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第13話 模擬戦闘開始

「なんじゃ?」


「『なんじゃ?』じゃないよヨクハちゃ――団長! 俺の紹介は? 最初に言ってたでしょうが」


 新たに仮入団する自分を紹介してもらえず、団員達に本題だけ伝えて早々に解散させようとしたヨクハに、ソラは堪らずにツッコんだ。


「あ、すまんすまん、忘れてた」


「ったく、酷い扱いだな」


 頬を掻きながら謝罪するヨクハを見て、ソラは溜息を漏らした。


「こほんっ、ということで仮入団という形じゃが今回新たにこの騎士団の一員となったソラ=レイウィング。アロンダイトの大聖霊石を寄贈していくれたのもこやつなので皆感謝するように」


「……よろしくお願いします」


 ヨクハから紹介を受けるとソラは気を取り直し、どこか不服そうな態度を残しつつ、軽く礼をしながら言った。


「では折角じゃ、全員自己紹介でもするとするか」


 直後、ヨクハは立ち上がって提案すると、まずは自分から名乗り始める。


「それでは改めて、この名も無き騎士団の団長ヨクハ=ホウリュウインじゃ。守護聖霊は雲、騎種は白刃騎士。よろしく頼むぞ」


続いて他の団員達も一人一人、自己紹介をしていく。


「騎士のプルーム=クロフォードだよ。守護聖霊は雲、騎種は射術騎士。この騎士団に入ってくれたんだね、よろしくねソラ君」


 笑顔で自己紹介するプルーム。


「騎士のエイラリィ=クロフォード。守護聖霊は水、騎種は支援騎士。仮入団ということなので程々によろしくお願いします」


 姉のプルームとは対照的に、無表情で淡々とした様子のエイラリィ。


「一応騎士やってますデゼル=コクスィネルです。守護聖霊は土、騎種は支援騎士です。こちらこそよろしくお願いしますソラ」


 おっとりした様子の、栗色髪に翡翠色の瞳の少年の名はデゼルであった。デゼルは優しく微笑みながら名乗る。


「騎士のカナフ=アタレフだ。守護聖霊は炎、騎種は狙撃騎士。よろしく頼む」


 カナフは口早に、事務的に名乗りを終えた。


「私は伝令員のパルナ=ティトリーよ。まあよろしくね」


 そしてつっけんどんな様子のパルナ。


「えーと俺は――」


 続いて、先刻格納庫で作業していたシオンという名の、職人のような見た目の初老の男が名乗ろうとした時、突然ヨクハがそれを遮る。


「ってこらシオン殿、ここは禁煙じゃぞ」


「まあまあ団長、久々にここ入ったんだから固い事言うなって」


「久々だろうが頻繁だろうが禁煙は禁煙なんじゃ! はい退場!」


「あ、まだ自己紹介もしてねえのに俺――」


 咥え煙草にマッチで火を付けようとしていたシオンはヨクハに建物の外へと叩き出された。


「今の爺がうちの鍛冶かぬちでソードの整備開発担当のシオンじゃ。これで今ここにいる団員は全員、しかと覚えたな」


「何か濃い人達ばっかだな」


「まあな、その代り皆実力は確かじゃ。ところで次はお主の番じゃぞ、ちゃんと自己紹介せい」


 ヨクハが改まってソラに促すと、ソラは飄々とした様子で自己紹介を始める。


「えー、一応この騎士団に仮入団しましたソラ=レイウィングです。守護聖霊はまだ不明、騎種もまだ未定ですが一応支援騎士希望です。ここに来る前はエリギウス帝国で見習い騎士やってましたが、濡れ衣着せられて追い出されてむかついたんで、今はエリギウス帝国と戦っていく気満々です」


 するとソラの自己紹介を聞いた伝令員のパルナが嘆息混じりに言う。


「ねえ団長、大丈夫なのこいつ? 何か信念とか全然無さそうなんだけど、すぐ逃げ出したり裏切ったりしない?」


「うーむ、多分大丈夫だとは思う……多分じゃが」


 そんなパルナの懸念に対し自信なさげに返すヨクハであった。


「それよりソラ、お主エリギウス帝国で見習い騎士やっとったくせに自分の“守護聖霊”も知らんのか?」


 人間は生まれつき属性が決まっており、その属性を“守護聖霊”と呼ぶ。また、自分と同種の属性のソードや聖霊騎装を使う事で、その性能を100%発揮する事が出来る。


 その為、守護聖霊を判別する聖霊花の儀式は騎士にとっては非常に重要であるのだが、エリギウス帝国では見習い騎士には守護聖霊の判別は行っていない。


 エリギウス帝国には見習い騎士の数が非常に多く、守護聖霊を判別するための聖霊花の種は貴重であるという理由から、基本的には銀衣騎士に覚醒した者だけが行うのだとソラは言う。


「成程のう。大国のくせにエリギウス帝国は中々ケチ臭いのう。まあ“聖霊花の儀”は後でやるとして、ソラお主には今からソードでの模擬戦闘を行ってもらう」


「も、模擬戦闘?」


「早い所お主の騎種を決めなくてはなるまい。今から模擬戦闘を行い、わしがお主の適正を見極めてやろう」


 突然の提案にソラはたじろいだ。


「誰と、どんな形式で?」


「そうじゃのう、この中ではお主の相手はカナフに任せるのが妥当かのう、形式は模擬刃力剣のみを使用した一本勝負じゃ」


「俺がやるのか団長? 俺は狙撃騎士で、剣は普段殆ど使わないが」


 カナフもまた、突然振られて戸惑った様子であった。最低限の剣術は修得しているものの、狙撃騎士である彼は剣での戦闘を専門としておらず、当然得意ともしていなかったからだ。


