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ダンス・オブ・バトルオジョウサマ②




 ◇ ◇ ◇




 アオキシティ、モッツァ邸。


傭兵ようへいやとったそうですわね」


 モッツァ家の令嬢れいじょう、レイラ・モッツァはジャイアントテエリク牛肉の赤ワイン煮込みを口に運ぶ。


「ホエイ・ヨグトルが傭兵のメロ・ユーバリを雇ったとなれば、こちらの戦力も増強する必要があるかと」


 レイラのかたわらに立つ、黒い燕尾えんび服にえんじ色のネクタイをした執事しつじ、バジル・メボークは落ち着いた声で答えた。


 美しい絵画と調度品で飾られたダイニングルームでレイラは食事をとっていた。巨大な長テーブルが中央に置かれた広い空間に、今はレイラとバジルの二人きりである。


「……先日撃破した一機とは別に、もう一機モンスタンクを抱えているそうですしね」

「メロ・ユーバリの戦績を見る限り、あなどれない相手であることは確かです。そう考え、こちらで傭兵を見繕い雇ったのですが……ご不快な点などございましたでしょうか?」


 バジルはやや頭を下げ、レイラに尋ねた。


「いえ、じいやの分析にも行動にも不満な点はありませんわ。むしろいつも助かっています。ただ――」


 レイラは口元をナプキンで拭う。


「――その傭兵の品性と実力は気になりますわね。爺やの目に狂いはないと思いますが、出来ればこの目で確かめておきたくて。味方として招き入れたことで、もしモッツァ家の名に傷がつくような事でもあればよろしくありません」


 レイラは紅茶の入ったティーカップを口元に近づける。バジルは丸眼鏡めがねのズレを直した。


「左様でございましたら――」




 ◇ ◇ ◇




「結構早く到着とうちゃくしそうだな、アオキシティ。あと一時間くらいだってよ」


 レトリバーの食堂、船内をぶらついていたニッケルはあめめながら四人掛けのテーブル席の椅子に座る。テーブルではカリオとリンコ、マヨがくつろいでいた。


「昼までまだ時間あるよね~。先に仕事の話かな?」

「しておいた方がいいだろうな。明朝みょうちょう出撃ってなると昼からは――お、オヤジ」


 テーブル席にカソックがやってきた。


「クライアントからちょっと変わった指示を受けてな。アオキシティに入る前に――」




 ◇ ◇ ◇




 アオキシティ近郊きんこう


 見晴らしのいい草原。レトリバーは走行を停止した。


 その前方に一機のビッグスーツが立っていた。白いボディに赤いアクセントカラーの入った、西洋甲冑かっちゅうのような機体――レイラ・モッツァの乗機、「アカトビ」。その近くに複数のかなり大型の輸送車両が駐車されている。


 レトリバーのクルー達はブリッジからそれらを見ていた。傭兵三人組の他にも手持ても無沙汰ぶさたなブリッジクルーやメカニック、調理師達も混じっている。


模擬もぎ戦か……まあ大企業のCEOの家である以上、外部の人間を雇うのも慎重しんちょうになるか」

「傭兵って色々いるもんね。素行そこうの悪い奴らにトラブルでも起こされたら……あ、でも模擬戦ってことは実力の方見たいのかな」


 リンコはニッケルの持ってる飴の袋に手を突っ込み、一粒取り出すと口に入れた。


「んで、一対一だろ? 誰が出るんだ?」


 カリオがそう聞いてコンマ二秒、飴を舐めながらニッケルとリンコはカリオを指さした。


「なんでだよ……!」

「タイマンと来たらおまえしかいないだろ」

「アタシ面接みたいなの苦手。がんばってね応援してるから」




 ――レトリバーの格納庫から飛び出したカリオのクロジは、レイラのアカトビの正面に少し距離を取って着地した。


 ガシャンガシャンガシャン


 そばに駐車されていた複数の輸送車両のコンテナが開く。中から現れたのは大小様々な銃などの武器。


「模擬戦用に威力を低く調整した武装ですわ。当たったところでビッグスーツにはほとんどダメージを与えません。わたくしもこの中から選びます。不都合ございましたらおっしゃってくださいまし」


