真人は既に友人との談笑を終え1人で席に座っていた。
「真人!」
「ん、なに?」
「真人はほんとに好きな人、いないの?」
「……なんで」
その問いをきいた真人は少し視線を下げて問い返した。
「なんでって……」
返された問いに私自身も上手く返せず口を噤む。
「……あのさ、恵美」
真人が口を開く。
「……さっきの別に、気にすることないから」
「あ、いやその……私こそ……」
多分真人は私をイジりすぎてしまったのだと思って反省しているのかもしれない。
「そうじゃなくって……あの……私、ほんとは……真人のこと……」
私が意を決してそう言いかけると急に彼は立ち上がった。
「ごめん!……ききたくない」
そう言うと足早に廊下へ出て行った。
「………」
唐突に訪れた絶望を前にして、私はただそこに立ち尽くすしかなかった。
「おーっす純情乙女。ん?どしたん?」
そこにやってきた惠子が私に声をかける。
「惠子ぉ~!」
私は泣きつくように惠子に駆け寄った。
「あぁ……うん……悪かった……」
煽った張本人でもある彼女は申し訳なさそうな顔をしていたが、今は私を受け止めてくれるだけで救いになった。
しばらくして落ち着いてから私は恵子に経緯を説明する。
「……でも真人はなぜ恵美を拒んだのか……?」
顎を擦りながら恵子は推理を始める。
「最初から好きなんかじゃなかったんだよ」
「いや、それは保証する。このあたしが」
どこにそんな自信があるのか……。
「まぁ本人が告白を聞きたがらなかったところに答えはありそうですけどね」
「それは確かに……」
「ん~でも今日はもう近づかない方がいいかもしれないね」
恵子は両手を上げて首を振る。今日のところは彼女でさえ文字通りお手上げなのだろう。
「そんな!」
しかし残り時間の少なさを知る私は焦燥感でだめになりそうだ。
「流石にしつこいよ。きかれたくないことだってあるんだろうから……」
「じゃあこれでおわりなの!? いやよそんなの!」
「だから今日は、って言ったでしょ」
恵子は呆れたように頭に手を当てる。
「焦るな。時間はまだある」
「でもぉ……」
「どうせすぐに下校よ。午前中までなんだから」
私がうじうじしているのと対照的に恵子は先のことを見据えているようだった。
恵子の言う通りに真人とは話せずに放課後を迎えることになった。
「あ、真人……一緒に帰らない?」
しかし私は惠子のいい付けを守らずに真人に声をかける。
「恵美か。……うん、いいよ」
先程の気まずさからか、多少の間はあったが真人は了承してくれた。
良かった。やっぱりちゃんと話した方がいいよ。
「もうすぐ終わっちゃうんだぁ」
桜色に染まる通学路を2人で歩きながらも、結局話題はもう終わる日常についてのことしか出てこなかった。
「あと3日、いや……もう今日は終わりだから2日……か」
そう言う真人はなんだか寂しげで影を感じさせる。
「ねぇ真人」
だから私は、思い切ってみる。
「寄り道しない?」
どうせ午前中で放課なのだからこんな半分だけの1日で終わったなんて言いたくない。だから私は、この3日間を精一杯もがこうと決めた。
もちろん、目標はキミのココロだ。
「……いいね!」
ぱっと表情を明るくさせた真人が拳を上げる。
半日ぶりの笑顔が、やけに眩しく見えた。
特に行くあてもなかったがぶらぶらと町を歩く。いつも通ったコンビニ。公園。ショッピングモール。そのどこにも思い出があって、くだらなかった日々を反芻しては笑った。
徐々に日は落ちていき、黄昏に染まる空はお互いの顔をすっかり隠してしまう。
「あぁ、楽しかった」
「ほんとにね」
特別でもなんでもない、なんてことない帰り道。今日だってそのひとつに違いなかったのに。
なんだかやけに忘れたくない一日だった。
「家まで送るよ」
「ありがと」
あのことには全く触れることはなかったが、いつも通りの真人がいてくれた。それだけで私はもう満足してしまった。
だって、真人は真人だもん。別に恋人にならなくても。
卒業したって変わらない。また会える。だからいい……それで…………。
また自分の気持ちに嘘をついていることに気づきながらも私は逃げた。……逃げてしまった。
夕闇に沈んでいく町が全てを暗く包み込んでいく。
気づけばお互いに無言のまま家の前までついていた。
「また明日、ね」
「うん、またな」
そう言って別れた。