クレイさんが作ってくれたバットは文字通りの鉄の塊それも鋼鉄で作られた物で、とんでもなく重かった。考えてみれば、野球部で使っていたバットは、同じ金属バットだとしても最先端の合金技術と鋳造技術を使って耐久度と軽量化を極限まで追求したアルミバットだった。私の記憶を頼りにして作ったから長さや厚さはほぼ似ていても、重さだけは比べ物にならなかった。
野球部時代、練習用に重りをつけてバットを振ったことが思い出すほどだった。しかしこれはそれよりもはるかに重くて、初めてバットを握った時は、まともに使いこなせるどころか、むしろ私がバットに振り回されるほどだった。
そんな私を助けてくれたのが、他の誰でもないオルソンだった。彼は村の仕事で忙しい最中でも、時々訪ねてきて戦い方を教えた。
「右!左!今度はまた下!」
オルソンにはコーチの資質もあったみたいだった。戦いの素人である私を彼はとても上手に指導した。
本当に器用な人だ。
「少年が元の世界でどんな運動をしていたのかは知らないけどさ。他のことはともかく
これをしっかり鍛えれば、並みの剣士には相当負けないだろうね」
そう言いながらも、オルソンは私を木刀で容赦なく殴り倒した。
「だとしても、運動と戦いは全然違うぞ!
多くの素人剣士たちが死んでいくのは、実力が足りないためでもあるが、死に対する恐怖がもっともの原因なんだ。
真っ直ぐに相手の剣先を見るべきなのに、目を閉じてしまうんだよ。このようにな!」
「あっ!痛い!うぅっ…」
「ほら、見た? これでまた一本だよ。 だから何があっても目を閉じたり逸らしたりすんな。
怖いのは分かる。でも、死ぬのはもっと嫌だろう?」
「そうです」
「じゃあ、死んでも目を開けたまま死ぬ覚悟で戦えよ。サヤ嬢さんを未亡人にするんじゃね!」
「違いますってば!」
大体こんな感じだった。
それでも毎日筋トレと共にバッティング練習、そしてオルソンと戦いの稽古をしている間、少しずつ…いや、思ったより早く私は新しいバットに慣れていった。
「本当にそうよね。持って歩く様子が結構慣れてるように見えるわ」
「そんなに練習をしてますから、マイヤーさん」
そんなにオルソンに思いっきり殴られながらまで訓練して警備の任務に努めている私だった。でも町中をうろうろしていたら、壮絶な戦いより実は人手が足りないところに雑務で呼ばれることがもっと多かった。
先ほども、私は口笛を吹きながら通り過ぎていたところ、ちょうど製粉所のマイヤーさんに呼ばれてきたばっかりだった。マイヤーさんは、亡くなった夫が経営していたコバフ村の製粉所を譲り受けついた活力溢れる女傑だった。
それに付け加えるとなかなかの美人さん。オルソンがマイヤーさんに憧れていることは村人全員が知っている。たぶんマイヤーさん本人さえも。
「ところで、この重い水車の歯車の手入れをいつも一人でしているんですか?」
「たまにはオルソンが手伝ってくれるの。でも、ただでさえ村の仕事で忙しい人を毎回呼ぶわけにはいかないでしょう? だから普段は私一人ですることが多いわ」
私が軸を支えている間、マイヤーさんは手入れの終えた歯車を一つ一つ元の位置に合わせた。 鋸歯がうまくかみ合うように調整する作業は非常に大事のようで、マイヤーさんは用心深く手を動かした。美しい眉間が少し顰められた。
「それでも一人でするよりは手伝ってくれる人がいる方がず…っと......楽だわ!
ふ、できた!もういいわよ。ありがとう、ホウジ君。おかげであっという間に終わったわ」
ギシギシする歯車掃除補助役という重大な任務を終え、今こそ本業である警備業務に戻ろう…としたらマイヤーさんが呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「ああ、もしかしてこれが必要じゃないかと思って」