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第12話 仮入団

※      ※      ※     



 群島国家レファノスのとある島、澄み切った青空の下、黒髪金眼の幼い少年と、黒紫こくし髪に紅い瞳を持つ幼い少女が隣り合って座っていた。


「なあ、あの話……もう一度聞かせてくれよ」


 少年がそう言うと、少女は笑顔で頷いて語り出す。


 竜祖セリヲンアポカリュプシス、それは全ての竜の母にして竜の皇。


 遥か古、この世界は八つの元素から始まった。


 光、雷、雲、風、闇、水、炎、土。この八大元素からやがて構築された世界の中で元素はそれぞれが意思を持つようになり、聖霊と呼ばれる超常たる存在へと昇華した。


 更に光、雷、雲、風の聖霊が集合し空の聖霊神カムルへと成り、闇、水、炎、土の聖霊が集合し、地の聖霊神ラテラへと成った。


 八大元素で構築された世界を、実体無き八大聖霊と、空の聖霊神カムル、地の聖霊神ラテラ達の強い意思だけが司っていた。それから永い時が流れ、聖霊達の意思は具現化を果たし、遂には生命体を生み出すことに成功する。


 後にラドウィードと呼ばれるその世界に生み落とされた最初の生命体、それが竜と呼ばれる古代生物だった。


 その始まりの竜は八つの元素、すなわち八つの属性を持ち、七つの首を持つ黒き竜。それが全ての竜の母にして竜の皇、竜祖セリヲンアポカリュプシスであった。


 黒紫こくし色の少女の髪が風に揺れる。黒髪金眼の少年はそんな少女の顔を横目で見つめながら、少女の語りに耳を傾けていた。


 生命の育みという聖霊達の願いを託され生まれ落ちた竜祖セリヲンアポカリュプシスは、竜族によりラドウィードを繁栄させるため、七つの首を分裂させて七匹の竜を生み出し、ラドウィードの各地へと送り込んだ。


 七匹の竜は各地で子孫を残し、セリヲンアポカリュプシスの思惑通り竜族は静かに繁栄を続けた。しかし同時に、このラドウィードには新たな生命体が次々と誕生していった。


 多種多様な生命の繁栄と共存、それこそが聖霊達の真の願いであったからだ。


 しかし、セリヲンアポカリュプシスは怒り狂った。自分こそが……自分達竜族こそが聖霊達の意思を引き継ぎ、このラドウィードに君臨する唯一の存在であると信じていたからだ。


 そしてセリヲンアポカリュプシスは既に繁栄していた竜族を率い、新たに生まれた種族を次々と滅ぼしていくのだった。


 だが、自分達以外の種族を滅ぼしていくことに疑問を持ち、反旗を翻した竜達がいた。それが後に七竜王と呼ばれる七体の竜。そう、セリヲンアポカリュプシスから分裂した、七つの首から生まれた竜達である。


 セリヲンアポカリュプシス率いる竜族と、七竜王の戦いは永きに渡り、一つだった大陸が割れる程の激しい戦いの末、七竜王は遂にセリヲンアポカリュプシスを討ち倒すことに成功した。そしてセリヲンアポカリュプシスはラドウィードの大地へと還る。


 しかし、セリヲンアポカリュプシス達との死闘で力を使い果たした七竜王もまたラドウィードの大地へと還るのだった。


 こうして後に“竜牙の血戦”と名付けられる竜族達の戦いは幕を閉じた。



※      ※      ※     




 ソラが目を覚ますと、そこはどこかの一室。障子と呼ばれる紙を貼り合わせて作られた横開きの戸。畳と呼ばれる干し草に近い香りのする草を編みこんで造られた床。ソラはそこに敷かれた布団の上で寝ていたことに気付いた。


