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もう最後の下校

そしてまたあっさりと放課後はやってくる。もう明日は卒業式。時間はない。

でも真人をあきらめると決めた以上は連日誘う訳にもいかない。

私はカバンを手に持ち教室を出ようとした。

「恵美」

そんな私に声をかけてきたのは真人だった。

「え、真人」

「今日も、帰んね?」

「いい……けど…………」

恵子の言葉を思い出す。私だけにしかしない……ファイナルアンサー……。

「ん?どした?」

「な、なななんでもないっ!」

頭をぶんぶんと振り余計な考えを振り払う。

「行こ!」

そうしてまた2人で学校を出た。



「明日卒業かぁ~」

残念そうに真人がぼやく。

「長いような短いような……そんな3年間だったね」

「だよなぁ」

昨日もしたような会話だ。まぁほんとに……明日卒業なんだもんな……終わる話なんて、したくないのに……。

「高校卒業しても、連絡していい?」

別にふつうのことなのに、訊くだけなのに、何故か胸がドキドキした。

「……だめ」

「えっ!?」

返ってきた言葉が予想と違ったからあえて伏せていた顔を反射的に上げて真人の方を見る。

にんまり悪い顔。

「……ほんとは?」

「いいに決まってんじゃん」

……やられた。全くガキじゃないんだからほんとにいい加減にして欲しい。

「はっはっは。ほんと恵美っておもしれぇの」

そう言って手を叩いて笑っていた。

「あんたねぇ……っ」

「あれ、あんたここにいたの」

私が文句を言いかけたその時、すれ違った女性が急に真人に声をかける。

「ん?……あ」

さっきまで笑っていた真人が急にその顔を蒼白させる。私はこの人を知っている。真人のお母さんだ。

「恵美ちゃんじゃない。いつも真人と遊んでくれてありがとね」

「えへへ。そんなことないですって」

あまり外に出歩かない私のお母さんと違いこの人はちょこちょこ通学路で会うので真人と私がよく一緒に帰っていることを知っている。よく話もしてくれて私もお世話になっている。

「今までほんとにありがとうね。卒業しても元気でやるんだよ」

「はい、ありがとうございます!」

「なぁ、もういいだろ……ほら」

真人は母親の袖を引っ張り去るように促している。

「もうちょっといいじゃないの。明日話せなかったらもう会えないんだから」

……え?

「おい、ヘンな言い方すんなっ!」

「なぁによだってそうでしょ」

真人はお母さんと揉めだした。

「そ、そうですよ。そんな、また私が会いに行けば……」

「無理よだってオーストラリアよ?流石に会いに来れないでしょ~」

あっさりと彼女はそう言い放つ。

オーストラリア?一体この人は……何の話をしている?

「え、ちょっと……ん?なに?真人、真人どういうこと?」

狼狽える私を見て真人は唇を噛み締めた。

「……わりぃ。本当は、言いたくなかった」

そう言って視線を逸らす真人を見れば、これが真実に違いないことは明白だった。

「そんな……じゃあ……」

「……うん。卒業したら、もう会えない」

一瞬視界が歪むように目眩がした。

卒業してもまた会えるんじゃなかったの?

もはや私の心は叫び出したいくらいだった。

しかしそれでもまだ根深く張った虚栄心が顔を出してしまう。

「ふ……ふぅん…………そう」

そう言って顔を背けた。

「恵美ちゃん、真人が迷惑かけたでしょ?ほんとごめんなさいねぇ」

「いや、その……ぜんぜん……」

その後も続けられるお母さんトークも全く頭に入ってこなかった。

「おい、もういいだろ……」

真人も困ったような顔をして母を引っ張っている。

「あらごめんなさいね。そっか、最後の下校だったものね。邪魔してごめんなさいね」

そう言って少し笑うと彼女は足早に去っていった。

「……あぁ……ったく……」

真人は苛立った様子で近くの電柱を軽く足で小突いた。そこにはどこか哀愁さえもあった。

「……黙ってて悪い。最後まで言わないつもりじゃなかったんだ。ただ……その時までは言いたくなかったけど……」

目に見えて落ち込んだ様子の真人に私がかけられる言葉といえば……。

「ふんっ!あんたらしくないっての!」

そう言って私は頬を膨らませてみせる。

「なっ……!」

「別にいいじゃない!あんたがいなくなるだけでしょ?恵子がいなくなるわけじゃないし~」

そう言って私はいーっとわざと歯を見せつける。真人は面食らったように目を見開いたが黙っている。

「だから……だから別に……」

そこまで言って私は、自分の頬に伝う涙に気づいた。

「恵美……」

「なんでもないっ!」

そう言って私は駆け出す。振り返りもせずに。

卒業式前日。キミと過ごせたはずの時間は、確かにまだあったのに。

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