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27.王子を陥れたのは誰か(1)


 翌日、リズベットは不安な気持ちを抱えたまま、レオナルドの迎えを待っていた。


 昨日グレイが消えてから、いくら彼を呼んでも出てこないのだ。そんな事はこれまでに何度もあったのだが、最後に見た彼の様子が気がかりだった。近くにいないだけなら良いのだが、何か嫌なことが起こりそうな気がしてならない。


 レオナルドからの手紙を受け取った時は、早く彼に気持ちを伝えたいと切望していたのに、今はとてもそんな気にはなれなかった。


 そして夕方、王家の紋章を掲げた馬車が、ナイトレイ子爵家に到着した。


 中から降りてきてたのは、レオナルド本人だ。彼の姿を見た途端、抱えていた不安が少しずつ和らいでいく。


(思ったよりお元気そうで良かった)


 レオナルドは少し疲れている様子だが、顔色は決して悪くなく、クマもない。どうやら不眠症は再発していないようだ。王城でもしっかりと休めていそうで、リズベットは安堵する。


「お久しぶりでございます、レオ様」


 リズベットが微笑みかけると、レオナルドも顔を綻ばせた。青の瞳が、愛おしげに見つめてくる。


「リズ、会いたかった。急ですまない。詳しい話は馬車の中でさせてくれ」

「わかりました」


 そうして二人は馬車に乗り込み、王城へと向かった。


 馬車が走り出してすぐに、レオナルドは真剣な表情でこう告げてくる。


「期待させてしまってすまないんだが、まだ全てが解決したわけじゃないんだ」

「そう……なのですか」


 リズベットはあからさまに落胆してしまった。てっきりもう命を狙われることもないと期待していたばかりに、その落差が大きい。


 しかし、レオナルドに任せきりだったのに落ち込んだ態度を見せては失礼だと思い、リズベットはすぐに気持ちを切り替えた。


「では、私を迎えに来られたのはなぜですか? 私が以前手紙でお送りした、魔力暴走を引き起こす薬について、でしょうか」


 急に呼ばれた理由として思い当たるのは、それくらいしかなかった。するとどうやら当たりだったようで、レオナルドが軽く頷く。


「そんなところだ。これから王城に戻り、俺に薬を飲ませた人物に話を聞くことになっている。君には、その場に同席してもらいたい」

「え!?」


 相手はアールリオン公爵だろうか。それともミケル殿下だろうか。はたまた全く別の人物だろうか。全く予想はつかないが、行ってみればわかるだろう。


 しかし、犯人が特定できたのは大変喜ばしいことなのだが、自分がその場にいて何か役に立てるとは思えない。


「私は、何をすれば……」

「何かおかしいと思ったことがあれば、ぜひ意見して欲しい」

「わ、わかりました」


 つまり、相手が罪から逃れようと嘘をついたり、誤魔化そうとしたりしたら指摘して欲しい、ということだろう。思ったより責任重大だ。


 リズベットが緊張していると、レオナルドが神妙な面持ちで尋ねてきた。


「そう言えば、君の護衛はどうしてる?」

「グレイですか? それが、昨日から姿が見当たらなくて……」

「そうか」


 そう答える彼の顔がわずかに陰ったのを見て、リズベットは思わず前のめりになって尋ねた。


「何かご存知なのですか!?」


 突然大声を上げたリズベットに、レオナルドは驚いた様子で目を丸くした。そして、すぐに視線を逸らして目を伏せる。


「いや。申し訳ないが、何も知らないんだ」

「……そうですか。こちらこそ、急に大声を上げたりして、申し訳ありませんでした」


 その後、不安と緊張を抱いたまま、馬車は王城へと到着した。その頃には、既に日が沈みかけているところだった。


 リズベットはレオナルドに連れられ、王城のとある一室へと招かれる。


「待たせたな」


 レオナルドがそう言って部屋に入ると、そこには既に一人の青年がソファに腰掛けていた。


「いいよ、兄さん。でもまさか、リズベット嬢までいるとは思わなかったな」


 にこりと微笑みかけてきたその青年は、第二王子であり現王太子のミケルだった。


(犯人はミケル殿下……!)


 この場にいるということは、そういうことだ。


 リズベットは動揺しつつも、丁寧に一礼して挨拶を交わすと、レオナルドに促され彼の隣に腰掛けた。


「で、話って何? あ、もしかして結婚の報告とか?」


 ミケルは微笑みをたたえながら、茶化すようにそう言った。しかし、レオナルドの次の一言で、その笑顔が凍りつく。


「俺に薬を盛ったのはお前だな?」

「……何の話?」


 いきなり本題に入り、空気が重く張り詰める。リズベットの心臓は緊張のあまり激しく脈打っていた。


 すると、レオナルドが一枚の紙を取り出してテーブルの上に置いた。これは、リズベットが彼に送った手紙のうちの一枚だ。そこには、薬になる材料の名前がずらりと並んでいる。


「これらの材料を調合すれば、人為的に魔力暴走を引き起こす薬を作ることが可能だ。リズベットがそれを証明した」

「へえ、すごいね。で、その薬を僕が兄さんに盛って、魔力暴走を起こさせたって? 証拠は?」


 ミケルは笑顔のままだが、目が笑っていない。リズベットはミケルの言動に注意を向けつつ、二人の会話をハラハラしながら見守った。


「薬の材料は、全てアールリオン製薬でしか取り扱いがないものだ。材料の購入履歴を調べたが、全ての材料を買い揃えている人物は確認できなかった。つまり、薬を開発したのはアールリオン製薬自体だと考えられる」


 アールリオン製薬が自社で取り扱う材料を使って薬を作ったなら、購入履歴に記録が残るはずもない。消去法で考えて、薬の開発者は断定していいだろう。


「そして、大戦終結の少し前、お前の部下がアールリオン製薬の者と取引した際の契約書が残っている」


 レオナルドはそう言いながら、テーブルの上にその契約書を広げた。そこには各々の署名と、取引日や取引きした商品名、免責事項などが書かれている。


「アールリオン製薬を問い詰めたところ、確かにお前に魔力暴走を引き起こす薬を売ったと言っていた」


 契約書と証言があるなら、言い逃れは難しそうだ。ここからミケルがどう反論してくるか。


 リズベットが注目していると、ミケルはにこりと笑って口を開いた。今度はしっかり目も笑っている。


「とうとうバレちゃったか。そうだよ。僕が部下に指示して兄さんに薬を盛り、魔力暴走を起こさせたんだ。王位が欲しくてさ。兄さんには消えてもらおうと思って」


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