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第25.5話 バレンブルクギルドへのご加入、誠におめでとうございます



 カリカリ


 粗い紙の上を羽根ペンが走っていた。


 『こちらの世界』に来てからももう数ヶ月が過ぎたが、この羽ペンという物にだけは到底慣れそうではなかった。


 数多くの汗滴とそれに劣らず数のインク滴が紙の上を彩っていった。質の悪い紙のせいでじみがひどくないことが足原あしはら法次ほうじにはむしろ良かったのかもしれない。


 カリカリ


 名前… 年齢…


 筆圧調節に未熟なため、また一滴インクが滲んだ。


 絵ではなく文字だとわかる程度の悪筆だが、なんとか文字を完成させていく。字を習いたての子供のように法次は力いっぱい握った羽ペンを動かした。


 カリカリ


 性別...... 職業......


 書式を作成する際には必ず記入する項目。 しかし、続いて現れる項目は、公文書のそれよりもファンタジーゲームのプロフィールに近い内容であった。


 カリカリ


 スキル… 武装…防御具…戦果…経歴…


 しかし、そのような内容を書き記す法次の顔は真剣そのものであった。しばらく考え込んだり、時には思いっきり羽ペンを動かしながら、法次はぎっしりと紙を詰めていった。


 やがて作成を終えた法次は受付に向かった。


「書き終わりました」


 向かい側の受付係は、紙に書かれた内容を用心深く確認して、慣れた手つきで紙の四隅に原隊 カリカリ


 粗い紙の上を羽根ペンが走っていた。


 『こちらの世界』に来てからももう数ヶ月が過ぎたが、この羽ペンという物にだけは到底慣れそうではなかった。


 数多くの汗滴とそれに劣らず数のインク滴が紙の上を彩っていった。質の悪い紙のせいでじみがひどくないことが足原あしはら法次ほうじにはむしろ良かったのかもしれない。


 カリカリ


 名前… 年齢…


 筆圧調節に未熟なため、また一滴インクが滲んだ。


 絵ではなく文字だとわかる程度の悪筆だが、なんとか文字を完成させていく。字を習いたての子供のように法次は力いっぱい握った羽ペンを動かした。


 カリカリ


 性別...... 職業......


 書式を作成する際には必ず記入する項目。 しかし、続いて現れる項目は、公文書のそれよりもファンタジーゲームのプロフィールに近い内容であった。


 カリカリ


 スキル… 武装…防御具…戦果…経歴…


 しかし、そのような内容を書き記す法次の顔は真剣そのものであった。しばらく考え込んだり、時には思いっきり羽ペンを動かしながら、法次はぎっしりと紙を詰めていった。


 やがて作成を終えた法次は受付に向かった。


「書き終わりました」


 向かい側の受付係は、紙に書かれた内容を用心深く確認して、慣れた手つきで紙の四隅に拳大ほどのスタンプを押した。バーのカウンターを連想させる厚い木の板が四回鳴った。


「はい。加入申請書、確かにお受け取りいたしました。 アシハラホウジ様」


 受付係は事務的な笑みをにっこりと浮かべた。


「バレンブルクギルドへのご加入、誠におめでとうございます。ホウジ様と御一行様」







 法次がギルドの扉を出ると、入口付近でうろついていた二人の女性が法次を迎えた。


「法次! なんでこんなに遅いのよ」


「そ、そんなに長くもかからなかったじゃん」


「かかったわよ。私も先生も、とっくに終わって出ていたもん」


 法次を叱りながら目を輝かせているのは、双美ふたみ沙也さや。法次と同じ年で幼い頃から一緒に育ってきた、いわゆる幼なじみである。


「お疲れ様でした、足原君。 ちゃんとうまく書いたんですか?」


「はい、瀬戸先生。これが、ギルドの加入証です」


 一見、法次や沙也と同年代にも見えるが、先生と呼ばれた瀬戸せと日奈ひなは、すでに大学を卒業してから教員採用試験に合格し、高校の先生を務めている才媛である。


 法次が手渡したギルドの加入証を見て、日奈は几帳面に内容を読み進めていった。


「うん。間違ったところもなく、上出来です」


「先生、もう読み終わったんですか? 早い…さすが先生、王国語の文字にもそんなに早く慣れるなんて」


「双美さんや足原君にはいつも助けてもらうばかりだから…これくらいは役に立ちたいと思って一生懸命勉強しただけですよ」


 沙也の嘆声に顔を赤らめた日奈は恥ずかしそうに答えた。


「助けを受けてばかりだったなんて。先生がいてくれて、とても心強いんです」


「そうですよ、先生」


 その時、唐突な音が三人の耳に入った。


 ぐう、ぐうぅぅ


「……」


「……」


「……あ、あはは。な、何の音なんだろう。あはは…」


 顔が真っ赤になった沙也はタイミングよく鳴った腹を抱えた。法次は幼なじみの情けとして沙也から目をそらしながら日奈の方を見つめた。


「じゃあ、まずはランチからしましょうか?」


「ふふっ、そうですね、双美さん、何か食べたいものはありますか?」


「…お肉!何でもいいからお肉! 赤い肉でも白い肉でもいいからお肉!」


 どう見ても冒険初心者のらしさを感じさせる三人は、適当な食堂を探してにぎやかに足を運んだ。バレンブルク市に来たばっかりのため、すべてが不慣れで不思議で新しい。その故、彼らは気づいてなかった。


 ギルドの建物の角で雑談を交わすように何気なく立っていた二人の男の視線を。


「イム隊長に伝えろ。あいつらのことを」


「はい」






 カリカリ


 粗い紙の上を羽根ペンが走っていた。


 『こちらの世界』に来てからももう数ヶ月が過ぎたが、この羽ペンという物にだけは到底慣れそうではなかった。


 数多くの汗滴とそれに劣らず数のインク滴が紙の上を彩っていった。質の悪い紙のせいでじみがひどくないことが足原あしはら法次ほうじにはむしろ良かったのかもしれない。


 カリカリ


 名前… 年齢…


 筆圧調節に未熟なため、また一滴インクが滲んだ。


 絵ではなく文字だとわかる程度の悪筆だが、なんとか文字を完成させていく。字を習いたての子供のように法次は力いっぱい握った羽ペンを動かした。


 カリカリ


 性別...... 職業......


