「私にも、魔法が?」
そんなこと、本当にあるんだろうか。
じっと自分の手を見ても、当然ながら実感はない。
そんな私をおばあ様は、笑顔で眺めた。
「最初はどのような恩恵を授かったかも分からないものです。……さあ、今日はもう体を休めなさい。体調を崩したのは事実なのだから。大丈夫、どのような魔法を授かったのであっても、そして授かったものが魔法ではなかったとしても。この婆はあなたの味方ですからね」
私のおでこにキスをしてから退室したおばあ様を見送り、少し呆ける。
残ったのは甘い香りのクッキーと、チョコレートケーキ。だけど今の私に、それを食べようと思える気力は、湧き上がってこなかった。
お皿に盛られた生クリームが溶けるように、へにゃりと机に突っ伏してしまう。
「……怒濤の展開すぎて、頭が追いつかないかも」
視線の先で、あの日指輪をつけていた指が見えた。
「指輪にあんな力があったなんて。おばあ様も魔法を使えない人間で、飢え死にして……時間が巻き戻ったときに、魔法を神様から授かった。そして私も、なにか……?」
サイドテーブルにあるティーカップを見つめて、立ち上がる。
もし本当に、私も魔法が使えるようになっているのなら。あのティーカップに水を満たすことだってできるのかもしれない。
息を吸って、唇を噛み、手を翳す。
「水よ、満ちて」
──しばらく待っても、カップの底に水が張ることも、水滴一滴垂れることもなかった。
大きな溜め息しか出ない。
「んあー……まぁそうよねぇ……」
ベッドに倒れ込み、眉根を寄せる。
おばあ様も、使えるのはひとつの魔法だけだ。なら私も、使えるのは普通の魔法じゃないのかもしれない。
だけどそれは、どうやって探したらいいんだろう。ふわふわした枕に顔を埋めていても、きっと答えなんて出やしない。
モヤモヤした気持ちで顔を上げて、再び窓の外を見る。
そこは食糧難を救ったおばあ様を讃えたるために作られた、花の庭園だ。国を越えて捧げられた様々な花が、入れ替わり立ち替わり、季節の移ろいとともに咲き誇り続けている。
今は特に気候も暖かく、もっとも多くの花が開いていた。
「そうね、お散歩でもしたら気分転換になるかもしれない。せっかくおばあ様がケーキを用意してくださったんだもの、ガーデンテーブルでいただくのも楽しいわ」
改めて侍女を呼び、外にお茶の用意を頼む。
……私の意識がまだ、賤民として生活していた自分から離れきっていないせいだろうか。お茶の準備程度を人に頼んでもいいのか、ちょっと戸惑う気持ちがある。
それでもゆったりとしたドレスを着て、実際に庭に出れば、少しだけ気分が落ち着いた。
さわやかな風、色とりどりの花々。そして私がなにもしなくても、笑顔であれこれと世話を焼いてくれる侍女たちを見て思う。
「ああ私、貴族だったんだなぁ」
私の記憶の中では、実に一年ぶりの貴族の生活だ。いつか確実にこの生活から放り出されると分かっていても、今は少しだけ、この贅沢さを堪能したいと思ってしまう。
だけどそうしてばかりもいられない。今からなら、おばあ様の急死を止められるかもしれないもの。
「あと二年もあれば、治癒魔法がなくてもなんとかなるかもしれない。怪我にも原因があるように、あの突然死にだって原因があるはずよ。確かあの時、おばあ様は」
そう、数日前からフォークを取り落としたり、時々うまく話せなくなったり、そんなことがちらほらあったんだ。
だけどすぐ元に戻るからって、おばあ様も私たちもあまり重く捉えず、治癒師を頼ることすらしなかった。もしあれがおばあ様の急死に関係しているなら、今から少しずつ治癒師を頼れば。
ううん、私にできることがあれば、なんだって──!?
不意に、頭の中でグラスが鳴るような感覚がした。