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たぶんはじめてのおつかい⑤




 ドドドドドドドドド!




 暴れるソラマメの兄弟、捕まった女の人。


 マヨはほぼ条件反射でソラマメを全速前進させる。


 ――ブッ倒す。


 正義の炎を心に灯した彼女の小さな頭にあるのはその四文字だけだ。




 シュタタタ!


 一方のマロンナも、そのふくよかな体つきに似合わぬ速さで駆け出す。三メートル以上の高さがある作業ロボ同士が衝突したら、捕まれている女性が無事で済むかなんていうのは保証できない。とはいえ、生身ですぐに作業ロボのどちらかを制止することも不可能だ。今は何が起きてもすぐに対応できるように立ち回るしかない。




「うおおおお!!」


 ガンッ!


 ソラマメの体当たり! 体当たりと言うほかない。ショルダーも頭突きもクソもミソなく、真正面からまっすぐ、丸みを帯びたボディを突き出すようにして乱暴にぶつける!


 キントキは衝撃でバランスを崩すも、後ずさりしながら体勢を立て直す。


「放せそのお姉さん!」


 マヨはソラマメの両腕をグルグルと振り回しながら、のっしのっしとキントキに歩み寄る。


 キントキはソラマメと手に握っている女性を交互に見つめる。




 そして――女性を後ろの宙へ放り投げた。




「そうじゃねェー!?」




 慌てるマヨが乗るソラマメの背後から影が飛び出す。影――マロンナはソラマメとキントキを軽々と飛び越え、空中で女性をしがみつく形でキャッチする!


「わっ」


 マロンナは体勢を崩して左肩から地面に落下した。痛みに顔をしかめるがすぐにキャッチした女性に目を向ける。


怪我ケガはない?」

「ハァ……ハァ……あり、ありがとうございますっ……」


 女性はロボットの腕に振り回され息が上がっているが、一見して大きな怪我はなさそうだ。


「っていっても一応お医者さんに診てもらわないと……アイタッ!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 女性が心配そうにマロンナに声をかける。マロンナの左肩をズキズキと鈍い痛みが襲う。骨折まではしていないだろうが、今この状況ではもう使い物にならなそうだ。


「私は大丈夫。あなたはすぐに避難して。」


 マロンナは女性にそううながすと、ソラマメとキントキの方へ向き直る。年端としはもいかない子供が戦っている中、たかが左腕が使えなくなったぐらいでは退いてはいられない。




 ガゴォン!


 マヨのソラマメとキントキが互いに腕を前に出して組み合う! 戦闘用ではなくとも互いのロボが持つパワーは相当なもの。舗装ほそうされている道路がメキメキとひび割れてえぐれていく……!


「……!? おわわわっ!?」


 突然、マヨの機体がキントキの腕に上へ引っ張られ、宙に浮く。キントキの方がソラマメより、スペック上ではパワーが上で有利だ。


 マロンナは辺りを見回し、思考を巡らせる。自分では直接、作業ロボを倒すのは不可能だ。出来るのはマヨのアシスト。何か一手、状況を好転させる一手がないか。


「ぎょわあああ!」


 ドガァン!


 ソラマメはそのまま縦に半回転する形で投げ飛ばされた! 機体はキッチンカーに逆さまに衝突して、大きな金属音を響かせる。


「ンガッ……! ごほっがはっ!」


 コックピットを通してマヨの体に伝わる強い衝撃。シートに打ち付けられる背中を痛みが襲い、呼吸が乱れてマヨは激しくき込む。




 レストランの破壊されたテラス席がマロンナの目に入る。


(あれは……)


 彼女はそこに何かを見つけて駆け寄る。




 キントキはのっしのっしと歩いて、倒れたソラマメに近づいていく。マヨはひっくり返ったソラマメを起こそうとするが、同じ状況に陥った亀のように、手足をジタバタさせても元の向きに中々戻せない。


「のあああ! もうちょい! もうちょい!」


 キントキはソラマメを踏みつけんと片足を上げる――。




 シュルルルルガキッ!


 キントキの上げた足に何かが巻き付く。金属製のホース、恐らくはレストランの清掃か植物の世話に使われているもの。投げたのはマロンナだ。


 マロンナは負傷していない右腕で握っているホースを引っ張る。だが作業ロボの足を動かすアクチュエーターの生み出すパワーの方が強い。マロンナは引っ張られ、たまらず前に転倒する。


 無意味な妨害か、否。ゆっくりとキントキの体が傾いていく……。


 ガシャァン!


 不安定な体勢でいたところに、わずかながら別の方向への力を加えられたキントキは、バランスを崩し転倒した!




 キントキは起き上がろうと手足をジタバタさせてもがく。そこへ大きな影がゆっくりと近づいてくる。体勢を立て直し、起き上がったマヨのソラマメだ!


 「フハハハハ! おびえろす! 怖がれす!」


 調子に乗ったマヨが高笑いをコックピットに響かせる。ソラマメはキントキのボディを上から、その無骨でキュートな腕でガンガン叩き始めた。


 ガンガンガンガンガンガン!


 凹む茶色いボディ、摩擦まさつか何かで出る火花。


 しばらく手足をジタバタさせていたキントキだったが、ガンガン叩かれているうちにその動きが弱まっていく。




 ガチャ……ガチャ……


 一分程ソラマメに殴られ続けたキントキはもはや瀕死であった。機械だけど。ボディはボコボコに凹みあちこちから火花が出て、起き上がることもままならず、モゾモゾと寝返りを打つぐらいしかできない。


「平和を脅かすソラマメのお兄さん! これでトドメすよ!」


 マヨはコックピットのレバーを乱暴に引く。ソラマメの右腕が暴走した観覧車のようにグルングルングルンと縦回転する! 観覧車って暴走するっけ。


「おらぁああい!」


 ガゴォン!


 マヨは縦回転の勢いが乗ったソラマメの腕を思いっきりキントキに叩きつけた! 大きな衝突音と共に、衝撃でキントキの四肢が一瞬跳ね上がる。


 ガチャ……ガチャ……


 ……ガチャン


 宣言通り、トドメの一撃となったようだ。キントキはついに、動作を停止した。




(たぶんはじめてのおつかい⑥に続く)

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