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第9話 新たな出会いと旅立ち

「た、助かったのか?」


 全てのエスパダロペラが撃墜され、あまりにも予想外の助太刀にソラは未だに生きている実感が湧かず、惚けながらグラディウスの鎧胸部を開き、自身は地へと降りる。そしてすぐにウィンの元へと駆け寄った。


「大丈夫ですかウィンさん?」


「ええ、何とか」


 特に怪我をした様子もなく、無事な様子のウィンにソラは胸を撫で下ろすと、二騎のソードに向かって手を振って叫ぶ。


「おーい、そこの騎士さんお願い、この檻ぶった斬っちゃってくれる?」


 すると、所属不明のカットラスが操る思念操作式飛翔刃レイヴンが檻を切り刻み、破壊した。それによりウィンは檻から脱出することに成功する。


 直後、八基の思念操作式飛翔刃レイヴンがカットラスの両肩部へと収納されると、二騎のソードがソラ達の元へと降りてくる。そして着地し、それぞれのソードの鎧胸部が開かれ、中から騎士が二人降りてきた。


「大丈夫でしたか?」


 その騎士は二人ともソラと同じ歳の程の少女であった。


 カットラスを操刃していた騎士は、赤髪のポニーテールと金色の瞳が特徴で、おっとりとした雰囲気の少女。


 そしてカットラスの後方に待機し、戦闘には参加していなかったもう一騎のソード カーテナを操刃していた騎士は、カットラスの騎士の少女と同じく金色の瞳と、肩口まで伸びるウェーブのかかった赤髪が特徴の、どこかツンとした雰囲気の少女であった。


「はあ、マジで助かったよ」


 腰を抜かしたようにその場にへたりこむソラに、二人の少女は顔を見合わせた。


「あはは、私はプルーム=クロフォード、エリギウス帝国の騎士による襲撃を一人で阻止しようなんて勇敢なんですねえ」


「いやいやいや、もう本当逃げ出そうかと思ってたんだけどね、この島に住んでる少女が女の武器を使って脅迫してくるもんだから仕方なく」


 思わず本心を打ち明けるソラに、冷たい視線を送るウィン。


「……仕方なくだったんですかソラ?」


「嘘ですよ嘘、結局最後まで戦ってたでしょ俺?」


「はは、冗談です。わかってますよソラ、ありがとうございました」


 焦って弁明するソラを見て、吹き出しながらウィンは礼を言った。


「僕はウィン、お嬢さん達も本当にありがとうございました」


「俺はソラ=レイウィング、この恩は忘れるまで忘れませんから」


 ソラは特に下心無く、単純に感謝を込めてプルームと名乗る騎士の手を両手でがっちりと握りながら返した。


「あ、痛っ」


 すると突然、もう一人の騎士である少女がソラの手をはたく。


「姉さん、気安く男に手を触れさせちゃ駄目」


「え、エイラリィ」


 無表情のまま冷たくプルームに指摘するエイラリィと呼ばれる少女。そしてはたかれた手をさすりながらソラは返す。


「いやあ、美少女姉妹で騎士とか最高じゃないですか、人気出ますよきっと」


「……人気って」


「えへへ、何か面白いなあこの人」


 淡々と訳の解らないことを言い放つソラに、若干引き気味のエイラリィと、笑顔を浮かべるプルーム。すると、教会の扉が勢いよく開かれ、アーラがウィンの元へと駆け寄ってきた。


「院長先生、うわーん院長先生が連れて行かれちゃうかと思って私」


 目に涙をいっぱいに溜め込み、アーラは鼻水を垂らしながらウィンにしがみ付く。そしてそんなアーラをウィンは優しく抱きしめた。


「ソラと、この二人の可憐な騎士さんのおかげですよ」


 ウィンがそう告げると、アーラは、感情を溢れさせながら今度はソラの足元へとしがみ付く。


「ありがとうソラ、ありがとうお姉ちゃん達」


「あっ、俺の服に鼻水が!」


 そんなソラの台詞でプルームがソラの服に目を向けると、何かに気付いたように言う。


「黒い騎士制服と背中の紋章……その恰好、あなたエリギウス帝国の騎士じゃ?」


「あー俺、エリギウス帝国の騎士養成所の騎士候補生だったんだ、ほらコートの左胸に紋章が付いてないだろ? あとあのソードも演習用のをかっぱらって来たんだ。いやあ色々あってさあ」


「……そう」


 全てを語らないソラに対して訝しむエイラリィだが、ソラは決意したように本題を切りだした。


「それよりも、まさか目的の騎士団の人達とこんな所で会えるなんて運が良すぎてちょっと怖いけど」


「え? 私達の騎士団が目的?」


 プルームが尋ねると、ソラは何度も頷いてみせた。


「大国のエリギウス帝国に、勇敢に立ち向かい続けるあんた達の騎士団に入るのが俺の当面の目的だったんだよ」


「えっと、別にそこまで言う程戦ってるわけじゃないと思うけど、うちは」


「えーまたまたご謙遜を」


 しかし、意気揚々と入団を望むソラに対して、エイラリィが返す。


「ちょっと待って、素性の分からない、ましてやエリギウス帝国の騎士だった人間を入団させられる訳がない」


 そんな当然の指摘に、ソラは待ってましたと言わんばかりに懐に手を入れ不敵な笑みを浮かべた。


「はい、これならどう?」


 そしてどこか自信満々な様子で取り出したのは雲の大聖霊石であった。灰色に強く、神々しく輝くそれを見て、言葉を失うプルームとエイラリィ。


 大聖霊石を餌にして〈因果の鮮血〉入団を企んでいたソラにとって、このシチュエーションは正に千載一遇のチャンスであった。


「そ、それって雲の大聖霊石!」


「何故あなたがそれを!」


 驚愕と共に問う二人に対し、ソラが答える。訳あって不本意ながらこれを盗み出す事になり、エリギウス帝国に帰ることが出来なくなったため、プルームとエイラリィの所属する騎士団に入団させてほしいと。


