私はヨナハンの手紙について早速沙也と瀬戸先生に伝えた。彼女たちはびっくりしながらも、また私たちがバレンブルクへ向かう必要があるということには意見が一致した。
「いきなり荷物をまとめようとしても大変だね、双美さん」
「でも、ヨナハンの言った通りそこにも私たちの世界から来た人たちがいるなら、そこで私たちが戻れる糸口が見えるかもしれませんよ。瀬戸先生」
さて、果たしてそうだろうか。
話を伝えながら、もう少し頭を冷やした私は今の状況についてもっと冷静に考えるようになった。
もしバレンブルクに私たちのような元の世界から来た人がいるとしよう。いや、もう少しポジティブに考えて日本人と会えると仮定してみよう。
だとしても、彼らがの目的や性格がどうなのかはまだ分からない。何らかの理由で元の世界に戻りたくないかもしれない。必ず善良な人々がいるんだとも限らないのだ。要するに、会ってみるまで何も分からない。
「同じ目標を持つんだとしても、必ずチームになれるわけにはいかない」
その瞬間思い出したのが、何の感情も無い目で私を見つめていた野球部の仲間たちと監督の姿だった。果たしてそれは、私の考えすぎなのだろうか。
私は一瞬思い浮かんださまざまな雑念を振り払おうと首を横に振った。すぐ答えが出ないことをあれこれ考えても、何の役にも立たない。
「そう、今は進むべき時だと思う。少なくともコバフに初めて来た時は本当に私たち三人だけだったじゃない。
今ならバレンブルクにはヨナハンもいるし、彼が教会とギルドに私たちを紹介しておくと言ったんだから、少なくともゼロから始めるわけではないでしょう」
そうやって私たちは荷造りを始めた。
コバフに来てわずか数ヶ月だが、その間に溜まった荷物が少なくなかった。その中で必ず持って行かなければならないものから順に取りまとめると、あっという間に夜が過ぎて朝がやってきた。
「これ、大したことじゃないけど、行く途中に間食でもしてよ」
「マーティさんっちの果物はいつも美味しかったです。 ありがとうございます」
「ホウジ君、どこへ行っても絶対にお腹は空かせるんじゃないわよ」
「ありがとう、マイヤーさん。このパンは大事に食べますよ」
「大事にするんじゃない。さっさと食べちゃいなさい」
「サヤちゃん。この前手伝ってくれてありがとう」
「べビンさん!私たちこそ、いつも美味しい食事食べさせてありがとうございました」
私たちが去るという知らせを聞いた村の人たちが一人二人と訪ねてきて色々な贈り物を与えてくれた。そのせいで荷物はさらに増えてしまったんだけど、気分は悪くなかった。
「商団の荷馬車を一台借りることにはしたが、これ全部積んで行けるかな。もったいないけど、行く途中に全部食べてしまわなければならないね」
ようやく人々に別れを告げながら荷馬車に乗り込もうとした時、オルソンが近づいてきた。
「確かに俺が行けって言ったけどよ。かといって、あっさりと分かりましたって去っていく君たちも憎たらしくてさ…」
「オルソンさん、また何を言おうとしているんですか?」
「だから、ここに荷物をもう一つ乗せてあげようと思ってね」
オルソンが私たちに一つずつ渡してくれたのは小さな風呂敷包みだった。
「あ、これは…」
「私たちが着ていた制服…」
コバフ村の人々が私たちを初めて見つけた時…いや、私たちが初めてこの世界に来た時に着ていた服、つまり私と沙也の制服と瀬戸先生のスーツがきれいに洗濯されたまま、包みの中に畳んであった。
「ありがとうございます、オルソンさん」
「そんな照れくさいこと言うんじゃないよ」
オルソンは挨拶の代わりにこぶしを出した。私たちは拳を打ち合い、にやりと笑った。
「元の世界に帰ることになっても、一度は必ず立ち寄ってよ」
「やってみます」
「一つだけ肝に銘じて。バレンブルクは大きな都市だ。 少年たちはそれなり賢明だが、それでもまだこの国ではまだ素人であることを忘れんなよ。いつも重ね重ね気をつけなければならないよ」
最後まで優しさを失わない素敵な男だった。
荷馬車に乗り込んだ私たちの視界から見えなくなるまで、コバフ村の人々は手を振って見送った。私たちもそのたびに手を振り続けた。
あぁ、腕が痛い。
「コバフ村、本当にいいところだったんですね」
「本当、この世界で落ちたのがコバフでよかったです。村人たちもあんなに優しくて親切だし」
「そうですね」
私たちの感想に相づちを打つ瀬戸先生の膝の上には、オルソンから受け取った包みが置かれていた。
優しい目で包みを撫でる瀬戸先生を私と沙也は微笑ましく見ていたが、続く彼女のつぶやきに笑ってしまうしかなかった。
「このブラウス、ドライクリーニングのみなのに」