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第13話 ボクの連れなんですよ



 ――――――


 ……今日は、高校に入学してからの初めての休日。週末だ。


 高校生の休日となれば、部活動か友達と遊ぶか……それとも一人で過ごすか、家族と過ごすか。様々な時間の使い方がある。

 入学したばかりなら、部活動に入っている生徒はまずいない。ほとんどの生徒が、学校関連以外の時間を過ごしているだろう。


 そんな中、私恋上院 華怜れんじょういん かれんは一人、とある場所にいた。

 わいわいと人がにぎわう場所……駅前だ。大きな噴水があり、さらには時計台も立っている。


 その時計台の下に、私は立っていた。


「……ちょっと、早く来すぎちゃったかしら」


 ポケットに入れていたスマホの電源を入れ、時間を確認する。

 待ち受けの画面は、小さな女の子と男の子……が、映っている。ただし、この画像はスマホで直接撮ったものではない。

 十年前、カメラで撮ってもらったもの。……その写真をスマホのカメラで撮り、待ち受け画像にしたのだ。


 画面に表示されている時間を見て、私は小さくため息を漏らした。

 ……待ち合わせの時間、三十分前。いくらなんでも、早く着きすぎた。


 周囲を見ても、当然待ち合わせ相手の姿はない。


「はぁ、私ってばばかなの……」


 待ち合わせ場所に、こんなに早く着いているなんて……私が、今日をすごく楽しみにしていたみたいじゃないか。

 いや、実際に楽しみにしていたんだけどね。


 だからって、三十分も前に着いてどうするのよ。

 ハルキは、スマホを……連絡手段を持っていない。私が早く着いたところで、それを伝える手段なんてない。

 いや、持っていたとしても連絡はしないか。早く着いたから、なんてまるで急かしてるみたいだし。


「……デート……か」


 私は空を見上げて、ぼそっと呟いた。


 今日は、ハルキとの約束の日。ハルキのスマホを買いに行く日だ。

 事前に待ち合わせ場所と時間を決め、そこに集合することに。ハルキはこの町に越してきたばかりだし、わかりやすい場所がいい。


 そう考えた結果、駅前ということにした。それも、時計台の下という細かい場所を指定することで、迷う可能性は低くなる。

 近くには目印がある。大きな噴水だ。初めて来た人だって見落とすことのないものだし、万が一に迷うことはない。


 ……それにしても。


「なんか、私変なのかなぁ」


 さっきから、ちょいちょい視線を感じる。

 男の人からも、女の人からも。もしかして、私の恰好がおかしいのだろうか?


 私は、悩んだ。今日着ていくための服をだ。

 悩んで悩んで……結局、シンプルなものに落ち着いた。


 それが以前、かわいいからって理由で買ったこのノースリーブの白いワンピース。

 それに、今日は日差しが強いので帽子を加えた。日差し対策もばっちり。


「別に変なところは、ないと思うんだけどなぁ」


 あんまり張り切ると、いかにも今日のためにキメてきました……感が出てしまう。それは恥ずかしい。

 これなら、清楚な感じが出てそれでいてかわいらしいから、いい感じになっているはずだ。うわはぁ、私の語彙力やばぁ。


 桃色のショルダーバッグを肩からかけて……今日は、気分を変えて髪を後ろで結んでみた。

 べ、別にハルキに見せるためにいつもと違う髪型にしたとか思ったわけじゃないんだからね。


「うーん、時間までまだあるし……あっちで、時間潰そうかな……」


 もう一度時間を確認して。まだ待ち合わせ時間には余裕がある。

 あっちに、お店があった。さっきも確認したけど、もう一度お店のガラスで髪を確認して整えてこよう。


 そう思って、足を動かそうとした時だ。


「ねーねー、姉ちゃん一人?」


 ……ハルキ、かと一瞬思った。でも、それは違うとすぐにわかった。

 ハルキとは全然違う、"軽い声"。高校初日、私たちに話しかけてきたチャラ男と似ているけど、根本的に違ったトーン。


 これは、反応してはいけない声だ。

 そう思ったのに……それよりも、反射的に声の方を向く動きの方が早かった。


「おぉ、姉ちゃんすっげー美人じゃん」


「一人なら、俺らと遊ばない?」


 そこにいたのは、二人の男。髪の色を金に染めた男と、茶髪の男。

 二人とも、耳にピアスを開けている。一目で、わかる……


 これは、ナンパだと。


「いえ……待ち合わせが、あるので」


 私は、なるべく穏便に済ませるために、笑顔を浮かべて対応する。

 あぁ、ちゃんと笑えているかな。


 軽く会釈をして、この場を去ろうとする……けど、男たちは私の前に先回りする。


「えー、いいじゃんんな固いこと言わずにさ。待ち合わせ相手が来るまででもいいから」


「あぁー、なんならその待ち合わせ相手も一緒に遊ぼうよ。うはっ、ちょー楽しそうじゃね」


「いえ、あの……」


 断った私の言葉など無視して、男たちは笑いながら話して……

 後退りした私の手首に手を伸ばして、掴んだ。


 っ……い、痛い。男は、そんなに力を込めているわけじゃない。それなのに……


「おいおい、その子怖がってんじゃねえの? お前の顔が怖いんだって」


「はぁ、んなわけねえだろ。ねぇ姉ちゃん?」


「……は、離してくださいっ」


「えー? なになに、聞こえなーい」


 男たちは、軽口を叩き合いながら……私の手首をしっかりと握りしめ、私を逃さない。


 なに、これ……男の手って、こんなに大きくて……怖いものなの?

 なんで周りのみんな、誰も声をかけてくれないの? ……助けてくれないの?


 このままじゃ、私……


「ほらほら、じゃあ行こうぜぇ」


 男たちに連れられて、どこかへ行ってしまう。そんなことになれば……ハルキと、会えなくなる。

 連絡手段のないハルキに、私が待ち合わせ場所にいない理由を伝えることはできない。


 自分のことよりも……なぜか、ハルキのことを考えていた。

 ……そんな、ときだった。


「あの」


 ……声が、聞こえた。あたたかい、声が。


 その声を聞いただけで、胸の中に渦巻いていた恐怖心は……あっさりと、吹き飛んでいった。

 そして、男たちに引かれている手首……その腕を、掴む手があった。


「すみません、彼女……ボクの連れなんですよ」


 男の手とは違う、怖いもなにもない……安心する、手。

 まだ、待ち合わせ時間まで時間はあるはずなのに……どうして……


 なんで……ハルキが、ここにいるの?

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