おばあ様にツユクサの花輪をお渡しした翌日。
私たちは文字通り、渋い顔をしてティーポットを見下ろしていた。
「……これが神からの授かりもの……なのよね?」
「……たぶん、恐らく……?」
中に注がれているのはなんというか、茶色い液体だ。パッと見るとお茶に近いけど、色は濁っているし、なにより香りがきつい。
お鍋で作った物をティーポットに移したんだけど、正直、ポットにニオイが移りそうで怖かった。
「頭に浮かぶまま、花を洗ってからリリーに乾燥を手伝ってもらったし、それをお湯で煮出したのに……」
「一応聞いておくのだけれど、ティアナ。これはどうするのが正解の液体なの……?」
「……一日三度、食事と食事の間や寝る前に飲むべきものだと、私の頭には浮かんでいます」
「そう。おいしくは、なさそうねぇ」
「ですよねぇ」
色も香りも確実においしくない主張が激しいそれに、恐る恐るおばあ様を見る。
いつもおいしいものに囲まれているおばあ様が、本当にこんなものを召し上がれるだろうか。と言うか、私もこれが神からの授かりものだという確信が揺らぎまくってきている。
昨夜、寝入る寸前にボンヤリと思い出したんだ。
私が死の直前、心の底から願っていたもの、それは。
魔法を使えない者も普通の人間だと証明し、私たちの扱いをひっくり返すこと。
だけど本当にこんなクサい液で、そんなことができるかしら?
不安でいっぱいになりそうになったとき、おばあ様の手がグラスを手にした。
そのまま、およそ三分の一を注ぐ。
「え、まさか……!?」
止める間もなく、おばあ様がそれを煽った。
潔いほどの一気飲み……!
顔をしわくちゃにしたおばあ様は一気にそれを飲み込むと、やがて険しい顔で深々と息をついた。
おいしいものしか口になさらないおばあ様が、まさかこんなに早く召し上がるなんて!
「お、おばあ様!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫よティアナ。あー、でもこれ、きっついわねぇ! 苦いしクサいし、慣れるまでは時間がかかりそうよ」
涙目で笑ってみせるおばあ様に、なんだか申し訳ない気持ちがわき上がってくる。
だけど、んん? 慣れるまで?
「おばあ様、それ、飲み続けてくださるんですか?」
「あら、当たり前でしょう? どんな物であっても、神から授かった知恵の賜物だもの。それに私は、一度は泥水を啜ってでも生きようとした餓死者よ。飲用できると分かってるのに、飲まない手はないわ」
おばあ様は、いたずらっぽくウインクして見せた。
そう言われると確かにと思わされるんだから、経験者は強い。
「それに私が一度飲んでしまえば、いつでも出すことができるもの。だからそんなに不安そうな顔をしないで大丈夫よ、ティアナ。今日から毎日飲んでみせますから、おばあ様を信じなさい」
「──っ! ありがとうございます!」
おばあ様は本気で、私のこの知識が神からの授かりものだと信じてくださってるんだ。
なのに私は、まだ不安を拭いきれない。だって本当に役に立つものなのか実感を持てないんだもの。
持てるとしたら、二年後だ。
そしてそれはあまりにも、遠すぎる。
おばあ様の部屋を出て、少しだけため息を吐いてしまう。
「どうしたらこの知識がおばあ様の信頼に添うものだと、実感できるかしら」
もっと手軽に分かる手段があれば──なんて、いくらなんでも無茶な願いかしら。
悩みながら廊下を進んでいると、クスクスと笑いながら歩いている侍女たちが歩いてくるのが見えた。
リリーはいない。
新人だから、雑務を一人でこなしてるのかしら。
「みんな、昨日はお茶を片付けてくれてありがとう。リリーを連れて行っちゃって悪かったわね」
「っ、ティアナお嬢様! とんでもない、昨日は慰労のお菓子までいただいたんです。そのようなお言葉は過分ですわ」
「そう。あの子には長く勤めて欲しいわ、みんなで可愛がってあげてね」
「……もちろん、これ以上なく可愛がってますわ、ご安心ください。それでは私たちは仕事がありますので、失礼します」
また、クスクスと笑いながら去って行く。
……妙に引っかかる言い方だったわね。
リリーの名前を出した途端、あの子たちの顔が少し引きつった気もする。
少し、嫌な予感がした。
廊下を走って、リリーを探す。彼女が来た方向にある厨房や資料室にはいない。普通なら、侍女たちはそのあたりで仕事をしているはずなのに。
なら、ほかにどこに。
そういえば、彼女たちのスカートの裾、少し土汚れがついていなかった?
「っ、納屋……っ!」