そこまで考えて、ぶんぶんと頭を振った。
「ううん。この疑念は、おばあ様に失礼だわ」
リリーに聞こえないように、小さく小さく呟く。
──どのような魔法を授かったのであっても、そして授かったものが魔法じゃなかったとしても。この婆はあなたの味方ですからね。
さっきそう言ってくださったばかりなんだもの。それを疑うのは、おばあ様を悲しませる。
大きく息を吸って、四度ドアをノックする。
「おばあ様、ティアナです」
「どうぞ、お入りなさい」
扉を開くと、ふんわりと甘い香りがした。
おばあ様はお部屋にいるときにお腹が減ると、勝手におやつやお茶を出して小腹を満たすクセがある。きっとまたこっそりとなにか召し上がっていたんだろうと思うと、なんだか笑ってしまった。
「おばあ様、さっきのクッキーでは足りなかったんですか?」
聞けば、おばあ様はあらと口を隠してホホホと笑った。
「口寂しくて少しだけ、オレンジの砂糖漬けをね。それよりティアナ、休んでいなくていいの? さっきも庭に出ていたようだけど──あら?」
「はい、この花を摘みたくて。ここにいるリリーに手伝ってもらったんです、とても器用に風魔法を使うんですよ」
「そう、綺麗な花輪だこと。ありがとうティアナ、リリー」
おばあ様からの褒め言葉に背筋を伸ばしたリリーは、恐縮しきった様子で唇を引き結ぶ。
やっぱり反応が素直だし、私やおばあ様に必要以上に媚びて出世しようという下心も見えない。だから逆に、前回の人生では目に留まらなかったのかしら?
「リリー、ついてきてもらって悪いんだけど、少しだけ外で待っててくれる? すぐに呼ぶから、扉の前で待っていて欲しいの」
「は、はい! かしこまりました、失礼いたします」
そそくさと退室していくリリーを見送って、おばあ様が目元を緩めた。
「可愛らしい子だこと。ティアナはあの子が気に入ったのかしら?」
「はい。今日名前を知ったばかりなんですが、よく気がついて、器用で、欲がなさそうなの」
「そうね。欲がないから、心から支えてくれそうな子だわ。──それはそうと」
ひょこひょこと私の手の中を覗き込む。たぶんおばあ様の中の認識でも、名もない雑草のはずのその花に、おばあ様は面白そうに唇を歪めた。
「ただの可愛い花輪というわけでは、ないんでしょうね」
「はい。私にもなにが出来上がるのかまだ分かっていないんです」
「それでも私に持ってきてくれたということは、私に関係する物なのね?」
「恐らく。おばあ様が急死する運命を変えるために、私にできることがあればと思ったときに頭に浮かんだのが、私が聞いたこともない言葉や、この花だったんです」
「聞いたこともない言葉?」
「はい。おばあ様の死の原因が、血が体の中で固まってできた血栓によるものだとか、そういうものです」
私の言葉に、おばあ様は固唾を呑んで耳を傾けてくれた。大量出血が死に繋がるのは常識だ。だけど血が固まって死んでしまうことがあるなんて、きっとおばあ様も知らなかったと思う。
ほんの少し額を青くしたおばあ様が、大きく静かに息を吐いた。
「突拍子もない発想だけれど……あなたは確信を持てないことで私を惑わせるような子じゃないわ。あなたにとってそれは、きちんと腑に落ちる内容だったのね?」
そう、深く理解はしていないから説明はできないけれど、私はこれが真実だと確信を持っている。
頭の中に溢れ返った情報が、それを補完するように脳裏をめぐった映像が、知識のない私にも確信を持たせてくれた。
おばあ様は、私が戸惑いながらも前に進もうとしているのを理解してくださっている。それなら私は、その気持ちに応えたい。
「──きっとこれが、私が神から授かったものだと思うんです。だから私が起こす、最初の奇跡を。おばあ様、一緒に作り上げてくださいませんか?」