「あ、スッキリした」
「どう? 日本のお風呂には及ばないけど、まあまあ使えるでしょう、足原君?」
「ホウジでいいですよ。まあまあじゃなくて、本当に久しぶりにきちんと洗った気分です。イムさん」
「俺もジヌでいいよ」
そういえば、私たちは宿さえ決めていなかったままだった。むやみにバレンブルクに来て、教会やギルドに足を運べば何とかなるだろうと思っていたのだ。今にして思えば考えが足りなかったというか、これ以上ないほど愚かだった。
それを聞いたミルとジヌは並んで呆れた表情をしたが、特に何も言わず私たちを自分たちの住処に招待した。そこは私たちがランチを食べた「王冠のドラゴン」からあまり離れていないバレンブルク中央広場の片隅にだった。
「聞くところによると教会を探してあいつ、イマエールについて行ったんだって?」
「はい」
「教会はここの近くだよ、中央広場のすぐそば。」
それを聞いた私の顔がどれだけ絶品であったのか、ジヌは腹を抱えてからからと笑った。
「まあ、知らなかったからしょうがないさ。そのイマエールって奴、そうでなくても厄介者なんだ、このバレンブルクではな。とりあえず座って、座って」
私は椅子を引き寄せて座りながら周りを見回した。大した装飾や家具がないからかも知れないが、かなり広い家だった。しかも家の中にお風呂まであるなんて。
日本では当たり前のように毎日入ってたお風呂だが、コバフでしみじみと悟った。それがいかにとてつもない贅沢であったかを。公民館以外ではお風呂を備えている家はほとんどなかったから。
「途中で聞きましたが、ジヌさんもこの世界に来たのは私たちとほぼ同じ時だそうですね。もうこんなに立派な家まで持っているなんて、すごいです」
「あ、これ。俺の家じゃないよ、官舎だよ」
「え?」
私は首をかしげた。 そんな私の疑問に答えてくれたのは、ジヌさんではなかった。
「お兄さんはバレンブルク市で警備隊長をやってるわよ。おかげで私もその元で一緒に働いているし」
両手に料理を乗せた皿を持って、キッチンの方からミルが現れた。
ゆったりとした大きめの服に着替え、長いストレートの髪を後ろでぎゅっと結んだ楽な身なりだった。その後ろに続いて、沙也と瀬戸先生もそれぞれお盆やお皿を持ってきた。
「警備隊長ですって?」
「まあ、たまたま任されたんだ」
「たまたまって…」
ジヌは照れくさそうに頬を掻いた。いや、いくらなんでも都市の、それも辺境伯領の州都であるバレンブルクで、警備隊長という地位がたまたま与えられるものなんだろうか。しかも私たちのような部外者に?
「でも、そのおかげでホウジたちの情報はすぐ耳に入ったよ。ギルドの近くに配置しておいた隊員たちからすぐ連絡があってさ。俺たちと似たようなパーティーを見つけたって。どうやらこの世界で私たちのようなアジア人はすぐ目に付くでしょう?」
「ああ、だからそんなに私たちを速く助けに…本当にありがとうございます. ジヌさんとミルさんの活躍じゃなかったら危ない目に会うところだったんです」
「なぁに、俺たちが来るまでホウジが頑張って二人を守ったおかげだぞ」
私とジヌはお互いに相槌を打ちながら、顔を合わせて笑った。
「そんなことより、お兄さん。これ食べてみて」
「そんなことって酷いな…あれ?これってもしかして…」
「味噌だよ。 久しぶりだね」
瀬戸先生の手作り味噌を味わいながら、ジヌは歓声を上げた。
「さっきの治癒魔法もそうだったし、この味噌もそうだし。今日瀬戸さんには一日中ずっと驚かされっぱなしだな」
ジヌは野菜の味噌漬けをもぐもぐ食べながら、しきりに感心した。韓国の
「今まで私たちにはまともに料理を作れる人がいないからね。特にこいつが」
「ああ......」
「
「
かっとするミルや、しらじらしく反応するジヌを見ると、まさに実の兄妹はこうなんだという感じがした。そういえば沙也と私は実の兄妹じゃないけど、あんなふうに過ごしていた時があったのに…
「あ、それから、ホウジ」
「え?」
ギクシャク自分を殴るミルをほっておいて、ジヌは私の方を見つめた。
「宿がないって言ってたから、当分はここで過ごしてもいいよ。空き部屋もあるし」
「いや、そんなお世話になるわけには…」
「その代わり、俺と一緒に仕事をしてみない?」
「仕事…ですって?」
「来てみればわかるよ、紹介してあげたい人もいるしね」