今日の目的は果たしたが、このまま帰るのもなぁ……と思っていたら。
まさかハルキの家に行くことになってしまった。
確かハルキは、クラスの自己紹介のときに家の都合で引っ越してきた……と言っていたはずだ。
でもハルキは、一人暮らしをしているのだという。
「はい、ここだよ」
「お、おぉ」
案内された先にあったのは、普通の一軒家。ごく普通のお家だ。
そう、ごく普通の……一人で暮らすには、広いんじゃないかと思える家。
「こ、ここに?」
「うん。ボクの両親、結構顔が広いみたいで。一人暮らしする際に、使っていいよって借りたんだ」
ハルキに案内されるままに、私は足を進めていく。
なんか、すごいことを言っている気がする……
両親のつてで、家族で住むような家に一人で住めているのか……
「お、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
「……あの、一人暮らしって言ってたけど」
家の中に入り、玄関で靴を脱ぐ。
玄関先には、ハルキ一人分の靴のみ。やっぱり、一人……
「そう。この町に引っ越してくるときに、両親といろいろ話してね。
ボクは一人でこの町に留まることにして、両親はあちこち回ってるよ」
「……そっか」
両親があちこち……転勤族だった私と似たようなものか。
私も、高校生になるからと説得して、一人暮らしを始めたんだもんな。
あんまり嬉しくないといえば嬉しくない共通点だけど……
それでも、ハルキとの共通点があるのは、嬉しいな。
「じゃあ、階段上がってすぐのところだから。先に行っておいでよカレン」
「えっ」
靴を脱いで、用意されたスリッパを履いて。どうしたもんかとキョロキョロしていたところ、ハルキが言った。
階段上って……ってことは。言われなくてもわかる。その先にあるのは……
まさか……ハルキの、じ、自室!
「どうかした? あ、それともリビングの方がよかった?」
「お部屋がいいです!」
「そ、そう」
やばっ、食い気味に言ってしまった。がっついていると思われるぅ。
「ボクはお菓子とか用意してくるから」
「お、お構いなくぅ」
ハルキはリビングに行き、私は階段を見上げる。
こ、この上にハルキの部屋が……
「はぁ、はぁ……」
一歩一歩と、階段を上っていく。
なぜだろう、すごくドキドキする。こ、興奮してきた。
だ、だってさぁ……そもそも今日、ハルキの家に来るだなんて思ってなかったしぃ!
そりゃ、いつかは……って思ってたよ? いつか
でもまさか、今日! ハルキに誘われて! 来ることになるなんて思わないじゃん!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
階段を上り終え、すぐ近くに扉があるのを見つける。
ここが、ハルキの部屋……は、ハルキの。うひゃあ、緊張するぅ。
でも、いつまでもこうして突っ立っているわけにはいかない。後から上ってきたハルキに、変な風に見られてしまう。
はぁ、ふぅ……よし。開けるぞ、覚悟を決めろ私!
「お、おじゃまひまひゅ!」
誰もいない部屋の中へと声をかけ、その上で噛んでしまった。
恥ずかしい。顔が熱い。
ドアノブに手を伸ばし、それを捻る。
力を込めると、扉が開いていく。ついに、ハルキの部屋の中へ。
「わぁ……」
一歩足を踏み入れただけで、私はその場に崩れ落ちそうになっていた。
でも、耐えろ私。まだ部屋に入っただけだ。
白い壁紙の部屋に、端にはベッド。勉強机もあるし、それとは別に部屋の中央には小さなテーブルも置いてある。
私の部屋のように、人形とか小物は置いていない。必要最低限って感じだ。
私以外の女の子の部屋なんて、
蓮花の部屋も私と同じような部屋だったけど。ハルキの部屋はまるで……
「男の子の部屋みたい」
「あはは、面白みのない部屋で申し訳ない」
「!」
後ろから、声がした。
振り向くと、そこにはハルキが立っていた。手には、お盆を持ち……その上には、ジュースやお菓子が乗っている。
わざわざ、用意してくれたんだ。
「ご、ごめん。変な意味で言ったわけじゃ……」
「わかってるよ。ボクも自覚してるし」
部屋の中に入ってきたハルキは、部屋の中央に置いてあるテーブルにお盆を置く。
「それにしても、カレン男の子の部屋に入ったことあるんだ?」
「へ?」
あ、そ、そうだ。さっきの言い方はまるで、私が男の部屋に入ったのだと言っているようなもの。
まるでもなにも、実際にそう言った感じなんだけど。
「ち、違うの! いや、違わないんだけど……」
どうしようどうしよう。ハルキに、普通に男の部屋に入るような女だって思われちゃう!
私、身内以外の男の部屋に入ったことないよ!
変な誤解を持たれる前に、解かないと!
「男の子の部屋って……男の子って、お、弟だから!」
「……弟?」
よし、言った、言えた。これで誤解されなくて済む。
そう、私には二つ年下の弟がいる。
しかも、弟にはハルキも会ったことがある!
「覚えてない? 私の、弟!」
「……あぁ、うん、覚えてるよ。そういえば、一緒に遊んだね。懐かしいなぁ」
うーんと考え、思い出してくれたハルキ。
よかった。弟なんて、口から出まかせ……なんて思われちゃわないかと思った。
私がこんなにも焦ったのは、ハルキに……男の部屋にホイホイ上がるような女だと、思われたくなかったから。
だけど、部屋に上がったことがあるのが弟ならば、ハルキにはしたない女だと思われることもない。
「ハルキが……その、初めて、だから」
「へ? あぁ、うん?」
あぁ、気持ちが昂って変なこと言っちゃった。ハルキは男の子じゃなくて女の子だってのに。
それに、女の子でも蓮花の部屋には行ったことあるし!
なにが「初めてだから」だよう! バッカじゃないの! バッカじゃないの私!