つい先ほどの出来事なのに、まだ夢でも見ているみたいだった。
「いきなり手を掴まれて、名前まで呼ばれていったい誰かと思ったよ。
この町に越してきたばかりで、ボクには知り合いもいないしさ」
「ご、ごめんね」
「いや、謝る必要はないって」
こうして話していると、間違いなくハルキだと実感する。
十年も離れていたなんて、信じられないくらい……あぁ、懐かしい気持ちでいっぱいだ。
男の子みたいに活発そうな短い髪も、男の子みたいに高い背も、男の子みたいな砕けた口調も……男の子みたいな『ボク』なんて一人称も。
そう……ハルキのことは、今まで男の子だと思っていた。そして、私はハルキに恋をしていた。
初恋を捧げた男の子と、高校入学を機に再会……あぁなんて、ロマンティックな青春だろう。
……再開したのが本当に、男の子だったならね。
「いやぁ、ほんっと懐かしいよ。あっはははは」
ケラケラと笑うハルキの胸についている、二つの膨らみ……さらに視線を落とすと、膝上より少し高いスカート。
それは、なにをどう考えても、彼女が間違いなく女の子だと証明するものだった。
初恋の男の子は、実は女の子だった。
事実だけを並べると、勘違いしていた私はなんともおまぬけだ。
そして、こういうのラノベで読んだことがある。昔遊んでいた男の子だと思っていた子が、実は女の子だったやつ。
大きくなって、再会した相手は本当は女の子だった。それがわかって、そこから恋が始まるのだ。私、実はそういうお話大好き。
そして、私が直面している事態は、まさにそれだ。
「……」
ただ、違うところが一つある。物語の主人公は、たいていが男の子なのだ。
つまり、主人公の男の子が男だと思っていた相手が実は女の子で、真実を知ってドギマギ生活から意識していく……というもの。
私が主人公だとして……でも私は、女なわけで。
「って、カレンどうかした? さっきから黙って」
しかも、タチの悪いことに……さっきから、バクバクとうるさい心臓がちっとも落ち着いてくれない。
相手は、ハルキは女の子だ。それがわかったんだ。初恋の男の子は、実は女の子だったんだ。
だから、恋の気持ちは幻……もう消さなきゃいけないものだ。
なのに……
「な、なんでもない、わよ……」
「そうか? なんか顔も赤いし、もしかして熱とか?」
「ひゃっ!?」
こつん……と、額になにかが当たる。そのなにかは、気持ちいいくらいにあたたかくて、いや熱くて。……ううん、熱いのは私の額だ。
額に当てられたのは、ハルキの額だった。額同士が触れ合っている。つまり、真正面にハルキの顔があるということだ。
これは、なんだ。さっきからばくばくうるさい心臓は、初恋を自覚してからのそれとまったく同じ……いや、それ以上だ。
だめだよ、私。落ち着け、落ち着きなさい。だって相手は、ハルキで、ハルキは初恋の相手で、でもハルキは女の子で……あ、あれ?
も、もしかして……私、ハルキが女の子だって知ったのに、まだハルキのことが好きなの……!?
お、女の子だよ相手は……!?
「だ、大丈夫だから! 離れて!」
「わっと」
顔が近すぎて、たまらずハルキの胸を押してしまった。
ハルキとの距離を離すことには成功するけど、胸を押したせいで触れてしまった、柔らかくて私より大きなものの存在感を認識してしまう。
そ、そうだよ、ハルキは女の子なんだよ。だから……
「ったく、カレンったら恥ずかしがってんのか?」
ハルキは、押されたにも関わらず嫌な顔ひとつしない。それどころか、適当言って私をからかってる……
実際に恥ずかしいから困ってるのよ!
うぅ、なんなのよこれぇ!
「ふ、ふん。それより、私はハルキのことを見つけたのに、ハルキは私のこと気付いてなかったんでしょ」
この気持ちをどうにかしたくて、話題を変えたくて、私は腕を組み変なことを口走ってしまう。
なにを言っているんだ私は。これじゃあ、私がハルキに気付いてもらえなくて拗ねているみたいじゃないか。
ていうか、勝手に見つけたのは私なのに……なにを言っているんだ。
「あはは、そんなことないさ。てか、カレンがいることは早めに気付いてたよ?」
「え?」
笑いながら言葉を返してくる。そんなハルキの顔を、思わず見つめた。
「だって、同じクラスに
「! な、名前じゃない! 私を見つけたわけじゃないんじゃん!」
あぁ、どうしよう……名前を見つけたってだけのことなのに、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。
飛び上がりそうなくらい、嬉しい!
なのに私ってば、また強がっちゃって……
「だから、捜してはいたんだ。でも、カレンから先に見つけてくれるとは思わなかった。
まさかあんな熱烈に手を掴まれるなんてね」
「! そ、それはもう忘れてよ!」
もうもうっ、せっかくハルキと再会できたのに……私さっきから、変なところしか見せてない。
それに、ハルキは私の名前を見つけてくれたのに、私はハルキの名前見つけられなかった……って、今考えるのそれ!? うぅ、頭の中がめちゃくちゃだよ!
ハルキが女の子だった現実に混乱しているのは事実だけど、このままじゃ変な子扱いされちゃうよ!
「それにしても、すごいよなカレンは」
「え?」
ふいにハルキは、言う。私がすごいのだと。
それがなんのことなのかわからず、たまらず言葉に詰まってしまう。
そんな私を見て、ハルキは笑った。
私に、笑ってくれている。
「だって、新入生代表だもん。あんなに頭良かったんだな」
ハルキに褒められた……「すごい」と、そのたった一言がどうしようもなく嬉しい。
先生にも、すごいと言われた。でも、そんなのとは比べ物にならないくらい……嬉しい。
入学試験で好成績を残した私は、その影響で新入生の代表スピーチをすることになった。