「止まれえええっ!」
ソラはすぐさま騎士達の進行方向へと回り込み、立ち塞がる。同時に拡声器により増幅されたソラの叫びが四人の騎士達に届く。
「ソ、ソラ?」
牢の隙間から驚きを顕わにするウィン。しかしソラに作戦など無かった。というより今まさに考え中であった。
――ソードから放出される粒子の色から見て相手は銀衣騎士が四人。騎体は全てエスパダロペラ、量産剣の中でも特に量産性と汎用性を重視して開発されたソード。総合的な性能はグラディウスの方が上だ。とはいえこっちは演習用のグラディウス、武装は接近戦用の
「あれ、これ詰んでない?」
その時、目の前の騎士から相互伝声の許可を求められ、ソラは晶板を押下、許可をすることにより相互伝声が可能となった。
『十二騎士師団所属ではないソード、貴様反乱軍の者か?』
「違うね、まあ〈因果の鮮血〉に入団希望ではあるけど」
『くっ……はは、ははははは、こいつはお笑いだぜ』
すると突然、伝声器越しに騎士の小隊長と思わしき男の笑い声がこだました。
「お、何か知らんけどうけた?」
『ソードの粒子が形成している騎装衣の色は蒼、貴様蒼衣騎士ではないか』
騎士達の指摘のとおり蒼色の粒子を放出させているソラが、蒼衣騎士であることは一目瞭然であった。
『蒼衣騎士如きが〈因果の鮮血〉に入団して何の意味がある、それ以前に俺達の前にのこのこと姿を現してきたのはいったいどういう了見だ?』
「黙れよ、あんたらが連れ去ろうとしているその人はな、俺の命の恩人なんだよ、勝手な事してもらっちゃ困るんだよ!」
『ふんっそれがどうした? 我々は師団長の命に従い、任務を全うするだけだ、邪魔をするならば排除する』
騎士達が操刃するエスパダロペラ四騎が、
「いやいやちょっと待ってくださいよ、素人に毛が生えた程度の俺相手に銀衣騎士ともあろう方々が四人がかりって、それはちょっと酷すぎませんか?」
だが突然のソラの弱気に、呆気に取られる騎士達。
『なんだお前? さっきまでの威勢はどこに――」
「はい、隙あり!」
直後、ソラはグラディウスを小隊長へ真っ直ぐに突っ込ませ、グラディウスの腰に備え付けられた鞘から
『くだらん』
しかし、小隊長はそれを読んでいた。小隊長のエスパダロペラの腰に備え付けられた鞘から
『な……に?』
次の瞬間、グラディウスの
『ば、馬鹿な!』
両断された小隊長騎のエスパダロペラは空中で爆散、閃光と爆煙を巻き起こした。
『し、小隊長がやられた! 奴は不思議な
小隊長を討ち取られ、残された三人の〈連理の鱗〉の騎士達は、ウィンが入れられた檻を一旦地に置くと、ソラを警戒し、散開してグラディウスを囲むように陣系を取った。
――警戒された、もう“あの技”は使えない。こんな事ならいきなり不意打ちかまして一騎減らしてから使うんだった。つい勢いで「止まれええ」とか言って登場しちゃったよ。
「ソラ、無茶しないで逃げてください」
「俺だって逃げ出したいですよウィンさん、こんな所で死にたくないし、けどあんたがいなくなったらアーラちゃんはどうなるんですか? それに泣いてる女の子は笑顔にするのが俺の流儀なんですよ……とか言ってみたり」
ソラはそう言い放つと、前方のエスパダロペラに向かって突進しながら
「ちっ」
ソラはすぐに目標を切り替え、右方向に位置するエスパダロペラに向かって再度突撃、上段からの振り下ろしを繰り出した。しかし、エスパダロペラは身を翻してそれを
――くっ、やっぱりもう受け太刀はしてくれないか。
先程、小隊長が討ち取られたことを教訓にし、ソラの攻撃に対して受けようとする事無く、単純に回避行動をする騎士達にソラは歯噛みした。
そしてソラが操刃する演習用のグラディウスには射術兵器は無く、距離を取られては攻撃手段が無い。つまり、この状況下においては愚直に突進し白兵戦に持ち込む以外の勝機が無い――