「あれ? 確か俺……」


 記憶が少しずつ蘇ってくるのを実感した。すると、その横に誰かが座っていることに気付く。布団のすぐ横、何やら沈んだ顔で座布団の上に正座していたのはヨクハだった。


 するとヨクハは、ソラが目覚めたことに気付くと、表情をパアッと明るくさせた。


「おおっ、目覚めたか!」


「だ、団長さん?」


 ヨクハは明るくさせた表情を再び沈ませ、何やら口ごもると。


「すまん!」


 顔の前で両手を合わせて謝罪した。その対応が意外だったのか、ソラが呆けたように黙っていると、ヨクハの懺悔が始まるのだった。


「大聖霊石を奪い取るわ、投げ飛ばして気絶させるわ、お主に対してさすがに酷い事をしすぎたと反省してな……皆にも非道だと責められるし」


 凛とした第一印象とは一転、今度は見た目の歳相応に表情豊かな少女の姿を見せるヨクハに、ソラは噴き出した。


「なんじゃ? 何故突然笑う?」


「いやあ、何か面白い団長さんだなって」


「……何か馬鹿にされているような気がするのう」


 ヨクハは納得いかないような様子で顔を背けた。そんなヨクハを見てソラは再び噴き出すのだった。


「ところでお主」


 すると、今度は神妙な面持ちでヨクハは切り出す。


「なぜエリギウス帝国を離反した?」


「それがさあ、聞いてくれよ…………」 



 その問いにソラはこれまでの経緯を説明するのだった。


 エリィ=フレイヴァルツに憧れて第二騎士師団に入るために騎士を目指していた事。騎士要請所で銀衣騎士に覚醒する前に十五の誕生日を迎えてしまった事。ひょんなことから大聖霊石を盗む形でエリギウス帝国を追われ、竜卵に入り死にかけた事。


 目を覚ますと何故かルイン島におり、そこに住む神父に助けられた事。〈因果の鮮血〉への入団を目的に切り替えた事、突然の第十二騎士師団〈連理の鱗〉の襲撃で絶体絶命に陥いり、プルームとエイラリィに助けられ、その二人を〈因果の鮮血〉の騎士だと思い込みここまでやって来た事。


 ソラの愚痴にも近いその語りを、ヨクハは腕を組みながらひとしきり黙って聞いていた。


「うーむ、なるほどのう。大体の事情はわかった。そしてお主がそんなくだらん理由でエリギウスの騎士になろうと思っていたという事ものう」


「い、いやあお恥ずかしい」


「しかし腑に落ちん」


 するとヨクハは、ソラの目を真っ直ぐに見ながら問う。ソラがエリィ=フレイヴァルツに憧れて第二騎士師団を目指していたというのは分かったが、エリギウス帝国を追われながらも何故そうまでして再び騎士を目指すのか、何故そこまで〈因果の鮮血〉にこだわるのかと。


「いやあだって〈因果の鮮血〉に入って騎士やってれば、いつか第二騎士師団と戦う事だってある訳だろ? そしたらそこでエリィ師団長と出会う可能性だってある訳だし、ほら戦場で芽生える恋だってある訳だしさ」


 ぎこちない決まり顔で言い放つソラ。そんなソラに対しヨクハは意外にも動じた様子も引いた様子も無く、少しばかりの笑みを浮かべて返す。


「……なるほどのう、お主が第二騎士師団にただならぬ想いを抱いているのは分かった。じゃが、会ったことも無い女に憧れを抱き、蒼衣騎士であるお主が騎士として戦場に出る、それはさすがに無理があるじゃろ」


「あっ、いや……」


 全てを見透かすかのようなその瞳に吸い込まれそうになり、ソラは平静を保てずたじろいだ。


「何より、そのエリィ=フレイヴァルツがお主の言うとおり絶世の美女だとしてもじゃ、わしより可愛い女子おなごなどそうそうおらんと思うがのう」


 自身満々に言い放つヨクハに対し、若干の苛立ちを覚えながらも「確かに」とそう納得させられそうになった自分をソラは必死に抑えたのだった。


「まあその話はとりあえずよい、じゃがお主が行く宛が無いというのは事実。そしてうちの騎士団が人員不足というのもまた事実、そこでどうじゃ? お主、本当にこの騎士団に入団してみぬか?」


「え?」


 突然の申し出にソラがきょとんとしているとヨクハが続ける。


 この騎士団は確かに出来たばかりでまだ制服も無い、紋章も決まっていない、名前すらない。しかし〈因果の鮮血〉のようにエリギウス帝国と戦っていく為に結成したのだと。


 エリギウス帝国と戦っていく、この小さな騎士団が掲げるあまりにも大それた目的にソラは驚きを隠せず言葉を詰まらせた。そんなソラに、ヨクハは更に続けた。


「お主も解っているはずじゃ。このままエリギウス帝国がレファノスとメルグレインを制圧し、オルスティア統一を果たせば世界は混沌の闇に包まれる」


 エリギウスに居たソラにとって思い当たる節があるのだろう、再び言葉を詰まらせた。


「それにこの騎士団で戦っていても、いつか第二騎士師団と戦うことになるかもしれんのは同じじゃぞ」


 そのヨクハの言葉を聞き、ソラは考え込んだ。再び己の中での葛藤が始まる。


 ――大聖霊石を失った俺がこのまま〈因果の鮮血〉に入団出来る可能性はほぼゼロ。すぐに壊滅しそうではあるけど、この小さな騎士団にとりあえず腰かけで入団して〈因果の鮮血〉に入団する方法を考える。そしてやばそうになったら逃げる! それが今のところ最善。


