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第21話 ボクの家、誰もいないからさ



 ――――――



「いやあ、ついにボクもスマホデビューかぁ!」


 携帯ショップから外に出て、ハルキは買ったばかりのスマホをまじまじと見つめる。

 購入の手続きを終えた頃には、なんやかんやで一時間くらい経っていた。


 新品のスマホかぁ……手に入れた時は私も、飛び上がりそうなくらいに喜んだっけ。

 わかる、わかるよその気持ち。


「カレン、ありがとうね!」


「え?」


 ふいに、ハルキが私にお礼を言ってくる。

 き、急にお礼なんて……私、お礼言われることなんてなにもしてないけど。


「カレンが着いてきてくれたおかげで、スムーズに買うことができたよ!」


 私のおかげでスムーズに買えた……かぁ。

 私はそれこそ、同じ機種を買ったというくらいしか役に立っていない気がするけど。


 でもまあ、お礼を言われて悪い気はしないので、素直に受け取っておこう。


「ところでカレン、なんかさっきから顔赤いけど、大丈夫?」


「へっ?」


 私の顔を覗き込むようにして、ハルキが言った。

 顔が赤い……その指摘を受けて、私は咄嗟に自分の顔を触っていた。


 触ったからって、顔が赤くなっているのかわかるはずもない……けど。

 もし、本当に顔が赤いとしたら、原因は一つだ。



『いい彼氏さんですね』



 さっき店員さんに言われた、この言葉だ。

 私とハルキのやり取りを見て、こう思ったらしい。ハルキは男の子っぽい格好をしているので、男の子と間違えても無理はないだろうけど……


 よ、よりにもよって、か、彼氏だなんて……!

 私たち、そういう風に見えちゃってるの!?


「カレン?」


「! いやっ、なんともないよ!?」


 眉を寄せ、私の顔を見つめてくるハルキの顔を直視できない。

 店員さんの言葉は、当然ハルキには聞こえていない。私にだけ聞こえるように言ったからだ。


 まさか、店員さんの言葉をそのまま伝えるわけにはいかない。男の子に間違われている……とはハルキがショックを受けるから。……ではない。

 むしろハルキは、自分が男の子っぽいことを自覚している。


 問題なのは、彼氏彼女に間違われたことを私が必要以上に、意識していることだ。

 自分が男の子に間違われ、私の彼氏だと思われた。ハルキなら、きっと笑い飛ばすだろう。


 笑い飛ばすような状況で、私は深く意識してしまっている。それを知られたくない。


「ほ、本当になんでもないから」


「そ、そっか」


 とにかく、さっきのことは忘れよう。年頃の男女なんだ、ただそう見えただけ。深い意味はない。

 あの店員さんとはもう会うことはないんだし……いや、そうでもないか。携帯ショップの店員さんなら。


 ともあれ、切り替えて。

 新しいスマホを買うという、今日の目的は果たした。ならば、この後はこのまま帰るだけだけど……


「……帰りたくないなぁ」


 この楽しい時間を。ハルキと一緒に居られる時間を。終わらせたくない。


 さっきは、いろいろ考えすぎておセンチになっちゃったりもしたけど。

 やっぱり、ハルキと一緒に居たいと思ってしまう。


「カレン、まさかそこまで思っていてくれるなんて」


「へ?

 ……っ!?」


 ハルキが、なにやらしみじみとうなずいている。いったい、どうしたというのか……

 それを考えたとき、私の顔はきっと真っ赤になったことだろう。これは間違いない。


 い、今の……聞かれてた!? ていうか、声に出てた!?

 うわぁ、私……うわぁ、言っちゃったのか。「帰りたくないなぁ」だって! うわぁ!


 あ、穴があったら入りたいよぉ。


「ならさ、ウチ来る?」


「へぇ?」


 私が羞恥に悶えていたところ、ハルキがとんでもないことを言い出した。

 聞き違いだろうか。うんそうだよそうに違いない。


 ウチ来る、なんてそんなの、私が思った幻聴……


「ボクの家、誰もいないからさ。というか、一人暮らしだし……」


 ぬぉおおおおお!? 聞き違いじゃない!

 しかも、誰もいない……だと!? 一人暮らし……だと!?


 それって……ふ、ふふ、二人きりになるって、いうことじゃない!?


「は、ハルキはいいの……?」


「よくないと、ウチ来るかなんて言わないよ」


 そりゃそうだ。


 それにしても、ハルキの家……お、お家デートイベント……!

 まさか、こんなに早く訪れることになるなんて。いや、別に期待していたわけじゃないよ!?


 ……ないよ!?


「ボクも、せっかくカレンと出掛けてるのにここで別れるのは寂しいし。

 それに、スマホの設定も見てもらいたいしね」


 スマホの設定……あ、うぅ、そ、そうだよね。そういう理由……

 って、また暗くなってる! ダメだよ私!


 それに、ここで別れたら……ハルキのスマホの連絡帳の一番最初が私、という計画が台無しになってしまうし!

 私がその場にいて、すぐに連絡先を交換しないと!


「は、ハルキが来てって言うなら、行ってあげなくもないけど……」


 ハルキが来ても良いと言ってくれるなら、行きたい……ただ、そう言いたいだけなのに。

 なんで私はまた、こんな変な言い方しちゃうかなぁ! いつの時代のツンデレだよぉ! ツンデレって通じるのかよぉ!


 私、こんなめんどくさい性格だったっけ。


「うん、来て欲しい」


 だけどハルキは、そんなめんどくさい私の言葉に嫌な顔ひとつせず、真摯に答えてくれた。

 そんな顔されたら……もう、なにも言えなくなっちゃうじゃん。


 私は静かに、うなずいた。


「なら、行こうか。こっちだよ」


「う、うん」


 ハルキは笑顔で、私の手を取った。

 もう自然なその動き。ドキドキする気持ちが止まらない。

 歩き出すハルキに合わせて、私も足を進めていく。


 ちなみに、私も一人暮らしだしハルキをウチに呼ぶことはできる。けど。

 まさか今日、こんなことになるとは思わなかったから。全然、部屋とか片付けてないから。


 そんな状態で、ハルキを呼べるわけないじゃん!

 呼ぶとしても、ちゃ、ちゃんと心の準備をしておかないと!

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