 しかしヨクハは返す。ソラは蒼衣騎士、カナフは銀衣騎士。そのくらいのハンデが無ければ勝負にならないだろうと。


「ていうか騎種の適正を見るのに刃力剣クスィフ・ブレイドだけの戦闘で、本当に適正測れるのか団長?」


 それは至極真っ当な疑問ではあるのだが、いかんせん知識があまり豊富でないソラは、そういうものなのだと半ば受け入れざるを得ない。


 しかしヨクハは無駄に、自信満々な様子で返す。自分程になれば剣捌きを見るだけでその者がどういう人物なのか、そして何が向いているのか分かるのだと。


 対し、怪しむように目を細めてヨクハを見つめるソラであったが、小さくため息を吐き渋々了承する。


「まあいいか、模擬戦闘なら死ぬ事も無いだろうし、それで騎種の適正を見極められるっていうなら」


 するとヨクハが、ソラとカナフへ不意に告げる。


「あ、ちなみに負けた方は罰として一ヶ月間毎朝、島一周全力走十本じゃぞ」


「島一周全力走を十本って、え? 毎朝それやるの? 嘘でしょ? そんな無茶苦茶な訓練、騎士養成所でもやったことないぞ!」


 一見無茶な提案に食ってかかるソラであったが、ヨクハは淡々と説く。


 近頃の騎士はソードでの操刃技能ばかり重視して生身での訓練を怠る傾向があり嘆かわしい。


 ソードの操作器構は半脳波半手動式操作器構が採用されており、単純に操刃柄そうじんづかを操作することだけでも動かす事が出来るが、操刃柄そうじんづかを通した思考やイメージによる操作も可能であり、純粋な操刃技術と、思考やイメージによる生身の戦闘力の投影、その双方が組み合わさる事でソードとしての戦闘能力が決まるのだ、と。


「だからって毎日そんな地獄のダッシュは嫌すぎる」


「このたわけ! やる前から負けた後のことを考える奴があるか」


「そんな事言われてもなあ」


 そんなソラの泣き言は、島の彼方へと悲しく消えた。





 それから、騎種の適正を測る目的でカナフとの模擬戦闘を行うことになったソラは、己が操刃するソードを拝借するため、再び格納庫を訪れていた。


 そしてソラは、プルームとエイラリィと共にカットラスの前に立っていた。


「本当にこれ借りていいのプルームちゃん?」


「うん、ソラ君の騎士養成所には元々カットラスもあったって言うから扱いやすいでしょ。このカットラスの属性は風だからソラ君と相性がいい属性かどうかは分からないけど」


 ソラはプルームの申し出で、彼女の愛刀であるカットラスを借りて戦う事となり、それに対する謝意を示す。


「ありがとうプルームちゃん」


「姉さんが座っている座席の匂い嗅いだりしないでくださいねソラさん」


「するか! エイラリィちゃんの中で俺のキャラどうなってんの?」


 自分を変態扱いするエイラリィにツッコミつつ、ソラは、膝を付いて佇むカットラスの膝を踏み台にして操刃室へと入り込む。


 操刃柄そうじんづかを通して聖霊石に刃力を流し込んで動力を起動させると、カットラスの双眸が輝く。


 同時に、側方で同じように一器のソードに動力が点り双眸が輝いた。


 そのソードの騎体名はタルワール。赤色を基調としたカラーリングに細見の体躯と鎧装甲を持ち、兜飾り《クレスト》として額に宝玉を埋め込まれたそのソードは、主にディナイン群島で使用されている主力量産剣であり、カナフの愛刀でもある。


 また、右腰部には砲身の長い、長距離狙撃戦仕様の狙撃式刃力砲クスィフ・ペネトレイトカノンを備えており、背面に収納されていた。


 二振りのソードが起動すると、格納庫の天井が開かれ、蒼空が顔を覗かせる。両騎が片膝の体制から立ち上がり、推進刃から粒子が放出され、カナフのタルワールは銀色の、ソラのカットラスは蒼色の、それぞれが光の騎装衣を形成させる。


「ソラ=レイウィング、カットラス出陣する……なんてちょっと言ってみたりして」


 はにかみながら、騎士の出陣時の言葉を一人呟くソラ。そしてカットラスは飛翔し、格納庫を飛び出した。



 数秒飛翔すると、島の端に設置された円形の模擬戦闘場が見えて来る。そこにソラは降り立つ。


 白い石造りの壁に、緑の芝、開放的な空間には何も無く、ただ二騎のソードが相対していた。


 少し間を空け、ヨクハとプルーム、エイラリィとデゼルが模擬戦闘場に徒歩で到着する。


「待たせたな。カナフはわかっておると思うが、ソラ、模擬刃力剣は後ろの壁にかかっておるからそれを使え」


「おっ、これか?」


 模擬刃力剣は騎士が主に訓練で使用する刃力剣クスィフ・ブレイドであり、通常の刃力剣クスィフ・ブレイドと同じように、刃力と、光の聖霊の意思を利用して刀身を具現化形成するが、切断力は皆無の文字通り模擬戦用の刃力剣のことである。


 ソラは背後の壁に掛けられた刃力剣クスィフ・ブレイドを鞘ごと取り、己の騎体の左腰に備え付けられている刃力剣クスィフ・ブレイドと交換した。


そして再び相対するソラとカナフ。


「さあ準備は良いな二人共?」


「あんまし良くはないけど、まあよしってことで」


「俺はいつでも大丈夫だ団長」


 二人の言葉を聞き、ヨクハは口の端を上げて、右手を掲げた。そして掲げた右手で空を切る。


「模擬戦闘一本勝負……始め!」

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