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第5話

 手元を見たところで、用意もしてきていない物があるはずはない。持ち上げたスカートをカゴに見立てて運んでもいいけど、小さい子じゃないんだし、さすがにはしたない気がする……。


「うーん、でもそれしか手段がないなら……!」

「ティアナお嬢様。こちら、お役に立ちますか?」

「え?」


 差し出されたのは、広げた両手ほどの草カゴだった。


「これって……!!」

「この花をお摘みになるのでしょう? 先ほどからなにかお探しのご様子でしたし、握っているだけで萎れそうなお花を摘むなら、カゴが必要だろうと思って、軽く編んでみました。こちらでお役に立ちますか?」

「ええ、お役に立ちまくりよ! これ、そのへんの草で編んだの? 器用なのね」


 草カゴを形作っているのは、細長い葉や硬めの茎のある雑草だ。簡易的なカゴなのに、凄くしっかりとした造りになっている。

 これは草で編んでいるから枯れればゴミになるだけだろうけど、一時的に物を運ぶだけなら、充分すぎるほどだった。

 リリーは褒められ慣れていないのか、私の言葉に嬉しそうにほっぺたを赤くする。


「実家がこういう──葡萄のつるなどでカゴやザルを作る職人なんです。なので見様見真似で」

「あぁ、職人の家系なのね! こういう特技があれば、咄嗟の時に困らなくていいなぁ……」


 実際、前の人生ではそういう場面に何度も出くわした。せっかく見つけた果物でも、カゴを持っていなかったせいであまり持って帰れなかったなんて、よくある話だ。


「ねえ、あとで編み方を教えてくれない? 私こういうの、覚えておきたいの!」

「ええ!? そんなめっそうもない! 私がティアナお嬢様にお教えすることなんて……!」


 リリーは謙遜しているけど、あとで絶対に教えてもらおう。だってこの技術があれば、私自身に役立つのはもちろん、魔法を使えない者同士での助け合いにも参加しやすくなるはず。

 一人で生きるにしろ、誰かと交流するにしろ、絶対重宝すると確信できる技術だもの。

 おばあ様のことは絶対助けるけど、今後のことを考えたら、役立つ技術を習っておいて損はない。そのために、今から少しずつでも仲良くしておきたかった。


 顔を真っ赤にしているリリーの裾を、私はチョイチョイと引っぱる。


「ねぇリリー。カゴ編みはまた今度お願いするけど、よければ今は、この花の収穫を手伝ってもらえる? たくさん摘みたいんだけど、私一人じゃ時間がかかりそうなの」

「も……もちろんです! こういう仕事ならお任せください。すぐ終わらせてしまいますね」


 それからは、まるで時間がかからなかった。

 職人の家系というのもあるのか、リリーはとても器用に風魔法を使う。地を這うように伸びている露草の茎をクルクルと巻き取って、根本の近くをプチンと切った。

 巻き取られたツユクサは、まるで花冠のように綺麗に成形されている。それをいくつも作り上げれば、草カゴはあっという間にいっぱいになった。

 私だけでは、根っこを探すまでにドレスを汚していたかもしれない。

 こんなに器用で素直で可愛くて、しかもよく気がつく子なのに、なぜ前の人生では面識がなかったのかしら?

 少なくともこれからは、ことあるごとに声をかけたいと思えた。


「ねぇリリー。私今から、これをおばあ様のところに持っていくの。一緒についてきてくれない?」

「私で、よろしいんですか?」

「もちろん! 少し手伝ってもらわなきゃいけないこともありそうだし」


 目をパチパチしているリリーの手を引きつつ、他の侍女たちにはさっき飲んだお茶の片付けをお願いする。ケーキは食べきったけど、お茶はまだ少し残っていたから、テーブルの上をそのままにしておいたんだ。

 本当は新入りが真っ先にやらなければいけない仕事なのか、リリーが肩身狭そうにしている。

 あとで侍女たちにはお菓子の差し入れでもしたほうがいいかもしれない。リリーを気に入って本来の仕事をさせないのは私なんだから、お詫びをするなら私がすべきよね。

 おばあ様の部屋までの廊下を歩きながら、カゴいっぱいのツユクサを見下ろす。


 おばあ様、こんな雑草を持ってきた私に驚くかしら。私が授かった物が魔法じゃないかもしれないと知って、ガッカリしたりなさらないかしら。

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