「いや、普通のメイスじゃない?」
「ちょっと変なメイスだけどさ。鉄片もないし、角もなくて、ただ滑らかなだけ? あれでモンスターを殺せる? そりゃ当たったら痛いだろうけど」
もう、この人たちが!バットだよ、バット!メイスじゃなくて!
クレイさんが鍛冶屋に帰った後、公民館へ訪ねて来たオルソンと退屈そうな顔をして何か面白いことはないかと尋ねて来たマーティにも私のこの恐るべき新兵器を見せてくれたが、二人の反応もクレイさんと大差なかった。
「これくらいなら。まあ、使い方次第では人並みサイズ以下のモンスターなら制圧できるだろうけど、もっと大きい奴らはちょっと難しいかもな」
オルソンはあごを撫でながら複雑な顔をした。まだ未練があるのか、彼はバットのヘッドを指差した。
「この辺にブレードをつけるのはどう? いや、待てよ。それじゃ結局斧になるじゃん」
「それとも鉄片たちをここに貼り付けたらどう? 一発殴られたら、肌がさっと取れるようにな」
殺傷力を上げるためにあれこれアイデアを出すオルソンとマーティだったが、私は首を横に振った。そもそも私がバットを作ろうと思ったのは、単にそれが自分の手に慣れているからだけではなかった。
「この前戦ってみてわかりました。 私は刃物には向いてません」
今でも時々思い出す。
コボルドを切り裂く刃の感触が。夢でもその時のことを思い浮かべたりすることもある。
どうやら私には相手を斬って、突き刺すような攻撃はできそうにない。やっぱりこれじゃ勇者失格だな。
できれば戦いなんかもしたくなかった。
たが、自警団の仕事を引き受け以上、自分や周りの人を守るためにどうしても戦わなければならない状況になる。それなら殴り倒す方がむしろ私に向いている、というのが私の考えだった。
特に立派な人間で不殺の信念を持っているわけでもない。これを使って戦って、またモンスターを傷つけても仕方ないと、正直に思うんだ。ただ私の気分が悪くなるのを避けたいだけだ。つまり、私のわがままである。
「まあ、ホウジ少年が使いやすいなら、私はなんでもいいと思う。確かに、この辺りのモンスターならこれでも充分だろうしね。
ドラゴンなんかが現れたらそりゃメイスでも剣でも仕方ないもの」
「そういうのはいないけどさ」
「うるさい、マーティ。なによりも…」
オルソンは私の肩を軽くたたいて,にっこりと笑った。
「少年が本当に血を見たくない気持でこれを選んだなら、その分一生懸命練習すればいい。そうすれば、このメイス…いや、バットでも十分な腕前になれるはずだろう」
こうやって私の練習ルーチンには、シャトルランとバーピー、スクワット、上体起こしに加えて、バッティングが含まれるようになった。