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第4話 運命の始まり 2人の出会い④

 ジーヤの杖が震え、獣の牙が迫る。獣とジーヤの力は拮抗していた。ジーヤの繰り出す魔法では獣に致命傷を与えられず、獣の牙もジーヤをかすめることはなかった。

「ワシもなまったもんじゃ。こんなやつに手間取るなんてのぉ。たが久々に楽しくなってきたわい。」ジーヤは、戦いの中で笑みを浮かべた。

 すると獣は、

「なんだ貴様、なぜ笑う。先ほど怖いとかいっていただろ?」

 とジーヤに語りかけてきた。

 ジーヤは獣が言葉を発することに眉をひそめたが、獣の問いに答えた。

「お前、分かっておらんな。ヒトは怖い時こそ心躍アガるんじゃ。お前には理解出来んかもしれぬな。じゃが、コミュニケーションが取れるなら先に伝えておかねばな。」

 ジーヤは、杖地面に突き刺し、獣に向き直った。そして、

「我が名は、ジーヤ。ヒガーシ村の老師にして、ヒューマニア王国第一騎士団名誉騎士団長である。これより貴殿を成敗いたす。」と口上を述べた。

「何だ急に……?」

「これから命をかけた闘いの相手には名を名乗ることにしておるんじゃよ。まっワシのポリシーってやつじゃの」そういうとまた、杖を構えた。

 2人は、長く戦いをつづいた。拮抗していた力は徐々に崩れだす。ジーヤの動きが少しずつ鈍くなり、獣の牙と爪はジーヤに届き出す。一線を退いていたジーヤにとって長時間の戦闘は、体力を消耗させすぎた。時間の問題だった。

「もうよいお前とのお遊びはこれで終いだ。貴様には用はない。これで終わらせる。」

 獣はその猛々しい両足を踏み込んだ。そして口を大きく広げた。獣の前には魔法陣が現れ、魔力を高める。

「こいつはヤバそうじゃのぉ」

 ジーヤは即座に防御魔法を発動した。

「― バースト ―」

 魔法陣からは高密度のエネルギーの塊が発射された。ジーヤは背後にある村や逃げ遅れたかもしれない村人を気にし、攻撃をいなすことなく、モロに受け止めた。防御魔法にはヒビが入る。

「ちとマズイな」

 ヒビは次第に大きくなり、ついにジーヤの防御魔法は破られてしまった。周辺への被害は抑えられたものの、ジーヤは、その攻撃をモロにうけてしまぬた。

「これでおしまいだ。楽しかったぞ老いぼれ。」

 獣は、ジーヤを踏み潰し、この死闘を終わらせようとした。ジーヤは体を動かすこともできず、その状況を受け入れる他なかった。その時、

イカヅチ!!」

 一筋の光が獣の足を貫いた。獣は痛みで転げ回っている。

「ジーヤ! 大丈夫か!!」間一髪、オージはジーヤのもとに駆けつけた。

「逃げろと……言ったではないか……」

ジーヤは、すでに瀕死であった。

「説教は後だ。今はあいつから逃げなきゃ。」

「オージよ……最後に聞いてくれ……」

ジーヤ声を出すのもままならないが、言葉振り絞る。

「やめろ、最後なんて、」

オージは、倒れるジーヤのからだを抱え込む。

「さっきはすまなかった……お前の夢を後押ししてやれなかった……ワシはずっとお前の邪魔ばかりしてしまっていたのかもしれない……」

「やめろって言ってるだろ、早くここから逃げるぞ!」

「ただこれだけは……これだけはいえる……王に必要なものは力ではない……」

「おい! もう黙ってくれ!! 頼むから!!」

「王に必要なものは……民を思う心であり……その勇気だ……」オージは赤子のように泣きじゃくる。

 そしてジーヤは最後の力を振り絞る。

「オージよ……お前は、王になれる…………!」

 そう伝えると、ジーヤは、そのまま目を閉じた。

「ジーヤ? ねぇジーヤ起きてよ! ジーヤってば!」

 オージは、混乱し、何度もジーヤの名前を叫んだ。


 が、脅威は去っていない。

「おいおい、私に傷をつけてタダで帰れると思うなよ?」オージの初撃で獣は傷を負ったものの、立ち上がった。そして、オージのもとに歩みを進める。

 オージは涙を拭い、立ち上がった。

「許さない。お前は絶対に許さない。」

 オージの怒りは頂点に達した。

「何が許さないだ?俺とその老いぼれは闘い、そしてその結果そいつがただ敗れただけのことだ。まぁ、貴様がここに来たことでその老いぼれの努力も死も全てがムダになってしまったがなぁ。」

