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第4話 雲の大聖霊石

 寮から十五分程歩き、格納庫へと到着するソラ。格納庫には五振りのソード……エリギウス帝国で使用される主力量産剣グラディウスがニ振りと、同じく主力量産剣であるカットラスが三振り並んでいた。


 ソード、それはこの世界がかつて地上界ラドウィードに在り、竜と呼ばれる存在が世界に君臨していた時代、その竜に対抗する為に開発され、騎士達の新たな剣となった。


 現代においてもなお武力の主とされ、駆動竜殲騎くどうりゅうせんきとも呼ばれる兵器であり、古代エリギウス語でSteer Worknight’s Of Ruin Dragonの頭文字を取りSWORD《ソード》と名付けられている。


 五振りのソードはそれぞれ片膝を付き、鎧胸部がいきょうぶを開放させて操刃室を露出させている。


 ソラは五振りのソードの内、自身が本日整備担当であったグラディウスの前に立つと、操刃室を見上げた。片膝を付いているとはいえ操刃室までは建物の二階部分に相当する高さはあるが、ソラはグラディウスの立てている膝に飛び乗ると、そこを踏み台にして更に飛び、そのまま操刃室へと入る。


 銀衣騎士や聖衣騎士などの覚醒騎士であれば身体能力的に一足飛びで操刃室へと入る者が殆どだが、ソラを含む蒼衣騎士はこのようにして操刃室へと入るのが一般的だ。


 そしてソラは、己が所持している聖霊石を、眼前の晶板手前に設置された台座に置こうとした所で気付く。


「何だこりゃ?」


 台座には既に灰色の聖霊石が置かれていたのだ。しかもその聖霊石はソラが知っている聖霊石よりも輝きが強く、石の内部には雲の形を抽象的に描いたような紋章が刻まれていた。


 ――これ……この聖霊石って確か。


 その正体を記憶の奥底から探り当てようとするソラ。するとそれを養成所の授業で習ったことがあったのを思い出す。現在ソードの核として使用されている聖霊石は、各国家の大地から掘り起こされる天然の鉱石。


 その種類は空系統の光、雷、風、雲。地系統の闇、水、炎、土。色はそれぞれ白、紫、緑、灰。そして黒、青、赤、黄。聖霊石の純度によって輝きの強さは違えど石の大きさは一定である。


 しかし、神剣の核となった大聖霊の意思が詰まっているという大聖霊石は、通常の聖霊石よりも遥かに強い輝き、そして内部に各属性を抽象的に描いたような紋章が刻まれているという。


 ――もしかして……これは大聖霊石? 確か養成所の地下で雲の大聖霊石が厳重に保管されてるって聞いたような……いやでもまさか、こんな所にある訳ないし、ああそうか誰か俺を驚かそうと大聖霊石の偽物でも作って――


 そう心の中で呟き、自分に言い聞かせながら台座に置かれたそれをまじまじと見つめるソラ。


「何か神々こうごうしい!」


 しかし、目の前の聖霊石から発せられる神々しい輝きは、とても作り物とは思えない。ソラはたまらず頭を抱えて叫びを上げる。


 その時だった。格納庫に何やら慌ただしい様子で数人の教官や守衛騎士達が入ってきた。


「まさか雲の大聖霊石が盗み出されるとは、あれだけ厳重な警備の中いったいどうやって!」


「何らかの“竜殲術りゅうせんじゅつ”を使ったに違いない」


「犯人はまだ近くにいる筈だ、必ず探し出せ!」


 ――なっ、これじゃあまるで……


 教官や守衛騎士達の会話を聞き、杞憂が確信へと変わる、そしてこの状況で見つかればどのような誤解を招くかは想像に難くない。生唾を飲み込み、冷たい汗を滲ませ、固まるソラ。


「おい、そこにいるのは誰だ?」


 次の瞬間、ソラはすぐさま守衛騎士に見つかる。


「いやあ、その……」


 しどろもどろになりながら、どうにか弁明しようと画策するソラであったが、守衛騎士の視界には既に台座と、台座に置かれているものが映り込んでいたいたのだった。


「おい、お前その台座に置かれてるのは――雲の大聖霊石!」


「いや、違います。俺はただ今日で養成所を去るんでグラディウスの聖霊石を返しに――」


 ソラは懐からグラディウスの聖霊石を取り出し、苦し紛れに守衛騎士に見せた。


「貴様、そのグラディウスで逃げるつもりか? そうはさせん!」


「いやいや、何でそういう解釈になっちゃうんだ?」


 その行動は逆効果だったようで、守衛騎士は犯人を逃がすまいと突如、腰の鞘から剣を抜き、一足飛びでソラの座る操刃室へと飛び掛かって来た。


「おわっ!」


 驚いたソラは咄嗟にグラディウスの鎧胸部を閉じる。


「うぐっ」


「……あ」


 すると、鎧胸部に弾かれ、守衛騎士は地へと叩き付けられた。


「いや、今のは違うんです、今のは本当にそういうつもりじゃなくてですね」


 ソラは必死に弁明するも、一部始終を見た教官達や守衛騎士達がグラディウスの足元へと続々と集まってくる。


「反撃してきたぞ」「おい貴様、降りてこい」


「生きて逃げ切れると思っているのか?」「すぐにソードの準備を、絶対に逃がすな」


 守衛騎士と教官の内の数名は剣を抜いて威嚇、他数名は守衛用のソードが格納された格納庫へと向かった。


 ――あ、駄目だこれ、絶対許してもらえないやつだな。


 ソラは今置かれている絶体絶命の状況の中で、脳をフル活用し、自分がすべき行動をいくつも想定した。弁明、謝罪、逆切れ、そして出された結論。


「……逃げるしかないか」


 台座に置かれた雲の大聖霊石を懐にしまい、代わりに台座にグラディウスの核となる聖霊石を置く。


 するとソラの刃力が聖霊石を通して流れ、動力が稼働。聖霊石の置かれた台座は動力炉へと格納され、晶板しょうばんに明かりが灯り、操刃室の壁面がまるで透明にでもなったかのように全て外部の情景が映し出される。更にグラディウスの双眸そうぼうが輝いた。


 ソラは操刃柄そうじんづかを握り締め、操刃鍔そうじんがくを踏み込むと、グラディウスの腰部と背部の四本の推進刃に備え付けられた推進器から蒼色の粒子が放出され、同色の騎装衣が形成された直後、グラディウスは高速で浮上、格納室の天井に激突。


「ぐおっ」


「うわっ」


 破壊され、崩壊した天井の破片が次々と落下し、緊急的にその場から避難する教官達と守衛騎士達。


 そしてソラの行く手には阻むものは何も無く、蒼く広く自由な虚空だけがただただ広がる。


「誤解だって言ってるだろうが!」


 ソラのそんな悲痛な叫びは、眼前にどこまでも広がる蒼天に、溶けて消えた。



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