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第3話 運命の始まり 2人の出会い③

「ただいま〜、お、この匂いは!」

 オージが家に帰ると、ジーヤが作った何とも香ばしいシチューの香りが家中を漂っていた。

「遅かったじゃないか! 今日はどこまでいってたんだ!」ジーヤは夕飯の最後の仕上げをしながらどこか、呆れ顔だ。

「さぁ! ご飯にしよ! 腹へった〜」

「まったく困ったやつじゃ……さぁ手を洗ってこい! 晩飯にするぞ!」

 ジーヤがそう言うと、オージはいそいで手を洗いに向かった。

...................

 モグモグモグパクパクパク

「で、そいつに色々王都のこと聞きながら帰ってきたってわけよ。」

 オージは、シチューを頬張りつつ、今日あったことをジーヤに嬉々として話している。皿の隅に野菜が寄せられている。ジーヤはそれを見逃さなかった。

「こら、オージよ野菜もきちんと食べるんじゃ、魔法の極意は……」

「よく、よく、よくだろ? わかってるって!」ジーヤの言葉に被せるようにオージは答えた。そして野菜も飲み込んだ。

「分かっておるならはじめから食べぃ。良い心と体が魔法を作るんじゃ……ところでそのものは、なぜこんな辺鄙な場所におったのじゃ?」

 2人はシチューを食べすすめながら、話を続けた。

「んーっと、調査かなんかの帰りっていってたかな?」

「調査ねぇ、何やら不吉じゃのぉ……それにお前たちが襲われた野獣というのも少し気がかりじゃ。あの辺りの獣は極めて温厚で自分から人間を襲うことなんて滅多にないはずなんじゃが……明日にでも森の様子を伺ってみるとするかのぉ。」

「じゃあ俺も一緒についてくぜ!大体の場所は分かるからさ! ……ところでさ、ジーヤ、」

 オージは、食事の手を止め、唇をかんだ。

「何じゃ?急に改まって、」

「今日あったやつにさ、その、王都に誘われたんだよ! まあ俺も王を目指す者として、一度ぐらい王都にいってたほうがいいと思うんだよ!」オージは言葉を振り絞った。

「ダメじゃ、いつも言っておるだろう。」ジーヤは突き放すような言い方をした。

「なんでだよ! 俺だって少しは強くなったんだぜ!」

「ダメなものはダメじゃ。規模は違えど王都もこの村も大して変わらん。そうなるように我らの王が整備したのじゃ。それにお前のような小童が王都までいってどうする、高い壁に打ちのめされるだけじゃ」

オージは、そんなジーヤの言葉にむきになる。

「王都のやつが俺の魔法はすごいっていってたぞ! 王都にもなかなかいないって!」

「ワシから言わせりゃまだまだじゃ、こんな老いぼれにも勝てんやつが何が王じゃ」

「なんだよもう!どうせジーヤは俺なんかじゃ王になれないって言いたいんだろ!! もういいよ!!」

 オージは拳を握りしめ、席を立った。

「こら! オージ! そんなことはいってないじゃろ! ちょっと待ちなさい!」

 ジーヤの説得虚しく、オージは自分の部屋に戻っていった。


 「くそ! ジーヤのわからず屋!」

 オージは怒りと少しの悲しみで頭の中をグルグルとさせていた。ジーヤが、自分を心配して言ってくれていると頭の中では分かっていても、どうにもこうにも気が収まらなかった。

