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新発明のテレビ
新発明のテレビ
梶浦ラッと
文芸・その他ショートショート
2025年03月18日
公開日
926字
完結済
「やれ、やれ、ようやく大発明が完成した」
 博士が作ったのは、テレビだった。
 マクラではない、テレビだった。

本編

「やれ、やれ、なんとか特大発明が完成した」

 小さな研究室の中で、ある博士は声をあげた。その声は彼自身の予想より大きく、二つ隣の部屋の管理人が駆けつけた。

「とても大きな声だ、このマンションが揺れましたよ。よほどの大発明なのですね」

「ええ、ええ、そうですとも。これはすごいものだ。これが認められれば、貧困生活ともオサラバですよ」

「それはよかった。あなたは家賃を二ヶ月滞納していますからね」

 管理人はきょろきょろと見回す。

「それで、発明品はどこにあるのですか」

「ずっとここにありますよ。わたしの隣のこれです」

「なんだ、ただのテレビじゃないか。しかもブラウン管ですか、期待して損をした。もういい、今すぐ出ていってもらおうか」

「いえ、いえ、ただのテレビじゃありません。これは、未来の嫌なことを見ることができるテレビなのです」

 小汚ない博士の部屋とは対照的に、そのテレビは新品としてピカピカに光っていた。しかしその形ゆえに新発明には見えない。

 管理人はむすっとしたままだった。

「うそも大概にしてください。別にあなたに地獄へ落ちてほしいわけじゃないんですよ。しかし、来週のこの時間に家賃が払えなければ、もう出ていっていただきます、約束しましたからね」

 そう言って、管理人は博士の部屋を出た。

「ふん、ふん、このテレビはほんとうに未来を予見できる発明なのだ。どれ、わたしが使ってみよう」

 博士はテレビの方に屈んで、ツマミを回す。

 テレビはブブッというノイズをたてたが、画面は真っ暗だった。

「……いや、いや、この発明は間違っていないはずだ。そうだ、このテレビは嫌な未来を映すのだから、何も映さないということは、つまり、嫌な未来がないということだろう」

 その後、博士は商人に売り込むための提案書を書いて、寝室に入って寝た。


 翌日、ゆっくりと起床した博士は声を上げる。

「テレビが、無くなっている!」

 部屋の隅から隅、小物入れの奥まで探してみても、テレビは無かった。

 盗まれたのだ。

「そんな、そんな! あのテレビは間違っていたのか!?」

 実のところ、あのテレビは完璧な発明品だった。しかし、博士の解釈が間違っていたのだ。

 あのテレビは、たしかに博士の未来を映していた。

 そう、博士はお先真っ暗だったのである。

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