「入団を許可してくれたら勿論この大聖霊石は差し上げますよ」


 ソラの突然にして怪しげな提案に対し、顔を見合わせるプルームとエイラリィ。


「いいんじゃないかな、大聖霊石くれるならお得だし」


「ちょっと待って、姉さんの一存で決める事ではないわ」


 楽観的に許可をしようとしたプルームだったが、エイラリィに指摘され「じゃあちょっと団長に相談してみようか」と、プルームはカットラスに乗り込む。続いて伝声器を通し、誰かと会話を始めた。


 そして会話を終えると、カットラスから降り、再びソラの元へとやってくる。


「団長はとりあえず連れて来てって言ってたよ、ただで大聖霊石が手に入るならお得だからって」


 それを聞き、額に手を置いて溜息を吐くエイラリィ。


「姉さんも団長もどうしてこう軽いの」


 そんなエイラリィを余所に、ソラはとんとん拍子に事が運んでいることに一抹の不安を感じつつも、素直に喜んだ。


「じゃあ早速、私達本拠地に帰るけどソラ君準備はいいかな?」


「ちょっと待って、あのさウィンさん」


 プル―ムに出発を示唆されると、ソラは一旦プルーム達を待たせ、ウィンに声を掛けた。


 ソラは危惧していたことを伝える。ウィンを連れて行く為にやってきた部隊が消息を絶ったという事を、〈連理の鱗〉の騎士達は当然気付く筈である。であれば、調査の目的も兼ねて〈連理の鱗〉の別の部隊が再びこのルイン島にやってくると。


「そうなんですよね、ここはレファノス王国の領空内とはいえ、奴らは僕を捕えたがってますからね。ここに居続けるのは危険でしょう。いい島だったんですが居所が割れた以上引っ越すしか無いでしょうね。すみません、アーラ」


「ううん、私は全然大丈夫だよ、また別の島でお家建てたり、牧場作ったりしようね院長先生」


 アーラが明るくそう言うと、ウィンは安心したように笑顔で頷いた。そんなウィンにソラはふと問う。


「ていうかウィンさんって何者? 何でエリギウス帝国から追われてるんすか?」


「うーん、まあそれはその……追々」


「そっか、まあ色々あるんだな」


 言い辛そうに頭を掻きながら口ごもるウィンに何かを察し、ソラは追及するのを止めた。


 するとソラは半壊したグラディウスの鎧胸部を開き、中に入ると何かを引き抜いた。それは掌大の装置。雷の聖霊石が中心に埋め込まれた機器であるそれは伝声器と呼ばれるもの。雷の聖霊の意思を利用し、遠く離れた場所に在る別の伝声器に声を届ける器能のある装置である。


「プルームちゃん、エイラリィちゃん、お願いがあるんだけど」


「お願い? 何かな?」


 ソラは、その伝声器をウィンに預けるので本拠地に繋がる伝声器の通信暗号を教えてあげてほしい、そしてもしもの時はまた助けてあげてほしい、と依頼する。


「わかった、そういうことなら出来る限り協力するよ。うちの本拠地の伝声通信暗号は…………」


 プルームは快くウィンに本拠地の伝声通信暗号を伝えた。この暗号を入力する事により、対象の伝声器と相互に会話が可能になるのだ。


「神父さん、何かあったらすぐに連絡してください」


「何から何までありがとうございます」


「それじゃあ、これで心置きなく行けるな」


 ソラがそう言うと、アーラが口ごもり何かを言いたそうにソラの方を見つめていた。それを察したウィンが一歩前に出る。


「ソラ、短い間でした楽しかったですよ、でもよかったですね」


「はいウィンさん。こっちこそ、何てお礼言ったらいいか」


「引っ越し先が見つかったらまた、この子に会いに来てくれますか?」


「勿論ちょくちょく行きますよ。アーラちゃん、元気でな」


 ソラの別れの言葉を聞き、アーラは堰を切ったように再び涙を溢れさせた。そしてソラの元まで駆け寄りながら伝える。


「ソラ、ちゃんと会いに来てね。ちゃんとご飯も食べてね、寝坊とかしちゃ駄目だよ」


「ははっ、大丈夫。まあ適当に頑張るからさ」


 泣きじゃくりながらませた台詞を絞り出すアーラの頭に、ソラは優しく手を置いて微笑んだ。



 直後、プルームとエイラリィは二振りのソード、カットラスとカーテナに乗り、ソラはプルームが操刃するカットラスの掌に乗せられ、それぞれ本拠地を目指して飛び立っていった。


 そしてアーラは、そんなソラ達に向かっていつまでも手を振り続けていた。

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