昨日は結局なかなか眠れなかった。もう会えなくなってしまう。それなのにあんな言い方しちゃって。嫌われたかな。……でもその方が良いのかな。ぐるぐると頭の中をイヤな思考が駆け回る。気づけばいつの間にか眠れてはいたようだけど、もう外からは朝の日差しが私を照らしていた。
これが最後の朝か……。
もっと爽快な気分で迎えたかったものだが仕方がない。制服に袖を通し学校へと向かう。
今日は通学路で真人と会うこともなかった。
昨日の別れ方からまた顔を合わせるのは少し気が引けたので学校に着くまでの間、いつ彼が現れるのかとずっと警戒していたが全て杞憂に終わった。
そして教室に入る。彼と顔を合わせることを覚悟しながら……。
「おっす」
そこにはいつも通りの笑顔の真人がいた。
私はあんなに思い悩んでいたというのに!
「……おはよ」
そう言って軽く真人の椅子を蹴る。
「早いじゃん」
「んー?最後だからなぁ」
「ふぅん」
結局それだけ言って私は席に着く。
「おはよ、恵美」
恵子が声をかけてきた。
「……昨日は、ごめん。あたし言い過ぎた。恵美には恵美の明日があるんだものね」
そう言ってしゅんと肩を落とす。
「私もごめん……でもちょっときいて欲しいこともあるの」
「どうしたの?」
「ちょっとこっちで……」
そう言って私は例の如く女子トイレへ恵子を連行する。
「えっ!? 真人がオーストラリアに?」
恵子は目を見開いて驚いた。
「そうなの……だからもう今日で最後」
「……どうするの?」
「え…」
「このままで、いいの?」
昨日のことがあったからか恵子は少し遠慮気味に私に問いかける。
「よくない……けど、どうにもならないよ。言ったって……どうなる?もしあっちも好きだったとしてももう会えないんだよ。……そうか。それがわかってたから真人は……」
「それでもっ!」
恵子はやっぱり黙っていられない様子で声を上げる。
「えっ……」
「それじゃあ恵美は、好きだって気持ちを抱えたままどうするの?目を瞑って忘れて、そうしておしまい?そんなのってあんまりじゃない!こんなにもお互いを想い合っているのに結ばれないなんて、こんなの絶対おかしいよ!」
「恵子……」
彼女は目尻に涙を滲ませながら叫ぶ。
「恵美。あたしはね、あなたとずっと友達でいたいよ。だから卒業してもきっと何度だってメールするし電話するし会う約束だってする。でももし、もしあたしが遠く離れた場所にいたなら、きっとお互いに別の道に進むことになるの。特に外国になんて行ったら、別の刺激ばかりでお互いのことなんてきっと思い出す余裕もない……。だからね、恵美。真人だってきっとそうなる。……これが最後なんだよ」
親友が訴える現実は、私が直視したくない事実そのものだった。でもきっと届かない。届いたとして、遠い異国の地で私という呪縛を彼にくくりつけて良いものなのだろうか。私はそれが心配でたまらなかった。
「じゃあ真人に伝えたって、彼の邪魔をするだけじゃないの?」
「そんなことない。真人の心にあなたがいたなら、それは過去の思い出じゃなくなるの」
恵子はぎゅっと私の手を握る。
「恵美。今生の別れにしちゃダメだよ」
そう言って赤くなった目で私を見据える。
「……ありがとう」
その気持ちを痛いほど受け取った私は、胸の底から湧き上がる紅い情動を確かに感じたのだった。