深夜三時、タカシは締め切り間近の卒論と睡魔の二重苦に喘いでいた。最後の一行を書き終えた瞬間、全身の力が抜け、隣の布団に崩れ落ちる。疲労困憊の体から、無意識のうちに放たれたのは、かつてない威力の「極・龍巻屁風」だった。
「無礼者めが!」
轟音と共に布団が持ち上がり、人型へと変形する。月光に照らされた姿は、筋肉隆々の巨漢。胸板には「絶」、背中には「対」、そして額には「王」の漆黒の刺青が浮かび上がる。
「余は千年の眠りを強いられし布団王なり。汝、下賤なる屁で余を目覚めさせたな!」
古めかしい言葉に、タカシは震え上がる。布団王は瞬く間にタカシの首をロックした。
「千年に一度の覚醒、汝を絞め殺して祝いとしよう!」
「待ちやがれ!その子に触れるな!」
窓ガラスが美しく砕け散り、煌びやかなスパンコール衣装に身を包んだ細身の男が、月明かりを背に優雅に着地した。
「私こそダンスの神。この子の命を狙うというのなら、まず私の永遠のステップを超えてみせなさい!」
ダンス神は長い睫毛を揺らし、タカシに向かって妖艶なウインクを一つ。次の瞬間、足さばきが幻想的に加速し、部屋中に無数の残像が広がっていく。
「ダンスごときに布団の威厳が揺らぐとでも?片腹痛いわ!」
布団王の巨体が宙を舞う。その鉄拳は風を切り裂き、ダンス神の残像を次々と粉砕していく。しかし、本体には一向に届かない。
「見切ったわ!奥義・羽毛千本刺し!」
布団王の体から無数の羽毛が弾丸となって射出される。ダンス神は優雅にスライドで避けるが、一本が彼の白い頬をかすめていく。
「流石ね…なら私も本気を出すわ。秘技、運命のラストダンス!」
ダンス神の動きが突如として変化する。時空を歪めるような舞いに、布団王の動きが徐々に、布団王の意思に反してシンクロしていく。
「くっ…この体が勝手に…!」
「見てろよ、タカシ!これぞ天下無双の舞だ!」
タカシはその超絶技巧に目を奪われ、息を呑む。しかし突如、彼の腹部から再び「極・龍巻屁風」が発生。その圧倒的威力と神秘的な香りで、二人の戦いが一時中断する。
「このニオイは…!」布団王が驚愕の表情で叫ぶ。「伝説の覚醒者…千年に一人の屁の王の香り!」
ダンス神も思わず膝をつく。「まさか、古の予言に記された子だったとは…」
困惑するタカシを前に、布団王が厳かに近づき、騎士の如く片膝をつく。
「汝こそ我らが千年来求め続けし天下無双の王。三種の神器『屁』『布団』『ダンス』を継ぐ唯一の者なり」
ダンス神も深々と頭を垂れる。「私の全てのステップも、今この瞬間からあなたのものです」
「でも俺、明日卒論提出で…」
二人は顔を見合わせ、爆笑する。「王の卒論など、我らが一晩で仕上げてみせよう!」
翌朝、タカシは驚異的な出来栄えの卒論と共に目覚め、枕元には「屁王記—序章—」と記された千年の歴史を持つ古書が静かに置かれていた。
教授は彼の卒論を絶賛し、「これは学術界に革命を起こす」と太鼓判を押した。夜、タカシが部屋に戻ると、布団王とダンス神が彼を待ち構えていた。
「おめでとう、我が王よ」と布団王。
「さあ、本当の試練はこれからよ」とダンス神。
タカシは二人に見守られながら、古書の扉を開いた。そこには「屁術—基礎編—」と書かれていた。
真の伝説は、ここから始まる——。