「ぐあああっ!」
ソラがそう思考した次の瞬間、後方から光矢がグラディウスの左上腕部に直撃し、爆裂と共にグラディウスは左腕部を失う。
ソラはすぐさま後方へ振り向き、飛来する第二、第三の矢を
覚醒騎士は敵の感情を読み取る力がある。そして先程まさに、ソラが抱いた焦りの感情を読み取られ、不用意に突撃しようとした瞬間の不意を突かれたのだった。
「ぐうっ!」
地響きと共に地面へと落下するソラのグラディウス。
「うわ、まずっ!」
正に翼をもがれた鳥の如く、飛翔する事が出来なくなったソラは絶体絶命に陥った。
「はあ、ここまでか」
地に平伏したグラディウスの中で溜め息を吐きながら俯くソラ。二騎のエスパダロペラはグラディウスに
すると、上空から発せられた閃光がソラのグラディウスへと突撃する一騎のエスパダロペラの腹部、つまりは動力部を貫いた。
『があああっ!』
エスパダロペラはソラのグラディウスの至近距離で爆散、その衝撃でグラディウスは僅かに後方へと吹き飛ぶ。
「うわっ! なになに? なんなの?」
『大丈夫ですか? グラディウスの操刃者さん』
伝声器越しに女性の声が聞こえ、ソラは先程光矢が放たれたであろう上空に視線を向ける。そこには陽光の影になりながら浮遊する二騎のソードがあった。
一騎は恐らくエスパダロペラを撃墜したであろう
もう一騎はカットラスの後方で浮遊するソードで、量産剣ではなく宝剣と呼ばれる専用騎。騎体名はカーテナ。青を基調としたカラーリング、騎士というよりは神官を思わせる優美な外観に、
『事情は分かりませんが、エリギウス帝国の領空侵犯を一人で阻止しようとしてるとお見受けしました、間違いないですか?』
「え、まあ、そういうことになるかな」
『そういうことなら助太刀させてもらいますね』
所属不明の二騎が突如割って入り、ソラはまだ状況を理解できずにいた。
『敵騎……し、しかも奴ら聖衣騎士だ』
〈連理の鱗〉の騎士達の戦慄する声でソラは初めて気付く、その二騎のソードから放出されている粒子で形成される騎装衣の色は金、つまりはそのソードを操刃している二人の騎士が聖衣騎士であるという事に。
そして次第にソラの理解が追い付き、一つの事を確信する。
――〈因果の鮮血〉には聖衣騎士が二人いるって聞いたことがある。そうかこの二人が……
『関係ない、陣系を崩すな、取り囲んで各個撃破だ』
しかし〈連理の鱗〉の騎士達は臆する事なく、再び散開。所属不明のカットラスを挟むように配置し、それぞれが
『舞え、レイヴン!』
次の瞬間、所属不明のカットラスの肩部が開放され、内部から“何か”が射出される。それはソードの拳程の大きさで羽根のような形状をした高速飛行物体。
空中を縦横無尽に飛び交いながら、〈連理の鱗〉の二騎のカットラスを包囲するように高速で舞っていた。
『気をつけろ、あのカットラスは
また、
『落ち着け、対
そう、〈連理の鱗〉の騎士の一人が言う通り、
〈連理の鱗〉の騎士達は
『な……に?』
しかし、敵のエスパダロペラが放った、
『何だ! この動きは!』
〈連理の鱗〉の騎士は気付く、所属不明のカットラスが放った
目を凝らせば、先程まで進行していた方向とは逆方向に急後退、上昇した瞬間に急降下、旋回、交差、転回を繰り返し、残像を残す程の複雑無比な動きを繰り広げている。
更に、所属不明のカットラスの額には、剣を抽象的に描いたような形状の紋章が淡く輝いていた。
『この動き、奴の“
〈連理の鱗〉の騎士がそう予測した直後、カットラスの周囲を舞っていた
『ぐああああっ!』
四肢、指令伝達中枢である頭部、遂には動力部のある腹部を刃が次々と刻んでいき、一騎のエスパダロペラは空中で爆散。
『くそがああああっ』
残る一騎のエスパダロペラは
「なっ!」
しかし、八つの内四つの