 書式を作成する際には必ず記入する項目。 しかし、続いて現れる項目は、公文書のそれよりもファンタジーゲームのプロフィールに近い内容であった。


 カリカリ


 スキル… 武装…防御具…戦果…経歴…


 しかし、そのような内容を書き記す法次の顔は真剣そのものであった。しばらく考え込んだり、時には思いっきり羽ペンを動かしながら、法次はぎっしりと紙を詰めていった。


 やがて作成を終えた法次は受付に向かった。


「書き終わりました」


 向かい側の受付係は、紙に書かれた内容を用心深く確認して、慣れた手つきで紙の四隅に原隊 カリカリ


 粗い紙の上を羽根ペンが走っていた。


 『こちらの世界』に来てからももう数ヶ月が過ぎたが、この羽ペンという物にだけは到底慣れそうではなかった。


 数多くの汗滴とそれに劣らず数のインク滴が紙の上を彩っていった。質の悪い紙のせいでじみがひどくないことが足原あしはら法次ほうじにはむしろ良かったのかもしれない。


 カリカリ


 名前… 年齢…


 筆圧調節に未熟なため、また一滴インクが滲んだ。


 絵ではなく文字だとわかる程度の悪筆だが、なんとか文字を完成させていく。字を習いたての子供のように法次は力いっぱい握った羽ペンを動かした。


 カリカリ


 性別...... 職業......


 書式を作成する際には必ず記入する項目。 しかし、続いて現れる項目は、公文書のそれよりもファンタジーゲームのプロフィールに近い内容であった。


 カリカリ


 スキル… 武装…防御具…戦果…経歴…


 しかし、そのような内容を書き記す法次の顔は真剣そのものであった。しばらく考え込んだり、時には思いっきり羽ペンを動かしながら、法次はぎっしりと紙を詰めていった。


 やがて作成を終えた法次は受付に向かった。


「書き終わりました」


 向かい側の受付係は、紙に書かれた内容を用心深く確認して、慣れた手つきで紙の四隅に拳大ほどのスタンプを押した。バーのカウンターを連想させる厚い木の板が四回鳴った。


「はい。加入申請書、確かにお受け取りいたしました。 アシハラホウジ様」


 受付係は事務的な笑みをにっこりと浮かべた。


「バレンブルクギルドへのご加入、誠におめでとうございます。ホウジ様と御一行様」







 法次がギルドの扉を出ると、入口付近でうろついていた二人の女性が法次を迎えた。


「法次! なんでこんなに遅いのよ」


「そ、そんなに長くもかからなかったじゃん」


「かかったわよ。私も先生も、とっくに終わって出ていたもん」


 法次を叱りながら目を輝かせているのは、双美ふたみ沙也さや。法次と同じ年で幼い頃から一緒に育ってきた、いわゆる幼なじみである。


「お疲れ様でした、足原君。 ちゃんとうまく書いたんですか?」


「はい、瀬戸先生。これが、ギルドの加入証です」


 一見、法次や沙也と同年代にも見えるが、先生と呼ばれた瀬戸せと日奈ひなは、すでに大学を卒業してから教員採用試験に合格し、高校の先生を務めている才媛である。


 法次が手渡したギルドの加入証を見て、日奈は几帳面に内容を読み進めていった。


「うん。間違ったところもなく、上出来です」


「先生、もう読み終わったんですか? 早い…さすが先生、王国語の文字にもそんなに早く慣れるなんて」


「双美さんや足原君にはいつも助けてもらうばかりだから…これくらいは役に立ちたいと思って一生懸命勉強しただけですよ」


 沙也の嘆声に顔を赤らめた日奈は恥ずかしそうに答えた。


「助けを受けてばかりだったなんて。先生がいてくれて、とても心強いんです」


「そうですよ、先生」


 その時、唐突な音が三人の耳に入った。


 ぐう、ぐうぅぅ


「……」


「……」


「……あ、あはは。な、何の音なんだろう。あはは…」


 顔が真っ赤になった沙也はタイミングよく鳴った腹を抱えた。法次は幼なじみの情けとして沙也から目をそらしながら日奈の方を見つめた。


「じゃあ、まずはランチからしましょうか?」


「ふふっ、そうですね、双美さん、何か食べたいものはありますか?」


「…お肉!何でもいいからお肉! 赤い肉でも白い肉でもいいからお肉!」


 どう見ても冒険初心者のらしさを感じさせる三人は、適当な食堂を探してにぎやかに足を運んだ。バレンブルク市に来たばっかりのため、すべてが不慣れで不思議で新しい。その故、彼らは気づいてなかった。


 ギルドの建物の角で雑談を交わすように何気なく立っていた二人の男の視線を。


「イム隊長に伝えろ。あいつらのことを」


「はい」





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