 オージは、獣の言葉には耳を貸さず、人差し指と中指を突き立て、獣に向けた。

「もういいお前は黙れ。」

 オージの指に魔力が集中する。あまりの魔力にオージの髪は逆立、溢れんばかりになっていた。

イカヅチ

 オージから放たれた怒りはそのまま獣の体を貫いた。 獣はそのまま地面に倒れ込む。

 オージも魔力を使い果たしてしまった影響でそのまま地面に倒れ込んでしまった。朦朧とする意識。そのまま気を失いかけようとした時だった。野獣はぐらつきながら立ち上がった。

「このクソガキがぁ、お前の命だけでも摘んでやる……」

 獣は致命傷を負ったもののオージにとどめを刺すべく、オージの目の前に立ち塞がった。

「万事休すってやつか。」死を覚悟した。

 その時、オージの目の前に何者かが現れた。

 オージは、薄れゆく意識の中で声を聞いた。

「オージよくやった。村の人から聞いたよ。君の勇気と行動がみんなの未来を作ったんだ。後は私に任せろ。」

 声の主は窮地を救う救世主と言うにはあまりにも小柄な影だった。しかし、どこか頼もしい。まるで百戦錬磨のあの王のようだった。

 その影は、空高く舞い上がり、拳を振りかぶった。

王家の拳骨ロイヤル・ナックル!!!」

 その拳は、獣の頭上に振り落とされ、豪快な音とともに獣は、地面に沈んだ。そして、獣が纏っていた黒い煙は、どこかに消えていった。

 その姿を見届けるとオージは、気を失ってしまった。


………………………………

 ―翌朝―  

「ん〜、ジーヤァァ……ん〜……ジーヤァ!」

「おぉ、ようやく起きたな! おはよう!」

 オージが悪夢から目を覚ますと、そこには昨日の少年が、座っていた。

「何でお前がここに? いそいで王都にもどったんじゃなかったけ?」

「どうやら気を失って、記憶が曖昧になってるようだな。少しだけ説明しよう。」

 少年は王都への帰路にて一休みしていたところ、村の方角から大きな物音が聞こえたので、急いで引き返した。その道中、村人たちと出会い、村に起こったこととオージの状況をきき、オージのピンチに駆けつけたとのことだった。

「あぁ~、確かに気を失う前に、お前の声を聞いたような気が……まあ何にせよ、村の人々が無事なら良かった。ジーヤの死も無駄にならずに済む…」

 オージは、唇を噛み締めながらいった。

「それなんだが、ジーヤは一命をとりとめたんだ!まだ気を失ってはいるが、峠は越えたぞ!」

オージの言葉に涙するジーヤ

「本当か!? 本当なのか!? あぁ……良かったぁ……」

「今は村の人が何人か、村に戻ってきてくれて、君やジーヤの看病にあたってくれている。他の村人は王都で迎えるよう手配しておいたよ。」

オージは、胸をなでおろした。

「そうか、それなら安心だな、お前もありがとうな……恩に着るぜ。」

「困ったときはお互い様だ! 君は僕の命の恩人でもあるからな!」

 少年は、少しだけてれくさそうにしていた。

「命の恩人といえば、あの獣はお前がトドメを差したのか?」

 オージは曖昧な記憶を辿りながら聞いた。

「まぁね! でも君とジーヤのおかげで相当弱っていたよ、私は大したことはしていないさ! 君の勇気と強さがこの村もジーヤも救ったんだ!」少年は、答えた。

「お前何者だよ……」

 オージは腕を組み、目を細めて少年の顔をまじまじとみている。

「私はワカだ!」少年ワカは飄々としている。

「そういことじゃなくてだな……ん……名前がワカってことか??」

「うむ! そのとおり!」

「ん?? ワカっていやこのクニの王子様と一緒の名前だよな?」オージは、首をかしげた。

「そのとおり!」

「ん???」オージの首はかしげずきて、90度以上曲がっている。「つまり、どういうことだ????」

「君の言う通り、私はこのヒューマニア王国の王バシレウスの一人息子にしてワカだ!」

「はぁ~〜〜!?!?」

 オージの声は村中に響いた。

 オージは驚きの表情を隠せないでいる。

「おいおい! 何でそんな大事なこと早くいわないんだよ!」

「いや〜聞かれなかったから!」

「聞かれなくても普通言うだろ!!」

「王子は自分の素性は普通は明かさないものだ!」

「いや、にしてもだなぁ……」

 オージは、どこか納得がいかなさそうに話をつづけた。

「まあいいや……とにかくお前も俺の命の恩人であることには変わりねぇ。ありがとな! でもワカが王子なら聞きたいことがたくさんあるぜ!!」オージは驚きよりも興味がまさっていた。

「あ、でもあれか、そういや急いでるんだったよな。いつこの村を出るんだ?」

「そのことなんだけどね。……」ワカの顔つきが変わる。ワカはオージに真剣なまなざしを向けた。2人の間には緊張感が走る。

少しの沈黙の後、ワカはオージにこう伝えた。

「なぁ、オージ、君が王になるんだ。」

 オージは、言葉を失い、ただ呆然とするしかなかった。 

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