「やれ、やれ、なんとか特大発明が完成した」
小さな研究室の中で、ある博士は声をあげた。その声は彼自身の予想より大きく、二つ隣の部屋の管理人が駆けつけた。
「とても大きな声だ、このマンションが揺れましたよ。よほどの大発明なのですね」
「ええ、ええ、そうですとも。これはすごいものだ。これが認められれば、貧困生活ともオサラバですよ」
「それはよかった。あなたは家賃を二ヶ月滞納していますからね」
管理人はきょろきょろと見回す。
「それで、発明品はどこにあるのですか」
「ずっとここにありますよ。わたしの隣のこれです」
「なんだ、ただのテレビじゃないか。しかもブラウン管ですか、期待して損をした。もういい、今すぐ出ていってもらおうか」
「いえ、いえ、ただのテレビじゃありません。これは、未来の嫌なことを見ることができるテレビなのです」
小汚ない博士の部屋とは対照的に、そのテレビは新品としてピカピカに光っていた。しかしその形ゆえに新発明には見えない。
管理人はむすっとしたままだった。
「うそも大概にしてください。別にあなたに地獄へ落ちてほしいわけじゃないんですよ。しかし、来週のこの時間に家賃が払えなければ、もう出ていっていただきます、約束しましたからね」
そう言って、管理人は博士の部屋を出た。
「ふん、ふん、このテレビはほんとうに未来を予見できる発明なのだ。どれ、わたしが使ってみよう」
博士はテレビの方に屈んで、ツマミを回す。
テレビはブブッというノイズをたてたが、画面は真っ暗だった。
「……いや、いや、この発明は間違っていないはずだ。そうだ、このテレビは嫌な未来を映すのだから、何も映さないということは、つまり、嫌な未来がないということだろう」
その後、博士は商人に売り込むための提案書を書いて、寝室に入って寝た。
翌日、ゆっくりと起床した博士は声を上げる。
「テレビが、無くなっている!」
部屋の隅から隅、小物入れの奥まで探してみても、テレビは無かった。
盗まれたのだ。
「そんな、そんな! あのテレビは間違っていたのか!?」
実のところ、あのテレビは完璧な発明品だった。しかし、博士の解釈が間違っていたのだ。
あのテレビは、たしかに博士の未来を映していた。
そう、博士はお先真っ暗だったのである。