に関わるアイテムを見つけたら貴方に差し上げよう」
「奥様!? いいのですか!?」
「価値のわかる相手にわたってこそ、道具というのは輝くのよ? 私の師の言葉」
「おお……」
俺は感動した。
ベリスカルファ家は汚れを見抜く才能……魔法と言うべきか。
大小あるが一族に備わっている。
相手の言葉、心に汚れが有るかもわかる。
今この奥様の言葉は磨き立てのアンティークの輝きをしている。
これはもうお話を受けるしかないな。
「わかりました、ギルドの清掃はお任せください」
「うむ、では住む場所と給料の話を――」
こうして名もない中間地点のギルドの清掃員となった訳だが。
ここから超が付くほど個性的になるとは思わなかった。