スズカ連合・アオキシティ。
大邸宅の廊下を女性と高齢の男性が歩く。
腰程にまで伸びた、癖のあるブロンドのロングヘア。前髪は作っておらず、気品のある美しい顔がはっきり見て取れる。身に
「敵の数は?」
女性は正面を真っ直ぐ
高齢の男性も品のある装いだ。黒い
「ビッグスーツ三十二機、〝モンスタンク〟一機が進軍中とのことです。出撃した味方側の
廊下の突き当り。女性の目の前で自動扉が開く。
「――制圧にはお
大きな空間が広がる。華やかなその邸宅には似つかわしくない、
その奥に立つ、白いボディに赤いアクセントカラーが映える、騎士の
「
女性――レイラ・モッツァは凛とした表情でそれを見上げる。
「
◇ ◇ ◇
自動車。
今から一万五千年程前、人類が地球で暮らしていた頃から存在する乗り物。
ときに移動手段として。ときに速さを競う戦力として。ときに財力や名声を
長きに渡り相棒として人類を支えてきた四つの車輪をつけたソレが――
地上艦「レトリバー」の格納庫に現れた。
ヨトオカ・バンババン。
その名の通りバンタイプの自動車で荷室が広い。高い品質と低い故障率の割に価格が安く、多くの街で商用・自家用問わず活躍している。
突然現れたそんなヨトオカのベストセラー車を、カリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴの三人の傭兵は無表情で見つめている。
「いやなんで
レトリバーのチーフメカニック、タック・キューが
「いや、その……今更何でだ?」
ニッケルがそう口にすると、タックは肩をすくめた。
「今までクルマ無しでやってたのがおかしかったんだよ、考えてみりゃ……そうだよ考えてみろよ。物資は手に持たなくても沢山積めるし、護衛任務だって何も徒歩でやるこたぁねえだろ。これがありゃ、クライアントもモノもある程度安全に移動できるぜ」
「そうは言うけどさ」
「そらそうだけどよ」
タイミングが被ったリンコとカリオの声に続いて、ニッケルが尋ねる。
「誰が運転できるんだよ?」
タックは首を
「……まあ、俺は出来ないけど。でもお前らはあんなデカいロボいつも動かして派手に戦ってるんだから車ぐらい運転できるんだろ?」
そう聞かれた三人は首を横に振った。
「え」
三人は真顔でいる。
「ニッケル」
「四輪で動くヤツって感覚がよくわかんねえ」
「リンコ」
「あの丸いハンドル? っていうの? あんな形のでどうやって動かすの?」
「カリオ」
「試しに乗ってみたことあるけどアクセル? とブレーキ? を踏み間違えてよ」
「嘘だろ!? いやおかしいだろうがよ!!」
タックは今日一番の大声でツッコミを入れる。
「うっさ! 何がおかしいのよ!」
「おかしいわ! ビッグスーツの
「さっき言ったじゃねえか、四輪ってややこしくてな……小さいバイクならまだ少し走れるんだが」
「便利だよな脳波コントロールってヤツ、剣の修行で身に着けた動きそのまま使えるし」
「くっそ~~~~~!!」
タックは右手で頭を押さえてかきむしる。
「じゃあなんだ? これは無駄
「む! む!」
タックの腰の下でツナギを引っ張る少女がいる。マヨ・ポテトだ。
「多分三日! 三日で覚えられるです! 運転!」
「……いやダメだからな、どの街行っても大人じゃないと捕まるからな?」
騒ぐ五人の頭の上からメカニックの一人がおーい、と呼びかける。
「艦長が呼んでるぜ。次の仕事の話があるってよ」
◇ ◇ ◇
「行先はスズカ連合、依頼主はモッツァ家」
プリントアウトされた依頼文を、レトリバー艦長のカソック・ピストンがカリオ・ニッケル・リンコの三人に配る。
「知ってる?」
「いや」
リンコとカリオがニッケルの顔を見る。
「どっちも詳しくは知らねえ。スズカ連合はエンドーシティの主導で作られた都市連合。そのエンドーシティはここから南西の近くにある。十の街が加盟してるって聞いたな。モッツァ家は……うーん、名前は聞いたことあるんだけどな」
ニッケルは知ってる情報を話してはみたものの、彼も詳細は知らないようだ。
「『イースウェイ』は知っているだろう。ラカルン
カソックが話し始めた。ラカルン粒子は
「そのイースウェイのCEOがカパナ・モッツァ。モッツァ家の当主だ。今はスズカ連合のアオキシティに住んでいる」
「うわー! 思い出したかも、いやニュースでチラっと見たぐらいだけど……」
電流が流れたかのように突然思い出したリンコは声を上げる。カリオとニッケルもうっすら思い出した様子だ。
「マジか! そんなところから依頼か」
「内容も派手だぞ。単純な敵対戦力の
「いやいやいや!」
〝モンスタンク〟という単語を聞いて三人は手を顔の前で横に何回も振る。無理もない。かいつまんで言うと、モンスタンクはビッグスーツや地上艦を軽々《かるがる》
「何回か別の
「まあそれなら……」
「……最近ムチャ振りが過ぎるか? カリオにもこの前
カソックは
「あ~……まあ流石にアレよりはマシだろ。ほら、あんな
「おお、そうか」
カソックの反応を見て、ニッケルとリンコも仕方ないか、と
レトリバーはアオキシティを目指し、
(ダンス・オブ・バトルオジョウサマ②へ続く)