あれから数日経ったが、結局ハナさんへカッピーというあだ名を変更させることはできず、むしろ他の人へカッピーというあだ名が広まる一方であり、益々一層変更の機会を失っていった。無念である。

ベンチに座り、どうにか打開策はないものかと思考を巡らせていると、のっしのっしと聞こえてきそうな勢いで巨体の男が近づいてきていた。

「お〜い、カッピー！思い悩んだ顔をしてどうしたんだい？」

「あぁ。オラフさん。お疲れ様です。特に悩んでいたわけじゃないですよ。」

今まさにカッピーと呼ばれることについて悩んでいたんです、とは言えず澄まし顔でにこやかに返事をしてしまった。カッピーパンデミックはオラフさんにまで広がっていたのだ。もう止めることはできない。ここにいる以上、僕はもうカッピーなのだ。

後から聞いた話なのだが、オラフさんも名付け親はハナさんらしい。巨漢のオラフさんのぽよっとした感じが某犬のオラフというキャラクターに似ているからだと言う。僕ももうオラフにしか見えない。

「良かった。もしかしたら、りゅうじん君との事で悩んでいるのかと思って、心配してたんだよ。」

「りゅうじん君って、誰ですか？」

流れ出る汗をタオルで拭いながら、オラフさんは「写真を見ればわかると思うよー」と言って、スマホを取り出して操作を始めた。そして、オラフさんが腰掛けた途端ベンチが軋むのがわかった。あれ？大丈夫だよな？ベンチ壊れたりしないよな？さっきまであんなに広かったベンチが急に満員電車のようになってしまった。が、オラフさんから柔軟剤の香りが漂っていて決して不快感はなかった。

それにしてもオラフさんはこんなに巨漢なのに、ダンスのキレが凄まじい。ゾンビとしてもその巨体で恐怖感増し増しである。デカいとは恐怖なのだ。実際僕もゾンビの時のオラフさんと相対すると、その大きさに生物としての恐怖を感じてしまう。

しかし、その恐怖とは裏腹に普段のオラフさんはとても優しい。ゾンビナイトの初日にみんなにクッキーを焼いて配ってくれるのはイベントの恒例となっているらしい。美味しかったなぁ。あのクマの形したクッキー。

「これだよ、これ」と言いながら、ニコニコとした顔で僕にスマホの画面を見せてくれた。こんなに小さいスマホがあるのか。と思っていたが、それは錯覚で僕のスマホと同じサイズだった。オラフさんの魔法のようなデカさに驚きながら、画面を覗き込むと男性がにこやかに笑っていた。ぱっと見は幼く見えるがキリッとした目からは大人の色気も感じさせる、何だか魅入ってしまう顔だった。

「カッコいいですね。これがりゅうじん君ですか？」

「そう！すごいカッコいいし、普段も良い人なんだぁ。それにストイックで向上心の塊。何と言っても、その人気がすごいんだよ。」

「まぁ後で調べてみなよ」と言いながら、オラフさんはスマホをしまった。