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ゾンビナイト
ゾンビナイト
むーん
現実世界現代ドラマ
2025年03月17日
公開日
3.9万字
連載中
緊張しいで弱気な青年、カッピー。

UPJというテーマパークで夢だったゾンビダンサーの仕事をすることになり、楽しいダンサー生活が待っているかと思いきや、そこは個性豊かという言葉では表現できない程のカオスな人達の巣窟だったーー。

「僕がやりたかったゾンビナイトってこんなのだったのかな?」

半ばストーキングまがいのことをするオタク、非常識な行動をするオタク、それらを取りしまるスタッフ。収益目的にテーマパークの悪口を言ったり、見当違いの考察を繰り返すインフルエンサー達の出現によりカオス度はどんどんと増してゆく。

それぞれの思惑が交錯して、ハロウィン当日の大事件へと繋がってゆくのだったーー。

第1話(1)ビッグボス-1

「ビッグボス、あの人はどうっすか?」


ジリジリと日差しの照りつける中、若い男が尋ねた。世界地図のような柄が印刷されたシャツに汗が滲んで新たな大陸が出来上がりそうだ。にこりと笑った顔には、若さ特有のあどけなさがあり、他人に不快感を与えないすっきりとした顔をしている。


「あの人は要注意。何回注意しても、そのルール初めて聞きましたって顔でとぼけるから。ゆっくり優しく言わないと。」


その男の横、大人の女性といった空気をまとわせて、通り過ぎる家族連れにニコリと手を振りながら、女が応答していた。その笑顔はとても上手と言った具合で、見る人が見ると少し張り付いたような笑顔で少し怖さを感じてしまう。男とお揃いの世界地図のユニフォームを着て、首筋には汗がたらりと流れていった。


「なるほど…勉強になります。その横の女の人はどうですか?前のショーの時もいましたよね?」


二人の視線の先には、日傘を持ち、折りたたみのキャンプ椅子に座っている集団があった。女性が多めで必ずといっていいほど一眼レフを携えている。テーマパークに来ているにも関わらず、ジェットコースターなどのアトラクションに並ぶでもなく座る彼女らは、その存在を知らない人から見れば異様なのかもしれない。その視線の先には小さなステージがあり、ハートや星、虹のモチーフがキラキラと綺麗に飾られている。決して豪華とは言えないが、可愛らしい目線を奪われる装飾だ。


「今日はりゅうじん君のシフトの日だよね!楽しみー!先週髪型変わってたのネットで見て、どうして私は行けてないんだー!って悔しかったから、絶対今日は目に焼けつきたいの。」


二人の話題にしていた女性が興奮した様子で話している。彼女らは目の前のステージで行われるショーを待っている。テーマパークでは、時折ダンサーやパフォーマーによるショーが行われる。ショーはなにも突然行われるわけではなく、スケジュールに従って1日に五回ほど行われる。その初回のショーを彼女らは待っていたのだ。りゅうじん君と言うのはそのショーの人気のダンサーである。端正な顔立ちとアイドル気質のあるパフォーマンス、キレのあるダンスで瞬く間に『ショーガチ勢』達の人気を獲得した。わいわいと騒ぐ彼女らの声を聞きながら、女が答える。


「あの人こそ注意が必要。あの人自身がルールを破ることはないけど、ルールを破っている人を注意しないスタッフに厳しいの。特にあなたみたいな新人のバイトにはね。あの人の虫のいどころが悪いとネットに晒されるわよ。」


「ぐぅう。マジっすか。そんなことしていいんですか?」


「ダメに決まってるじゃない。でもああいう人に常識は通用しないんだよ。」


「ラジャです!勉強になります。ビッグボス。」


「ビッグボスはやめなさい。怒るわよ。」


いつのまにかビッグボスという呼び名がバイトの男の子にまで広まってしまっていた。原因はハナね。あの子が言い出したあだ名は何故か一週間ほどでほとんどのスタッフに広まってしまう。ハナを止めることは出来ない。


「今のうちに慣れておかないと仕事に大変よ。もうすぐ秋にもなるし。」


「秋?秋になると何が大変なんですか?ビッグボス!」


「秋にはゾンビナイトってイベントがあるからね。来園者もどっと増えて、スタッフは大忙しになるのよ。」


後輩のビッグボス呼びを軽く無視しながら、ビッグボスは続けた。


「それにね。今年はゾンビナイト中に新しいイベントがあるのよ。」


「新しいイベント?それってどんな…」


と言いながら、若い男は遠くを見ていた。なんだこいつ。何を見てるんだ。上司が、ビッグボスが大事な話をしようとしているのに。そして、男が話を遮って言う。


「すいません!あかねちゃんが困ってそうなんでヘルプに行ってきます!」


ニコッと笑いながら、颯爽とあかねちゃんの方に向かっていった。向かう先を見ると、外国人ゲストに囲まれて困っている姿の彼女が見えた。


「若いわね。」


彼らは最近バイトで入ってきた男女である。ああ言う輩は十中八九付き合う。出会いのためにバイトしにきていると言ってもいい。そして別れて、バイトを辞めていくのだ。もう何人もそう言う者たちを見送ってきた。あかねちゃんを助けるタテノくんに今まで入ってきては辞めていったバイトたちの姿が重なる。あなたたちがいずれ辞めていくとしても、この秋はせめて頑張ってもらいたいものだ。私も死神じゃない。破局を願っているわけではない。2人が付き合うとしても末長く幸せになってもらいたいものだ。結婚するときは私が保証人になってあげるわ。がんばれ、2人共。


まだ未来が不確定な2人の行く末を案じると言う無駄な時間を過ごしている私の元にタテノくんが戻ってくる。


「すいません。話の続きですよね?」


「話の続きは休憩かミーティングの時にでもしましょう。そろそろショーも始まるし、ゲストにアナウンスしにいくわよ。」


「Yes。ビッグボス。」


調子良く返事するタテノ君と共に“ショー待ち”している集団の方へと歩を進めていく。


ニコッ。


「ショー開始直前になりましたので、立ち上がって頂くようお願いしますー!日傘の方も閉じて頂けますよう、ご協力お願いします!暑いですので水分補給も忘れないよう!まもなくスタートです!楽しんでいきましょうね!」

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