「…………」
私は、箸の先をじっと見つめる。
そこは、たった今ハルキが口に含んだ箇所だからだ。
このまま私も、同じ場所に口をつければ……それはつまり、か、間接キスをしたってことになっちゃうよね。
うわ、うわぁ。
「どうかした、
「へ?」
「さっきから、なんか黙っちゃってるけど」
意識していなかったけど、黙ってしまった私を不審に思った
い、いけない私。変に思われちゃってるじゃない。
平常心……平常心よ。いつも通りよ、私。
「な、なんでもないわよ」
「そう?」
ならいいけど、と蓮花は自分の食事を続ける。
くぅ、人の気も知らないで……いや、知らないでいいんだけど。
とはいえ、このままなにも食べずに固まっているわけにもいかない。
覚悟を決めろ、
……いや、小学生だから意識してないだけなのか?
逆に私は、意識し過ぎなんだってば!
「ふー……あーん」
「なんで食べるのに深呼吸してんのよ」
心を落ち着け、邪念を振り払い……私は唐揚げを摘まみ上げ、それを口に運ぶ。
ぱくり、とついに口の中へ……唐揚げを、そして箸の先を。
口の中から、箸だけ引き抜く。口を動かして、口の中に残った唐揚げを咀嚼する。
時間が経っているとはいえ、衣はほどよくさくさくでお肉も柔らかく、おいしい……はずなのに。
全然味を感じないのは、なんでだろう。
「ところでカレン」
心を無にして食べている私に、ハルキが話しかけてくる。
ハルキは、持参していたパンを食べていた。コッペパンだ。
「ん……」
口の中にものがあるので、しゃべることはできない。
それを察したハルキは「ごめんね」と笑いかけてくる。
くそう、それだけなのにかっこいい……
「今度の週末、ボクの用事に付き合わせちゃうわけだけどさ。本当に用事はなかった?」
む……心を無にしようってときに、なんでそのことを持ち出してくるかな。
嫌でも考えちゃうじゃん。
いや、嫌ではないんだけどさ。
「んぐ……ごくん。
な、なにもないわよ。ていうか、あったら断ってるし」
唐揚げを飲みこみ、私は返事をする。
だけど、それは嘘だ。たとえその日用事が入っていたとしても、ハルキとのお出掛けを優先させたことだろう。
それくらい、ハルキとのお出掛けは私にとっては大切なことだ。しかも再会したばかりで、だ。
というか……
「な、なんで今そんな話……?」
「だって、今くらいしかできないし」
と、ハルキはにこりと笑う。
……そうか。普通に考えれば、約束なんかはスマホでやり取りすればいいから直接話す必要はないけど。ハルキはスマホを持っていないから、約束を確認するためには直接話すことしかできない。
でも、こういう話を公の場でするのは……なんか、恥ずかしいな。
誰に聞かれるかもわからないんだし……
「おぉ、二人ともどこかへお出掛けするの?」
ほら、少なくともこの場にいる蓮花には聞かれちゃうよね。
しかもこの子、こういう話大好きだし。
「うん。カレンに、ボクのスマホ選びに付き合ってもらうんだ」
「へぇ、なにそれ面白そう」
そうそう、私のハルキのお出掛けなんだから。
ま、まあ、一緒に出掛けるくらいなんでもないし。別に、昨夜うじうじ悩んでたわけじゃないし?
女の子二人で休日デートくらい、普通のことだし……
「楽しそう、かな。
……そうだ、どうせなら蓮花ちゃんも一緒にどうかな」
…………は?
えっと……ハルキ今、なんて? え、今蓮花を誘ったの?
いや、なんでなんで。おかしくない? だって、私を誘ってくれたじゃん。なのに、他の子も一緒なんておかしくない?
「え、私も?」
「だってたくさんいた方が、楽しそうじゃない?」
おいおいおい、なんで蓮花も乗り気なんだよおかしくないかな。だって、私がハルキと二人で出掛けるはずになってて、そもそも私と一緒に出掛けたいって言ってきたのハルキだよね。なのに、楽しいからっていう理由で他の女の子を誘うなんておかしくない? 私はハルキと二人で出掛けるの楽しみにしていたのに、ハルキはそうじゃなかったんだ……
「うーん、魅力的なお誘いだけど、その日は用事があってねー。ちょっと無理かなー、ごめんね」
「そっか。ううん謝らないで、ボクこそいきなり誘ってごめんね。
残念だったね、カレン」
「……へ? あ、うん……」
……あれ、今私、なにを考えてたんだろう。
なんだか、ハルキが別の女の子を誘ったってだけで、胸の奥にどす黒いものが……なんだろ、これ?
もしかして、嫉妬……とかじゃないよね? しかも、蓮花相手に……
「うぅ……蓮花、ごめんね」
「えっ? いや、謝ったのは私の方だったんだけど?」
私……なにやってんのさ。ハルキのことは、女友達としてきっぱり割り切るって決めたじゃん。
なのに、他の女の子を誘ったからって……こんな、嫉妬なんて……
いや、やめてよ。私そんな、重い女だっていうの……?
「蓮花ぇ、ウインナーあげる」
「え? も、もらえるならもらっとくけど……あ、ありがとう?」
こんなものじゃ償いにならないけど。
蓮花に嫉妬してしまった自分が、情けない。
それに、ハルキだってただ、多人数で遊んだほうが楽しいだろうって思っての発言だったんだろうに。
私は、そんなハルキの気持ちにも、醜く嫉妬して……
「なんかカレン、元気なくない? ほら、卵焼きのお礼……パンをお食べ」
「え、いや私は……むぐっ」
私がなにを言うより先に、口の中にパンを突っ込まれる。
う、また間接……! ハルキは全然、気にしてないんだなぁ。
「どう、おいしい?」
「ん……おいひい」
「よかったぁ。ま、カレンの料理には全然敵わないけどね」
私がこんなに悩んでいることなんて、全然気が付いてないんだろうなぁ。
こんな私に優しくしてくれるなんて、眩し過ぎるよハルキ。
こんなの……ますます……
「それで、待ち合わせ場所と時間なんだけど……」
私の胸の中は、もうぐちゃぐちゃで。
そんな私に気付くことはなく、ハルキはお出掛けの日の予定を決めていく。