「じゃ、じゃあとりあえず仮入団って形で……」


「むっ、煮え切らぬ男じゃのう」


「それに俺蒼衣騎士だけど大丈夫なの? 役に立てるかな?」


「騎士には支援騎士という役職もある。それならば蒼衣騎士であるお主でもそれなりに役に立てる」


 騎士には蒼衣騎士、銀衣騎士、聖衣騎士と呼ばれるように、能力の覚醒に応じて階級が分けられるが、それとは別に戦い方や戦う距離、使用する聖霊騎装等に応じて、騎種と呼ばれるポジションが分けられる。


 騎種は四つあり、主に刃力剣クスィフ・ブレイド等を使い近距離で白兵戦闘を行う白刃騎士、主に刃力弓クスィフ・ドライブアロー思念操作式飛翔刃レイヴン等を使用し中距離から遠距離戦闘を行う射術騎士、主に狙撃型刃力弓クスィフ・スナイプアロー等を使い遠距離からの狙撃戦を行う狙撃騎士、そして味方に対する刃力の補給、火力の増幅、結界などの防壁を張る等味方の支援を行う支援騎士である。


「そこまで言うならお世話になるよ、よろしくヨクハちゃん」


「誰がヨクハちゃんじゃ、団長と呼べ阿呆」


 そしてヨクハはソラに対し右手を差し出す。ソラもそれに応え、右手を差し出し握手を交わす。瞬間、ヨクハの表情が驚愕のそれに変わるのだった。





 数十分後。


 ヨクハは騎士団員を全員、最初にヨクハ達が居た白い建物である聖堂に集める。


「よし、全員集まったな」


 その場に居たのはソラを含め七名。ソラ以外の六名は既にソラが一度見た者達であった。


 ――これで全員か、少なっ。


「おいお主、今『これで全員か少なっ』とか思ったじゃろ?」


「うっ!」


 適格に図星を突かれ、ソラは言葉に詰まった。


「やはりな、しかし安心せい。普段は諜報活動と依頼請負を行っていてまだこの場にいない密偵騎士がおるのじゃ」


「あ、だよね、さすがに十人未満ってことはないよなあ。で、何人くらいいるのその密偵騎士の人は」


「一人じゃが」


 それを聞いてソラは思わずずっこけるのだった。


 ――結局俺入れても十人もいない騎士団じゃんか。大丈夫かな?


 しかしそんな不安に抱かれるソラを尻目に、ヨクハは本題を進める。


 今回皆を集めたのは、プルームがアロンダイトの操刃者として認められたことの改めての報告と、仮入団者の紹介の為であると。


 それを聞き、プルームが神剣アロンダイトに選ばれたのを知っている団員達も含め、全員ざわめく。


 これまでは起動出来る神剣を所持していたのはエリギウス帝国のみ。しかし雲の神剣アロンダイト、これが手に入った以上エリギウス帝国一強のバランスが崩れる可能性が生まれたからだ。


「一気に奴らを陥落させるチャンスになるかもしれないな」


 カナフが淡々と言い放つと、ヨクハは首を横に振った。


「いや、アロンダイトはまだ使わん」


「え、団長どうして? せっかくアロンダイトが起動出来るようになったのに」


 と、意外そうに返す栗色髪に翡翠色の瞳の少年。するとヨクハは説く。


 確かにアロンダイトの存在はかなり大きい。しかしエリギウス帝国が現在起動出来る神剣の数は三つ。それだけではなく、エリギウス帝国に敵対する〈因果の鮮血〉の兵力を合わせたとしても自分達と帝国とでは単純な戦力差がありすぎる。


 自分達など今は小さな騎士団。取るに足らぬ存在かもしれない、だが起動出来る神剣を所持しているとなったら話は別になる。恐らくエリギウス帝国は総力をもってこの騎士団を潰しに来る可能性があり、そうなればひとたまりもないのだと。


 その正論にプルームが残念そうに呟く。


「そっか、じゃあアロンダイトは暫く……」


「その時が来るまで使うのはお預けという訳じゃな」


 一気に戦況がひっくり返せると思いきや、まだまだ変わらない現状を知り、場が少しだけ静寂した。


「しかし神剣が手に入った事が目標への大きな一歩となったのもまた事実……その内祝杯でもあげるとしよう、ということでこれにて解散」


「いや、ちょっとまて!」

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