「こうなったら……」

 オージはカバンに荷物をつめこみ、ジーヤに悟られぬよう部屋の窓から抜け出した。

「王都にいって俺が通用するということを証明してやる……」


 オージはそのまま村をでてしまった。

「くそジーヤ……バカジーヤ……あ、手紙ぐらい書いてくれば良かったか? ……いや! ジーヤにそんなことする必要ねぇ! 絶対に見返してやる!」

 オージの意思は固い……とは言い難かったが、それでもオージは歩みを止めなかった。

「あぁせめてジーヤのシチュー、最後まで食べておけばよかったな……」

 その時だった。

 ドカーーン

 村の方から響く爆音に、オージの心がざわついた。

「なんだ今の音は!? いそいで戻らないと!」

 村の方向には何やら火の手が上がっている。

 オージは荷物を置いて村へと走り出した。



 オージは、すぐさま村に戻った。

 そこで目にしたのは昼間に襲われた野獣の何倍もの大きさの獣が村を襲う光景だった。何やら怪しげな黒い煙を纏う獣。その獣の前にはジーヤが立ちはだかっていた。

「大丈夫か! ジーヤ!」

 オージはジーヤのもとに駆け寄っていった。

「オージ! 何をしておる! みんなと一緒に早く逃げるのじゃ!」

「ジーヤを置いて逃げれるわけないだろ!」

 ジーヤは魔法を使って何とか獣の動きをおさえていた。

「あやつはオージが昼間に見た野獣か?」

「いや……姿は似てるけど、あんなに大きくなかったし、禍々しくはなかったよ。」

 その姿にオージは足の震えが止まらなかった。

「そうか、じゃあ昼間に見たのはアヤツの子どもじゃろうな、親を失って気が動転していたのじゃろ。まあよい、ここはワシに任せろ。」

「いや……一緒に戦おう……」

 震えた声で恐怖心を必死に抑え込み、体を強張らせる。

 ジーヤはそんなオージの手を握った。

「ワシなら大丈夫じゃ。オージよ、心配するでない。ワシも怖い。その震えは弱さではない。ここはワシに任せるのじゃ。それにお主には今やるべきことがあるじゃろ。」ジーヤは諭すように言った。

「やるべきこと……?」

 あたりを見渡すと村には逃げ遅れた村人たちがおびえて動けなくなっていた。

「あぁ、そうか……!」

「お主は強い。だからこそ力の使い方を誤るな。頼んだぞ。」ジーヤはそういってオージの手を放した。

雷衣ライトニング!」

 オージがそう唱えると、オージの身体を雷が覆った。

「オージよ。村人を逃がしたらみんなと一緒にできるだけ遠くに逃げるのじゃぞ!」ジーヤは最後にオージに声をかけた。

「ジーヤ……絶対に死ぬんじゃないぞ……」

 そう呟くと、オージはジーヤのもとを後にして村人たちのもとに向かった。


 雷衣ライトニングは雷の力により、元の何倍もの速度で身体を動かす魔法。魔力の消費は激しく、体にも大きなダメージが入る。たが、オージは痛みなどもろともせず、その力でオージは1人、また1人と、村人たちを抱えて避難させていった。


「ふぅ、これで全員かな?」

 オージの活躍により、被害は最小限に抑え込まれた。

「オージありがとう!」「助かったよ!」村人たちは次々にオージを称賛した。オージはボロボロになりながらもなんとか村人たちを救いだした。1人を除いては……

「それじゃあ、俺は村に戻るから、みんなはできるだけ遠くに逃げてくれ!」

「おいおい! さすがに危険だろ! 俺達を助けてくれたおかげでオージも相当弱ってる! あんな化け物みたいなやつの相手はさすがにおまえでも……」村人の1人が声をあげた。

 全部図星だった。雷衣ライトニングの体に与える影響はあまりにも大きい。魔力もほとんど残っていなかった。おそらく自分の力ではあの脅威をおさえることなんてできないと頭では理解していた。

 しかし、オージの目には覚悟が宿っていた。

「確かに力は残ってない。正直いって怖い。俺が行ったって、もしかしたら足手まといになるだけかもしれない。ジーヤだって俺が助けにくることを望んでなんかいない。でも、それでも、ここで立ち向かわないやつが、王になんてなれない。」

 オージはそう言うと、獣と戦うジーヤのもとに戻っていった。

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