 カリオは模擬戦用武装を積んだトレーラーへ近づく。


(女性の声か、やけに言葉づかいが丁寧な気がするんだけど……いや~まさかな)


 様々な銃火器が積まれたトレーラーから、カリオはビッグスーツの拳大より少し長い棒状のモノを取る。


 ブォン


 棒状の物体からピンク色の光のやいばが生成される。ビームソードだ。


「これにする」

「……銃はどちらを?」

「これだけでいい。銃は苦手なんだ、剣ぐらいしか使えなくてさ」


 レイラは少し沈黙ちんもくする。実際おどろいていた。銃を使わない傭兵だと聞かされた時の反応としては自然であろう。普通の依頼主・雇用主であれば不信・不安の感情も同時にいだくかもしれない。ただ、その点においてはレイラは違った。


「私も同じものを」


 ブォン


 レイラは同じビームソードを手にした。同様にピンク色の刃が現れる。


「私も一番好きな武装は剣ですの。銃も使えることは使えるのですが」


 レトリバーで様子をうかがうニッケルとリンコは飴を舐める口を半開きにして驚く。


「マジかよ、え、こっちに合わせてくれたわけじゃねぇよな?」

「うそー!? カリオみたいな人、他にもいるの?」




 桃色の剣を携えた両者は構えを取る。風の音だけが聞こえる静かな草原で、カリオとレイラはお互いを鋭く見据みすえる。




 ドン!


 強く蹴られた大地がえぐれ、土が舞い上がる。先に踏み込んだのはレイラだ。一瞬の内に間合いを詰める。


 逆水平!


 両手持ちで一薙ぎ! カリオは素早く構え直し、自らの左から来る斬撃を防御する。お互いの光の刃が衝突しょうとつし、らぐ。


 すきが生じぬよう、レイラはすぐにビームソードを構えなおす。カリオも素早く振りかぶり、お互いが斜め上から斬り下ろす!


 袈裟けさ斬り!


 激しい斬撃の衝突! 後ろへ弾かれた両者は地面を強く蹴り、再び前方へ飛び込み攻撃を繰り出す。


 真っ向! 逆袈裟! 横一文字! 袈裟斬り! 横一文字! 真っ向!


 次々と放たれる高速の斬撃。桃色の軌跡が薄く現れては一瞬で消えていく。


 ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォン


 両者一歩も引かずに斬撃を繰り出しつつ、相手の攻撃を回避していく。凡人ぼんじんにとっては目で追うことも難しい攻防が続く。


 ズザザザ!


 不意にお互いが地面を足でらせながら後退する。カリオは姿勢をけもののように極端に低くしてから、レイラ目掛めがけて突進する!


 逆水平!


 突進の勢いをそのまま乗せて、水平方向の一閃いっせんを放つ! 対するレイラは勢いよく斬り上げを放つ!


 逆真っ向!




 ザザン、とビームソード独特の衝突音があたりにひびく。一本のビームソードが二人の頭上をクルクル回りながら舞う。


 宙を舞っていたビームソード――レイラにはじき飛ばされたカリオのビームソードはズシャ、と音を立て、地面に突き刺さった。


 レイラのビームソードの切っ先がカリオの眼前に向けられる。カリオは両手を上げてそれを見つめながら棒立ちになる。


「むむ……!」




「うわ負けたじゃん!」

「げ、マズい流れかコレ?」


 ニッケル・リンコを含むブリッジの野次馬やじうま達がざわつく。




 数秒程つと、レイラはカリオに向けていたビームソードをろした。


(あーこれ、やっちまったかなあ……)


 カリオはため息をつきながら両手を下ろす。


「お手合わせ、ありがとうございました」


 レイラはビームソードの刃を消すと、カリオに声をかけた。


「お手をわずらわせてしまい、申し訳ございませんでしたわ。改めて今回のお仕事、ぜひあなた方にお願いしたいのですが、よろしくて?」

「む!?」




(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ③へ続く)




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