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第4話 そ、それはもう忘れてよ



 つい先ほどの出来事なのに、まだ夢でも見ているみたいだった。


「いきなり手を掴まれて、名前まで呼ばれていったい誰かと思ったよ。

 この町に越してきたばかりで、ボクには知り合いもいないしさ」


「ご、ごめんね」


「いや、謝る必要はないって」


 こうして話していると、間違いなくハルキだと実感する。

 十年も離れていたなんて、信じられないくらい……あぁ、懐かしい気持ちでいっぱいだ。


 男の子みたいに活発そうな短い髪も、男の子みたいに高い背も、男の子みたいな砕けた口調も……男の子みたいな『ボク』なんて一人称も。

 そう……ハルキのことは、今まで男の子だと思っていた。そして、私はハルキに恋をしていた。


 初恋を捧げた男の子と、高校入学を機に再会……あぁなんて、ロマンティックな青春だろう。

 ……再開したのが本当に、男の子だったならね。


「いやぁ、ほんっと懐かしいよ。あっはははは」


 ケラケラと笑うハルキの胸についている、二つの膨らみ……さらに視線を落とすと、膝上より少し高いスカート。

 それは、なにをどう考えても、彼女が間違いなく女の子だと証明するものだった。


 初恋の男の子は、実は女の子だった。

 事実だけを並べると、勘違いしていた私はなんともおまぬけだ。


 そして、こういうのラノベで読んだことがある。昔遊んでいた男の子だと思っていた子が、実は女の子だったやつ。

 大きくなって、再会した相手は本当は女の子だった。それがわかって、そこから恋が始まるのだ。私、実はそういうお話大好き。


 そして、私が直面している事態は、まさにそれだ。


「……」


 ただ、違うところが一つある。物語の主人公は、たいていが男の子なのだ。

 つまり、主人公の男の子が男だと思っていた相手が実は女の子で、真実を知ってドギマギ生活から意識していく……というもの。


 私が主人公だとして……でも私は、女なわけで。


「って、カレンどうかした? さっきから黙って」


 しかも、タチの悪いことに……さっきから、バクバクとうるさい心臓がちっとも落ち着いてくれない。

 相手は、ハルキは女の子だ。それがわかったんだ。初恋の男の子は、実は女の子だったんだ。


 だから、恋の気持ちは幻……もう消さなきゃいけないものだ。

 なのに……


「な、なんでもない、わよ……」


「そうか? なんか顔も赤いし、もしかして熱とか?」


「ひゃっ!?」


 こつん……と、額になにかが当たる。そのなにかは、気持ちいいくらいにあたたかくて、いや熱くて。……ううん、熱いのは私の額だ。

 額に当てられたのは、ハルキの額だった。額同士が触れ合っている。つまり、真正面にハルキの顔があるということだ。


 これは、なんだ。さっきからばくばくうるさい心臓は、初恋を自覚してからのそれとまったく同じ……いや、それ以上だ。

 だめだよ、私。落ち着け、落ち着きなさい。だって相手は、ハルキで、ハルキは初恋の相手で、でもハルキは女の子で……あ、あれ?


 も、もしかして……私、ハルキが女の子だって知ったのに、まだハルキのことが好きなの……!?

 お、女の子だよ相手は……!?


「だ、大丈夫だから! 離れて!」


「わっと」


 顔が近すぎて、たまらずハルキの胸を押してしまった。

 ハルキとの距離を離すことには成功するけど、胸を押したせいで触れてしまった、柔らかくて私より大きなものの存在感を認識してしまう。


 そ、そうだよ、ハルキは女の子なんだよ。だから……


「ったく、カレンったら恥ずかしがってんのか?」


 ハルキは、押されたにも関わらず嫌な顔ひとつしない。それどころか、適当言って私をからかってる……

 実際に恥ずかしいから困ってるのよ!


 うぅ、なんなのよこれぇ!


「ふ、ふん。それより、私はハルキのことを見つけたのに、ハルキは私のこと気付いてなかったんでしょ」


 この気持ちをどうにかしたくて、話題を変えたくて、私は腕を組み変なことを口走ってしまう。

 なにを言っているんだ私は。これじゃあ、私がハルキに気付いてもらえなくて拗ねているみたいじゃないか。


 ていうか、勝手に見つけたのは私なのに……なにを言っているんだ。


「あはは、そんなことないさ。てか、カレンがいることは早めに気付いてたよ?」


「え?」


 笑いながら言葉を返してくる。そんなハルキの顔を、思わず見つめた。


「だって、同じクラスに恋上院 華怜れんじょういん かれんって名前があったんだもん。もしかして、って思ったよ」


「! な、名前じゃない! 私を見つけたわけじゃないんじゃん!」


 あぁ、どうしよう……名前を見つけたってだけのことなのに、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。

 飛び上がりそうなくらい、嬉しい!


 なのに私ってば、また強がっちゃって……


「だから、捜してはいたんだ。でも、カレンから先に見つけてくれるとは思わなかった。

 まさかあんな熱烈に手を掴まれるなんてね」


「! そ、それはもう忘れてよ!」


 もうもうっ、せっかくハルキと再会できたのに……私さっきから、変なところしか見せてない。

 それに、ハルキは私の名前を見つけてくれたのに、私はハルキの名前見つけられなかった……って、今考えるのそれ!? うぅ、頭の中がめちゃくちゃだよ!


 ハルキが女の子だった現実に混乱しているのは事実だけど、このままじゃ変な子扱いされちゃうよ!


「それにしても、すごいよなカレンは」


「え?」


 ふいにハルキは、言う。私がすごいのだと。

 それがなんのことなのかわからず、たまらず言葉に詰まってしまう。


 そんな私を見て、ハルキは笑った。

 私に、笑ってくれている。


「だって、新入生代表だもん。あんなに頭良かったんだな」


 ハルキに褒められた……「すごい」と、そのたった一言がどうしようもなく嬉しい。

 先生にも、すごいと言われた。でも、そんなのとは比べ物にならないくらい……嬉しい。


 入学試験で好成績を残した私は、その影響で新入生の代表スピーチをすることになった。

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